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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
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Episode23 ティエルとチョコ

ティエルちゃんのキャラとか設定練り直さないといけないかも。


 去っていく洵を見つめる涙目の少女。

 彼女の中で何かよく分からないものがざわめいていた。

 初めて……ここまで本気で怒られたかもしれない。

 嫌で、鬱陶しくて、一切曲がる気配すらない……でも、何故か気になる。

 これは一体なんなのだろう。


「……小波……洵……」


 この日初めて覚えたであろう感情を、この日初めて覚えた名前を言葉という船に乗せて空へと流してみる。

 何かは分からない。でも、きっとこれは大切な物。

 それをティエル・ソフィーディアはもらった高級チョコと共にしばらく大事そうに胸に抱いていた。




  ◆


 やばいと思って走って須田の元へ戻る。思ったより時間がかかってしまったからだ。


「うーむ……」


 まだやってたし。

 小綺麗な洋服店の一角で須田は可愛らしい服を二つ手に取りじーっと眺めている。


「須田」

「うおわっ」


 後ろから声をかけてみると須田は面白いことに文字の如く跳ねた。


「脅かすな……」


 少しほっとしたような、それでいて困った様子だ。

 なんだか気弱に見える須田というのは実に面白い。というかこうなるとストレートに女の子みたいである。


「もう二つとも買っちゃえよ、気になるんだろ?」

「一つまでと決めているんだ……」


 やっぱりそれは譲れないらしい。


「いくらだ?」

「え……そ、そうだな。こっちが5800円でもう一つは2100円だが……ってそれがどうした」


 一瞬慌てふためいた勢いで須田は言うがすぐさま元に戻る。

 なんか残念。


「安い方なら買おうか?」


 2000円……まあ高いけど、無駄遣いしなけりゃ大丈夫だろう。

 高校生の財布的にはなかなか痛いのだがそんな事を言っていれば弥生の元に行くのがどんどん遅れてしまう。

 そう思うとなんだか焦りが全身を襲う。


「それは悪い、だ、だめだ!」


 再び狼狽うろたえる須田は相変わらず面白い。

 こいつこんなイジりがいとかあるんだ。


「じゃあ選べるのか?」

「…………」


 俺の言葉に反論できないのか、須田は黙りこくってしまう。正直お前ならどちらでも着こなせそうだよ。

 綺麗な紫がかった黒髪に大きな瞳で端整な顔立ちをしていて、なおかつ華奢な須田には大半の服は似合いそうである。the美形、みたいな。女の子っぽいけど。

 女装癖と弥生への異様な忠誠さえなければ今頃学校一モテそうな気すらする。ハイスペックだし。

 ……なんかイラッとするな。

 所詮俺みたいなやつは低スペックとか罵られるんで すよ、わかってますよーだ。


「そろそろ行かないと流石に遅くなると思うからさ……選べないなら俺が一つ買ってお前にやるよ」


 我ながら名案だと思う。

 出費面さえ除けば。


「……むぐ……悪い……甘えてもいいか」


 ついに須田は断念したようで、申し訳なさそうな顔つきをしながら二着を手に取りカウンターまで向

 かう。俺はその後をついていった。


「ほら、2100円」


 財布からお札と百円玉を抜いて須田に渡す。

 地味に痛いんだが……因果応報を信じよう。いつかいい事が帰ってくるんだ、多分。


「すまない……本当にありがとう」


 素直に受け取って微笑む須田の表情は、惚れる人が出てくるのも理解できてしまう程だった。

 店員さんも軽く見惚れて固まっていたくらいだ。

 そんなこんなで買い物を済ませた俺たちはやけに広いデパートから出て、雨の街を歩く。

 須田と二人で並んで歩く。それはやけに視線を感じるものだった。

 普通は単なる男同士の友達同士……のはずなんだが、須田の場合は少々異なる。

 確かに男同士で一切変わりはない。

 ただし須田の場合はその容姿から誤解を生んでしまう。確かにセーラー服だしおかしいとは思うが。

 最もおかしいのはそれを平然と着こなしている須田である。

 そのせいかはたから見れば男子と女子が並んで歩いている、そう見えてしまうのだ。

 そのせいで何か変な目で見られている気がして仕方ない。


「悪い、須田。少し距離を開けて歩いてくれ」

「あ、ああ? ……分かった」


 須田が戸惑っていたが……まさかこのような事を言うのは憚られるというものだ。

 それから黙々と歩いて、学校付近を抜け……駅前の繁華街を抜ける。

 さらにもう少し行くと住宅街にさしかかる。

 そして俺の家はこの住宅街の一角にある。

 俺たちは人もまばらになってきたところで保っていた距離を縮める。


「須田、どうするんだ?」


 そういえばお嬢様には会えないとは言っていたがここまで来ている辺り、どうなのだろう。


「……チラッとでいい、お嬢様の顔を見たら私は帰る」


 俯きながらそういう姿には自分なりの反省の色が窺えた。

 そこまで来たならもう会ってしまえよ、なんて思うけど。


「そうか、わかったよ」


 もう少しで弥生がいるであろう俺の家に着く。

 少し楽しみなような、少し恐いような、そんな面持ちで俺たちは雨音が包む静かな街中を歩いていった。




  ◆


 街中をぼーっと歩く可憐な少女がいた。

 それは道ゆく人が二度見してしまうほど。


「何してるんですか、彩楓姉さん」


 ため息をつきながら近寄る男が一人。


「わたくしはティエル・ソフィーディアですわ、玲音れおん


 ハッとしていつも通りに振舞う。

 弟である玲音に悟られたくはなくて、虚勢を張る。


「はいはい……ところで彩楓姉さんはこんなところで何してるの?」

「玲音、あなたは……もう!」


 玲音と呼ばれたイケメンは少し安心したような顔をした。

 茶髪で綺麗にまとまった顔に身長も高く、スタイルもとてもいい。

 確か玲音は見知らぬ女子に告白される事も多いのだとか。しかし一度もその恋が成就した事は無いという。どう断っているかは知らないが、きっと想う相手でもいるのだろう。


「あはは、悪い、悪かったよ、姉さん」


 玲音は爽やかな笑みを浮かべて謝る。

 これだけで惚れてしまう人がいるというのだから驚きだった。


「仕方ない、許して差し上げるわ……玲音、お土産がありますのよ」

「お、その箱……もしかして」


 玲音は顔を綻ばせる。

 玲音は感情が豊かだ。ちょっとした物事でも驚いたり、喜んだりする。それもまた、女子に人気がある一因なのだろう。

 釣られるようにティエルも顔を綻ばせて……ハッとする。


「……やっぱりあなたには差し上げませんわ……わたくし一人で楽しませていただきますわっ」


 ビシッと人差し指を立てながらそう言った。


「そんな……姉さん~」


 少しぐずりながら、どこか違う様子の姉を見て何かを感じ取る玲音である。


「姉さんは嘘が下手なんだよなぁ……」

「……何か言いましたの?」

「あはは、何もないよ。気のせい気のせい」


 玲音は爽やかな笑みで軽く受け流す。

 姉もまた、感情がとても露になりやすいのだ。本人は気付いてないのだろうけど、大半の人がすぐに気付いてしまうほどなのだ。本人は隠そうとしているため、皆も気付いてないフリをする。いつもの事だった。

 今度調べてみよう。玲音はそう誓って、この分かりやすい我儘な姉のために何かできないかと思いながら雨の中を歩んでいった。

お読みいただきありがとうございます!


ティエルちゃんがなんだかヒロイン枠になっているような気がしてなりません。

ハーレムの予定ではないのですが……あれれ?


次回も読んでいただけたら、これに勝るものはございません。

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