Episode2 決断
二つ目です。
キャラ名は次で出します。
読んでいただけたら幸いでごさいます。
六月。空はすかっと晴れていた。そろそろ梅雨の時期のはずが、雲ひとつすらない快晴だった。しかしどこか湿っぽさを纏う夕方の街中は夕日に照らされ映えていた。
俺はただただ街中の歩道を歩いていた。
周りにはファストフード店、レストランなど飲食店が立ち並んでいる。この通りはこういった店が多く、人がむやみやたらに多かったりする。
そんな街並みを半ば放心状態で歩いていた。
……おかげで電柱に顔をぶつけました。痛い痛い。
ぶつけた場所を手で抑えつつ、隣を見てみれば一人の小学生がランドセルをぶんぶん振りながら歩いていた。下校中だろうか、ふと、懐かしいなぁ……とか思う。
そういえば、俺は高校生だ。つい最近入学したと思えばもう二ヶ月が経つ。やっと高校にも慣れてきたところだ。
そしてなんとなくランドセルを担いで黙々と歩く小学生を見ていた俺は、どことない気配を感じ取った。
気配を感じた方を向くと、日本にはまず少ないと言える金髪の腰まであるロングにシュシュで束ねたツインテールで碧眼のちょっと小さい女の子――多分中学生くらいだと思うが――が目の前で立ち止まっている……気がする。いや、立ち止まっている。
なんというか、裕福な感じがこれでもかと伝わってくる。服とか小綺麗だし。
あれ……何故か俺の方見てない? もしかして気があるとか! いや、流石に自意識過剰にも程があるよなー。流石にそんなはずもないし、俺はこれまでにモテた試しもない。マジでそんなことあったら宙返りしながらコーラ飲んでやる。……と、脱線してしまった。とりあえず小腹が空いたし、ハンバーガーでも食べよう。
俺はそう思い、このなんともいえない状況から抜け出すためにもファストフード店に向きを変えた……と、そこで話しかけてくる。
「ねぇ」
「ん? ……何か」
ずっとこちらを見ていた金髪の美少女が話しかけてくる。
やけに通って聞こえる可愛らしい声が俺の耳をくすぐってきた。
少女は顔とは不釣り合いな大きな碧の瞳でこちらをじっと見透かすかのように見つめている。対して俺はというと目のやり場に困っている。
とにかく可愛くて直視したままでいるのはとても難しい。
それにしても、さっきから何なのだろう。実は可愛い顔したスリとかそんな……わけないか。
「あの……あたしの彼氏になって」
「はあああああ!?」
少女が小さな口から放った嘘みたいに大きな爆弾は俺の思考回路を一瞬でめちゃくちゃにする。
しかし本人はなんでもなさそうにこちらをじっと見つめたままだ。
ちょっと待て。
どういうことだ、これは。
まず俺は冴えない部類の人間で、もちろん彼女なんているはずもない。
そんな俺が、誰でも見れば惚れてしまいそうな金髪の美少女にいきなり告白された。
そうだ、きっとこれは夢に違いない。
金髪美少女なんてアニメとかの話だし、いきなり付き合えなんていう展開はもはやありえない。
俺は少女から逃げるようにしてファーストフード店へ入った。
それから、何かを適当に注文し会計を済ませて席に着く。
さっきからバクバクとうるさい心臓に落ち着いてくれとエールを送りながら深呼吸をしていると、ハンバーガーが出来たようでわざわざ席まで店員さんが運んでくれた。
「恋人役になって……か」
俺は学生の財布にも優しいお手頃価格なハンバーガーを食べながら考えていた。
何故か急にとてつもなく可愛い裕福そうな女の子(多分中三くらい)に言われたのだ。
これまで女性と付き合ったことが一度も無い俺に何を言っている。手をつなぐどころか喋るのもままならないというのに。
恋人役とか無理。大統領になっても無理。ノーベル賞もらえても無理。ごめん、言い過ぎた。
付き合った事もないのに役なんてできるはずがない。
正直、何で俺なのか、理由を聞きたかった。もう一時間くらい問い詰めたかった。しかしあの場で冷静にいる方が難しかったために逃げてきた。
やっぱりお金持ちなのだろうか。やっぱり夢なんじゃないか、きっと長い夢を見てるんだ。このご時世に金髪の美少女なんているか。
とか考えているうちにハンバーガーを食べ終えていた。
店内の時計を見ると、気づかぬうちに三十分も経っていた。
考えに耽ると時間というのは早く経ってしまうものなのかと思いながらも席を立って、ハンバーガーの包装紙をゴミ箱に捨てる。
……帰りに自販機でジュースでも買って飲むか。
ありがとうございましたー、という気だるそうな声を聞き流しながら俺は店を後にした。
それから、帰り道。さっきに比べ、少し暗くなったようだ。別に前が見えないわけでもなく薄暗いくらいで、人はだいぶ減ってきた所。
このくらいなら全然大丈夫。
とか暗示かけてました、すみません。実は暗いの苦手です。
なんて考えるくらい暇だ。しかし俺のいつもの帰り道には友達もいない。というか友達がいない。
おかげで一人で薄暗い道を帰る羽目に。
俺は自販機で買った振って飲むというゼリー入りのジュースを飲みながら歩いていた。
あまり振らなかったせいでゼリーがうまく出てこなくてイライラする。
……すると、前方から見覚えのある美少女が歩いているのが見えた。夢だと思いたかったが、どうやら夢ではなかったようだ。
相変わらず煌びやかに風に流れている金髪は、街灯に照らされさらに輝く。ただそれだけで芸術にも感じ取れるほど綺麗だった。
「ねえ」
「えと……さっきの」
「そんなことはいいでしょ……で」
その子はどうなの? と言わんばかりに俺を見つめる。
見つめられてつい、身を引きたくなるがここで引いてしまっては何の意味もない。
俺は息を呑んで、彼女を真っ直ぐに見つめ返す。
「返事は? 勿論、タダとは言わないから」
恋人役になって、ってあれか。分かってましたけどね?
そんな……すぐに返事できるかよ。正直言って把握するのにも時間がかかったのだ。
忘れてはならないのは役とはいえ恋人になるということ。
それを平然と目の前にいる金髪の美少女は言ってのける。その言の葉からは確かな自信のようなものがにじみ出ていた。
「……欲しければいくらでもあげるわ」
持っていた小さな手提げの鞄から小切手を取り出して言う。
やっぱりお金持ちだったようだ。ちくしょう。
「じゃあ……お金はいいから」
「……何が欲しいの?」
目の前にいる少し小さな美少女はきょとん、とした感じでこちらを見る。
予想以上に可愛い。照れるからやめてほしい。女の子と話すことなんて久しいのもあり、余計に照れてしまう。
「何赤くなってんの?」
「いや……その……えっと、うん。……友達になってくれないか?」
俺が紡いだ言葉が雑踏に揉まれて消えると同時に二人の間に、しばし沈黙が生まれる。
その沈黙を街灯が明るく包み込んで、まるで二人だけの空間を作り出しているようだった。
「……え?」
理解出来ない様子でまたもやきょとんした感じでこっちを見る。
可愛らしくも表情があまり表に出ない顔。
だから照れますってば。
……お金は確かに欲しい。でもいきなり見ず知らずの人にもらうのも気が引けるのがあった。
「ま……別にいいけど……本当にそれでいいの?」
頼む、と俺は手を合わせて言った。
情けない話だが、女友達というのは高校生活が始まって以来一人としていなかったのだ。
なんだか馬鹿げているみたいだが、他に何も浮かばなかったのだから仕方ない。だからといってこんな滅多にないチャンスを逃すのも勿体ない。
「そう」
ただそれだけ、目の前にいる麗しい少女は呟いた。
……僅かだが微笑んだように見えて、少しドキッとしてしまう。
笑わなくても美しい少女が笑えば、言うまでもなくさらに魅力的になる。
だいぶ静かになった通りに、不釣合いそうに見える
二人。
そんな二人を月明かりと街灯が照らしていた。
――それが、俺と彼女の馴れ初めだった。
これから少しずつ話が動くつもりです。
読んでくださった方、誠に感謝申し上げます。