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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
26/110

Episode26 昼

閑話メイン。

なかなか進みませんね……来週中には……なんて。

 時計の針が十二時を過ぎようとも、雨は収まる気配すらない。ジトっとした空気に学校は包まれて、中は少し蒸し暑く感じる。


 昼休み。

 俺たち――俺、海斗、園田――は席が二百はある大食堂の一角にて、それぞれ昼飯を頬張っていた。


 海斗は購買にて販売されているメロンパンとカレーパン……ではなく、カレイパンを食べている。カレイの唐揚げをレタスとパンに挟み、カレイの唐揚げにカレーをトッピングしたという洒落たつもりで生まれたらしい珍メニュー。もはやそれだとバーガーと呼ぶ方が相応しい気がするが購買の方いわく「カレイパン。そう、パンなのです!」なんて言われてしまい、結局は皆が折れるという良く分からない話は学校内でも何故か有名である。

 そしてカレイパンは主にネタとしての意味で好評であったりするらしい。例えば罰ゲームなどに使われたり。

 という正直あまり食べようとは思えないものを海斗は食べている。

 本人が言うには意外に行けるとかなんだとか。


 園田もまた購買にて販売されている、チキン南蛮弁当。弁当系だと購買でも屈指の人気を誇るというチキン南蛮弁当は俺も食べた事があり、噂にたがわぬ絶品なものだった。そんなものを目の前で広げられると香りといい食欲をそそってくる。


 一方俺はというと。


「ふっ、ざまぁみろ、洵……レタスくらいならくれてやろうか?」


 などとレタスだけをよけている海斗がうざい口調で言う。

 なんとなく察してくれただろうか。

 そう、今朝母さんがずっと寝ていて弁当はなく、それなら購買でも買おうかと財布を手にしていたのだが、これまた困った事に財布は玄関に忘れてしまったようだ。

 要するに俺の昼飯は無し。

 雨といい弥生の事といい、憂鬱な事ばかりなのにさらに追い討ちをかける事態に心底困って机に突っ伏していた。


「一緒に食べさせてもらってもいいか?」

「ああ、構わないよ」


 不意に背後から声をかけられ機械的に返事をする。


「ありがとう、小波」


 そう言って椅子を引く音がする。

 きっと座ったのだろう、気配が急にぐっと近くに感じられた。


「ん……?」


 聞き覚えがある……ハスキーな女の子みたいな声。


「そうか、須田か」


 合点がついて少しすっきりした。机に突っ伏したままではあるが間違えはないはず。


「ど、どうしたんだ?それに、ご飯はもう食べたのか?」


 須田は半ば困惑した様子で質問を思ったままに投げかける。


「ああ……弁当がなくてさ。おまけに財布忘れて昼飯抜きだよ……」


 とほほ、なんだか情けない。


「それは大変だな……私が作ったお弁当でよければ食べるか?」


 須田は少し考える素振りをして、それからそう言った。


「……須田の分がなくなるだろ、気持ちだけ受け取るよ。ありがとな」


 須田の申し出は嬉しいが、悪いのは俺なのだから迷惑をかけるわけにもいかない。

 そう思って俺は須田の厚意を断る。


「いいんだ、食べてくれ。そこまで食欲もなくてな……それに借りがあるから、お返しさせてほしいんだ」


 須田は少し無理をしてそうな気はしたが、ここまで言われてしまっては断るのも失礼というものだ。


「須田……ありがとう」


 俺は須田の心遣いに感謝をして可愛い包みの弁当を受け取る。


「礼はいいさ」


 そう言って須田はなんだか少し緊張した眼差しを俺に向ける。何でだろう。

 須田のお弁当はパッと見、女の子の手作り弁当、といったところだ。なんというか可愛いの一言。

 須田の女子力の高さには驚いてばかりだが、弁当の蓋を開けると俺は再び唖然とするほどに驚いた。


「……すげ」


 お弁当の中身は玉子焼きやウインナーなどの定番もの、さらには豚カツなど……そこにサラダが間を取りなす事によって彩りもよくとても映えている。それでいて偏りが少なく自然にバランスが取れている。料理をあまりしない俺でも凝っているのが見て取れた。

 肝心の味はというと。


「……美味いっ!」


 俺は素直に須田に感想を述べる。今思えば俺の周りには料理が上手い人が多いような気がする。

 今度弥生の手料理なんて……あるわけないか。食べてみたいとは思うけども。手作りの料理をいただく、それはとても偉大なイベントな気が……あ、そうか。

 今もその状況にいる事に気付いた。もう少し気の利いた事言えば良かった。


「あ、ありがとう……」


 少し照れるような仕草で微笑む須田。

 その照れ笑いがまた、数人を新しく虜にしている事に全然気付く気配もなかった。

 今日もまた告白されてしまうのだろうかと思うと、羨ましいような大変なような気がした。


 それから俺たちは他愛もない話をして昼休みを過ごした。

 そして、午後の課程が始まる。

 弥生の事が少し気がかりではあったが、どうせ今は何も出来ない事も分かっている。

 まあ、昨日は笑ってたくらいだから……大丈夫か。

 などと自分に言い聞かせてみたはいいが、結局午後の授業中も弥生の事が頭の中を渦まいているのだった。




「弥生……私は間違えていたのか……?」


 神埼家の屋敷。

 あらゆる業種の会社などに莫大な融資を行う神崎グループの名はその界隈で知らぬ者はいない。

 そしてその代表であり弥生の父、神崎高成かんざき たかなりは最高級の可動式チェアに座っている。


 高成は今になって後悔をしていた。

 娘のために不自由をさせたくない、いい人生を送って欲しい、そう思って育ててきたつもりが苦しめていたのだ。

 あんなに感情を露にしたのは弥生がまだ小学校にも上がっていない時以来だ。つまり、その時辺りからずっと弥生を檻の中へ閉じ込めてしまっていたのだ。

 後悔先に立たずとはよく言うもので、つい怒鳴るようにしてしまったのは失敗だったと今になって思っている。弥生の言葉をろくに聞こうともせず、怒鳴るようにしてしまった。どうやらいつの間にか何かを間違えてしまったらしい。

 そんな弥生を変えたのは……小波洵という、弥生の同級生なのだろうか。須田から聞いたところ、彼は普通の高校生というが。


「一度会ってみたいものだな……」


 そう呟いてコーヒーをすする。

 弥生はあまり人と関係を持たない。持ったとしても上辺だけ、深くまで付き合う人は極僅かにしか過ぎない。

 その弥生が付き合うほどの男。きっと余程のものに違いない。

 コーヒーを飲み干し、カップを台に置いておく。

 しばらくすると、高成の元へメイドがやってきた。


「旦那様、コーヒーのおかわりはどうなさいますか?」


 すうっと通る声でメイドは告げる。


「いや、いい。カップは片付けてくれ」


 そう、高成が返すとメイドは「かしこまりました。失礼致します」とカップを皿に乗せて部屋を後にした。


「弥生……」


 彼女を見届けてから、心から漏れるように呟いた一言はあっという間に空気へと溶けていった。

お読みいただき、ありがとうございます。


なんというか閑話が多くなって進んでいないような気がします。

そろそろ大詰め……なんてのも何回目でしょう。

いや、ちゃんと予定はありますので……首を長くして見ていただけたらな、と。


次回も読んでいただけたら、これに勝るものはございません。

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