Episode22 洵の説教
なんでこうなったんでしょう。
予定とは所詮予定と言いますか。
物語は生き物なんだとつくづく思っています。
「須田は……どこだろ?」
異様に広いデパート内は迷子も多かったりするくらいだ。
だから「○○くんのお母様はいらっしゃいますでしょうか」みたいなアナウンスが聞こえることもよくある。
そしてその状況が今まさに訪れているに近い。
須田を探してもどこにも見当たらないのだ、困ったことに。だからといってアナウンスを頼むような真似はするつもりはない。お互い恥ずかしいし。
この前に連絡先を交換してて助かった。
須田に「チョコ買えたけど、どこにいるんだ?」と送ってみる。
と、すぐに返ってきた。
「どれどれ……」
今か?私は……と、そこには店名が書いてあった……女性ものの洋服店の。
……流石です。
わかった、行くよと送ってスマホを片付ける。
どこにあるのかと近くのエレベーターにある案内を見ると、その洋服店はすぐ側にあった。
そちらの方へ行くと……あ、いた。
須田はどうやら二つの服を見比べて考え込んでいる様子だ。
それにしても何故女装しているんだろうか。趣味にしても何かがなければ有り得ないだろう。もしかして実はオタク気質があるとか。
……ないな。
でも、海斗の家に居た辺り可能性はゼロとは言えないのかもしれないが。
「須田、悩むなら両方買えば?」
急に声をかけられた須田は若干驚きつつも、いつも通りの表情になる。
「あいにくあまり余裕はない。それに買う時は一着と決めているんだ。すまない、もう少し待ってくれ」
須田は服を見て悩みながらそう言った。
どちらもお気に入りなんだろうな。
「わかった、少し時間潰してくるから」
喉が乾いたので自販機でも探す事にしよう。
「小波……ありがとう」
小さく呟いた声は雑踏に揉まれて消えた。
……俺が自販機を探しながら歩いていると、だいぶ短くなったけれどもまだ長い行列があった。言うまでもなくあのお店の行列。
よくやったよ、俺。こんなのを待ち続けてたとは。
これで弥生が喜ばなかったら泣きたい。
「……申し訳ございませんっ! 本日の分は完売です……またのお越しをお待ちしておりますー」
メガホンか何かからの声が鳴り響いている。
危なかった、もう少しで売り切れてたんだな。
今日は運がいいのかもしれない。
……待てよ? そうなるとあのティエルなんとかさんは買えているのだろうか。
不安に駆られながらも店の方を見ると――
「どういうことですのよ!! わたくしは待ちましたわ!!」
予想的中というか。買えなかったんだろうな。
解散していく行列の先頭で店員さんに怒鳴っているティエルなんとかさん。
店員さんがすごい困っているのが見て分かった。
周りから呆れ気味に見られている事にも気付かずにティエルなんとかさんは喚いている。
「……あいつはまた…………」
店員さんがあたふたしてるのがなんだか見ていられなかったので俺は二人の元へ近づいた。
なんだか周りの視線が刺さるような気がするけどきっと勘違いだろう。
手に提げている袋のせいだとは思うけど。
俺は二人の前で足を止める。
急に来た俺に二人とも困惑しているようだ。店員さん……ごめんなさい。
「あの、ティエル……さん」
「なんですの?」
なんというか怒りの矛先が俺に向けられた気がしてならない。こいつは猫じゃらしに飛びつく猫か何かかなのか。
「……いいからこい」
「えっ……きゃ!?」
口論するのも迷惑だと思い、俺はティエルなんとかさんの腕を掴んで人が少なさそうな所まで行った。
「あなたは何ですのよ!!」
完全に怒ってしまった様子のティエルなんとかさん。
「お前な……」
さっきから無茶苦茶というか。俺はそろそろ我慢の限界が迫っていた。
「自分勝手だとは思わないのか?」
「わたくし? ええ、当然の事をしていたま―」
パチン。
気付けば俺は頬を叩いていた。もう我慢の限界を迎えてしまっていたようだ。
「―たぁぁ!? あなた、さっきから何ですの!?」
ティエルなんとかさんは少し涙混じりの声で叫ぶように言う。
「はぁ……お前さ、常識やマナーを知らないんだよな。周りに迷惑をかけてる事に気付けよ」
「……わ、わたくしは悪くないですわ!」
そう言って逃げ出そうとするティエルなんとかさんの腕を掴む。
「何でそんなに怒ってるんだよ」
「貴方に言われる筋合いはないですわ」
俺に背を向けたままでそう言った。
あー……何でこの状況で妙な所ついてくるかな。否定しにくい。
それから少しだけ、時間が空いて。
「……まあ……せっかく並んで、あれだけ待ったのに買えなかったのが……許せないだけですわ」
それから、少し震えながらやっと本心をティエルなんとかさんは打ち明けた。
「……だからと言って店員さんに迷惑かけたらダメだろ」
「仮にあなたが……そうなったら?」
相変わらず俺に背を向けて、ティエルなんとかさんは答えを求めてきた。
背を向けてはいるが、どこか困惑しているような感じが縮こまっているティエルなんとかさんから感じられた。
「俺は諦めるかな。あがいたって、騒いだって、文句を言ったって……何も変わらないだろ?」
また少しの沈黙が生まれる。
ティエルなんとかさんは息を飲んで、
「……悔しくは?」
あからさまに震えた声で、虚勢を張っているようだった。
「それは悔しいけどな」
「……そう、ですの」
「ああ、お前はもっと周りを考えろよ。自分の事しか見えてないんじゃないか?」
昨日の時も、さっきも。全て……自分勝手な我儘を思うがままにぶつけていた。
もちろんそれが許されるわけがない。
「わたくしは……わたくしは……」
必死に何かを探しているのかもしれないが、あの様子だと否定が出来ないようだ。
「まあ、そういうことだよ。……仕方ないからこれやるよ、大サービスな」
俺はチョコが入った箱を一つ置いて、その場を立ち去った。
お読みくださり、誠にありがとうございました。
次も読んでいただけたら幸いです。
ティエルちゃんがなんだか勝手にキャラが決まっていってる気がしますね。