Episode20 梅雨の朝
思い悩むシーンが多いです。
なんでかこうなってしまうのですね……
妖精さんの仕業でしょうか、はい。すみません。
朝になり、昨日は晴れ間もあった空はまた灰色に染まり雨を落とす。空はまだまだ梅雨の気配を漂わせていた。
そんな雨の中、俺は一人傘を差して筋肉痛の足を叱咤しながら学校へと向かっていた。
弥生に行くのかどうか聞いてみたが「いい」とだけ返されたのでそのまま家にいるはずだ。
「ようよう!!」
「海斗か……」
朝からあまり会いたくないやつに会ってしまうとは……ついていない。きっと占い最下位。
「どうした、元気ないな。それに弥生ちゃんもいないじゃないか」
「色々あるんだよ、気にするな」
「そうか! 洵、さては貴様振られたな!?」
マジもうこいつ殴りたい。なんか勝手にテンション上がってる辺りもイライラする。
「違う。いいから黙れ」
「……本当にどうしたんだ?」
「まあな、でも大丈夫だよ。海斗にはそんな関係ないしな」
普通に聞かれたのでこちらもまともに返す。
あと最後にありがとな、と付け足しておく。
「アレだ、朗報があるんだよ」
「朗報……って?」
海斗が急に改まる辺り、よほど大事なのだろうか。
「なんと!」
「なんと?」
そこで急に海斗は言い淀む。
勿体ぶらなくていいのに。
「よく聞け、ゆりブラ予約完了だ!」
「そうか、ありがとな」
いやまぁ嬉しいんだけども……タイミングのせいで素直に喜びがたい。
ちなみにゆりブラってのは俺もハマっている今アツイ萌え格ゲーの略称らしい。タイトルが百合なんたらとからしいがそこはあまり覚えていない。
「仕方ないから特別に進呈してやるよ」
「お、マジか、ありがとう海斗」
うん……乗れないなぁ。冷めた反応してるのが分かるからこそ自分自身申し訳ないような気分だ。
そのくらい俺は弥生が気になって仕方ないのだ。言うから置いてきたはいいが……見守ろうと決めた手前もあり無理にでも連れてくるべきだったかもしれないなんて……それくらい俺の心は揺れ動いていた。
できるだけ弥生の言う事は尊重したいとは思うが……正直、弥生がある一言さえ言ってくれれば俺は躊躇わない。
側にいてほしい、そう言ってくれれば俺は学校なんて無視しても構わないだろう。
たとえ、仮だとしても。役に過ぎなくても。
それでも俺は、弥生の恋人なんだから。
「……おい、おい、洵!!」
海斗が呼びかける声がする。
「……ん? うおお!?」
気づかぬうちに俺は赤信号の横断歩道を渡っていた。
そして軽自動車が急ブレーキをかけていて――
咄嗟に一歩引いたのと同時に車がハンドルを曲げたおかげで激突は避けられた。
「信号赤ですよ! ちゃんと見てください!!」
ドライバーは車の窓から顔を出してそう言うとすぐに走っていく。
「す、すいません!!」
俺は頭を必死に下げて全力で謝る。
「もう……あぶねえなあ。お前さ、悩みすぎなんだよ。もう少し気楽に生きろよな」
海斗からも説教されてしまった。
「……そうだな、悪い。急ごうか」
もう少し気楽に……気負いすぎても駄目なのかもしれないな。
俺は一度傘を握りなおす。それから俺たちは足早に学校へと向かったのだった。
◆
その頃の洵の家では。
「弥生ちゃん?」
「……なんでしょう?」
「んー……朝ごはん、作っておいたから。後でもいいから食べてね」
弥生はまだベッドの上に寝ていた。
そんな弥生を気にかけてか、ドアの前で洵の母は弥生に声をかけた。
洵の母、小波絢は昨日からの弥生を見ていてなんだか懐かしく感じていた。
詳しくは知らないが何かで困っている事と、今弥生が寂しいんだという事は分かっていた。
あくまで自分は彼氏の母親でしかないのだから出来る事はほぼないと言える。
この手の問題は当人が解決しなくてはならない。
自分にできるのは寂しさを埋めてやるくらいしか出来ないのだ。それでもきてくれるなら温かく受け止めたい。
いつの間にか洵は成長していて、頼られるような事はなくなってしまった。こういう成長は嬉しさ余って寂しいものだ。離れていくような気がして、なんだか複雑な心境だった。
「なんだか……似てるわね。……あなたと私みたいだわ。……あなた、見てるかしら……洵はあんなに素敵な子になったわ、約束通り……かしらね」
絢がふふ、っと微笑む姿は年齢を感じさせないものだった。
「さて……そろそろ行かなきゃね。弥生ちゃーん、出掛けるなら鍵かけておいてねー」
それだけ伝えて家を出ていく。
これだけ手塩にかけた息子だから……きっと、どうにかする……どうにかしてくれる……そう信じて。
◆
「……あたし、悪い子になっちゃったのかしらね」
この言葉は誰かに向けたわけではなく、こもった室内にただ溶け込んでいく。
「そうだ、朝ごはん食べないと…………あら?」
弥生が立ち上がると、突然視界が揺れる。
ふらっとしたがどうにか持ちこたえて体勢を整える。
「……このくらい……なんともないわ」
弥生は部屋を出て階段を降りた。
名前を出すか悩みつつも洵の母親の名前を出すことにしました。
というわけで読んでいただきありがとうございます。
次もまた読んでいただけたら幸いでございます。