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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
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Episode21 須田とお出かけ

須田が出る機会が増えていってる気がします。

まあ……話の展開的にそうですよね。

 放課後、しとしとと朝から降っていた雨は今も相変わらず降り続けている。

 そんな雨の中、俺は家の方向とは真逆にあるデパートを目指していた。

 まっすぐ帰ろうかとも思ったが、せっかくだからお土産……というかお見舞いの品みたいな。

 少しくらいなら奮発しようかな、という考えに至ったのだ。

 どうだ、気が利いてると思わないか?

 そりゃそうだよ、だって須田からの助言だもの。

 一部の面さえ除けばしっかりしてる良い女の子……いや、男なのだけども。ほんと見間違えても仕方ないくらいの容姿なのだから仕方がない。


「なんで私は男に告白されなくちゃいけないんだ……?」


 そしてそんな須田は俺と一緒にいる。

 一応須田は弥生の私物をいくつか持ってきてくれていたのだが、須田本人は弥生にはまだ会えないと言うので俺についてきていた。


「それは……神を恨んでくれ」


 須田は男でありながら女の子も仰天な美貌を持つせいで、男に告白されるという事が多々あるらしい。

 もちろん全て玉砕に終わっているらしいが……オーケーが出る事なんてあるのか?

 正直思い浮かばないし想像したくもないが。


「宮崎だったか……あいつ三回目なんだが……いい加減懲りてくれないか……」


 須田は毎度、誠実に対処してるらしい。よくやるよ、ほんと。

 そのせいで諦めきれない人や、さらに惹かれてしまう人が出てくるという連鎖を産んでいることを須田は知らない。


「……とりあえず……すごいと思うよ……」


 俺が男に告白されたらまず引くだろうな。

 なのに須田はまともなんだから尊敬の念すら覚える。


「……ありがとう。さて、行くか」


 歩きながら話しているうちにたどり着いていたようだ。目の前にはなかなかに高い建物が建っている。

 ここがご年配の方や主婦、学生、子供にまで、と幅広い人気のスポットであるデパート。

 もちろん俗に言うデパ地下もあって、この周辺の買い物の流行りは此処に一括されているとも言える。

 それくらいのデパート故に各店舗ごとの競争は激しく、各店舗ごとに切磋琢磨しているようで、値段は安く品物はよくなっていくという消費者としてはこの上なく良い循環を生み出している。

 そのせいで行列やらもあるのが玉にきずだが……それは仕方ないと言える。


「ああ、好みとかよろしくな」


 お土産で嫌いなものを渡してしまうなんて事態だけは避けたかった。須田にはそのためにも来て欲しかったのはある。とは言ってもそもそもここに来る予定はなかったのだが。

 須田から「お嬢様に差し入れも無しとはどういったつもりだ!!」と怒られてしまったのが原因なくらいなのだから、来てくれないと困るのだけども。

 俺たちはデパートの中を足早に歩く。この放課後という微妙な時間で外は雨が降っているのに関わらず、店内は客でいっぱいだった。


「あの行列は……はっ!?」

「どうした?」

「あの行列を見ろ……」


 言われて須田が指す先を見ると客がまぁ……ひしめき合っていた。


「あれは戦場みたいだな……」


 この時間でこれだと思うと他の時間はもう取り入る事すらままならない気がする。


「あのチョコレートは世界有数という敏腕パティシェも大絶賛されたものでな……お嬢様が是非一度食べてみたいと言っていた」


 須田は呟くように言う。

 わかった、わかったよ。


「俺はあれ買ってくるよ。須田はどこかで時間潰してていいからさ」


 そう言ってしばし須田と別れる。

 行列を再確認して……つい、ため息がこぼれた。


「……弥生のため……だな、よし!」


 弥生のために、そう考えると少しやる気が湧いてきた。待ってる間にかける言葉とか考えればいいんだし。

 俺は大蛇のような長い行列につく。ほかの売場の前を普通に埋め尽くしているのがもはや怖い。

 後一時間、なんて書いてある看板がメンタルを抉りに来るがここで折れるわけにもいかない。

 俺は軽く自分を奮い立たせ、ひたすら行列を待つ事にしたのだった。



 ……長い。

 ……長い。

 ……長い。

 列はだいぶ進み、看板にはあと十分、なんて書いてあるのだが……あからさまにさっきから止まっている。

 もしかして売り切れてしまったとか……ほんとそれだけは困るのだが。苦労が水の泡と化すのは出来ればやめていただきたい。


「おほほ!! 貴方たち、道を退けなさい! わたくしが通りますわ!」

「んん……なんか聞き覚えがあるな……」


 この、高飛車な感じ、一人称がわたくし……そうか!


「あいつだ!」


 っと、つい大声が出てしまう。

 バッと一斉に向けられた周りの視線がなんか痛い。

 列の前の方から道を退けさせながら優雅に歩いてくるのは……そう、ティエル……ティエル…………なんとかさん。

 あいつのせいで今もだいぶ収まったとはいえ足の痛みが残っている。許すまじ。

 俺が放つ妙な気配に気が付いたのか、ティエルなんとかさんはこちらに近寄ってくる。


「あら……あなたは、この前の」


 仮に忘れていたなら本気で殴るところだった。

 俺が名前すらうろ覚えなのは秘密です。


「ごきげんよう……そういえば、あなたの名は?」


 ピンクっぽいヒラヒラしたドレスを着たティエルなんとかさんは軽く会釈をしてそう言った。


「……小波洵。それより邪魔だろ、それくらい考えてくれ」


 お嬢様とかって常識ないのかなあ。

 弥生といい変わってる人が多いのだろうか。


「あら、わたくしに物申すとは……。実は私もこのチョコレートを買おうと思っていたのですわ」


 そう言って俺の後ろに着くティエルなんとかさん。

 なんでこうなるのか。


「買うならちゃんと列につけよ。順番があるんだからさ」

「……そうですわね。わたくしとしたことが……下がりますわ」


 周りの気配や視線を感じ取ったのかティエルなんとかさんは下がっていく。

 あれ? 意外に素直に下がっていったな。もっとしつこいかと思った。

 それからもう少し待って、俺はようやく四個入りのチョコレート二箱を買えたのだった。

 一箱500円。なので二箱で1000円。思わぬ出費になってしまったが、これも弥生のためと言うことで気にしないことにしよう。

 そして無事に獲物を得た俺は須田を探しに行ったのだった。

出す予定じゃなかったティエルなんとかさん登場しちゃいました。

ほんとこの子の立場に悩んでおります。


お読みいただきありがとうございました。

次回も定時投稿の予定です。

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