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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
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Episode18 感情

弥生の話になると心理的なものが多くなっている気がします。


 なんでこうなったのだろう。


「はぁ……はぁ……奴らは……? 巻いたか……?」


 あれから逃げ回ってどうにか俺は逃げ……延びたのだろうか。

 今は繁華街の方から離れてどこかしんみりとした住宅街にいる。まさかここまでは来ないだろうと信じて来たのだ。

 というかここまで来て捕まったら腹を括ろう。そこまでする執念を買うさ。まさか、ファンというのは時にここまで恐ろしいものだと実感する事になるなんて思わなかった。

 ……それにしても、あのティエルとかいう人は何で俺を見ていたのだろうか。一人だけ浮かない顔をしていたから……とかだろうか。そのせいでこんな羽目に遭ったのだ、恨んでやる。

 なんて少しどす黒い気分に浸りつつバス停のベンチに腰掛ける。走っていたせいか疲れて動けない、少し休もうか。

 帰宅部の俺にしては何か努力賞でも授与してもいいと思える程走った気がする。足がパンパンになっていて立ちたくもない。

 ガシッ。

 と、一息つこうとしていると、背後から肩を掴まれている気がする。

 ハッとして後ろを見ると……


「捕まえたぞ!! こいつだ!!」


 まさか、いや……マジで来たのかこいつ。

 さっきは腹を括るなんて思ったが、実際に危機が迫ればそんな事は言ってられない。

 無抵抗な俺に油断をしていたのか、掴む手はいとも容易く抜けることができた。

 そして俺は逃げ出す。


「あっ!! 逃がすか!!」


 再び捕まえようと走ってくる男。体型が良さげなのが恐い。


「くっ……捕まってたまるか!!」


 俺は重たくなった足を奮い立たせて走る。

 まだこの逃走劇は長引きそうだった。




  ◆


 変わって、洵の家のリビング。

 弥生は紅茶を飲みながら、青葉も同じように紅茶を飲みながら会話に花を……咲かせていたというのは少し語弊が出るかもしれない。何しろこれはそこまで軽い雰囲気ではないのだ。


「そうなのですね……なんだか……」


 弥生の今に至るまでの経緯を聞いていた青葉は、紅茶を一口嗜める。


「そうよ。なんだか……」


 弥生もまた、紅茶を嗜めて。


「似てますね、」

「似ているわね、」

「「私たち」」


 あまりに綺麗に重なったのでつい、二人に笑いがこぼれる。

 それだけで場が少し和んだ気がした。


「……さて、どうしましょう……?」


 例え場が和もうとも、現実というのは変わらない。すぐさままた空気に重みが増してくる。


「そうなのよね……パパは……苦労してきたから、きっとあたしに幸せになって欲しいんだと思うのよ」


 弥生は思わずこんな事を話していた。

 そう、これは……昔の楽しかった頃の記憶から――

 いつの間に変わってしまったのだろう。

 時間はあらゆる物を包み込んで過去にする。そして包み込んでいくうちに変えてしまう。記憶がそうであれば、人の性格も同じく、だ。

 あの時の弥生が好きだった父親はもういないのだ。

 今は心配してくれているのかもしれないが、かえって過保護にし過ぎているのではないかと弥生は感じていた。

 家を出た時に感じた感覚はまさにその結果が証明されたようなものだった。

 これまでも、考えてみれば全てぬかりなく整えられたレールを進んでいるだけだった。

 このままだと確かに一切の不自由はしなかったかもしれないが、後悔するような気がした。

 誰かの言葉に、人生とは自らが切り開いていくものだとあったような気がする。

 それに若いうちだからこそ出来る事があるという――それが何かは分からないが――のもある。お嬢様として育てられた弥生には分からない事がたくさんあった。

 もちろん、それを知る者はほぼいない。

 それは全て檻の中でぬくぬくと育てられてきた賜物。

 弥生はそれで構わないと思っていた。少し前まで、洵に出会うまでは。

 考えれば考える程に弥生は父親への憤りを隠せない。そして同時に自分自身へも憤りを感じる。


「あのー……? 弥生さん?」


 弥生は青葉の声でふと我に帰った。


「な、何かしら……?」


 まさか、他人といる時にここまで考え事に耽るなんて……弥生には考えられない事だった。


「いえ、何もないならいいのですが……弥生さんらしくない気がして」

「あたし……らしくない? 何のことかしら……あたしはいつも通りのはずよ」


 自分らしさ。それは……一体なんなのだろう。考えても……とても分かりそうにない。何も分かってないのに、無意識に強がってしまっていた。


「はい。弥生さんは……不器用なんですね、気持ちを伝える事が苦手なんだと思います」

「待って、何のことかしら……」


 弥生の頭の中はもうわけが分からなくなっていた。

 自分自身がよく分からなくて、青葉の言う事も分からない。


「…………もう少しかかりそうですね。私はそろそろ帰らせていただきますね」

「え、ええ……また……」


 なんだか意味深な言葉を残して青葉は帰っていった。

 弥生は動揺を隠せない。こんなことは初めてだった。

 ――こんなに……揺らぐなんて。あたしには良くわからないわ……。


「洵なら……分かるのかしら?」


 弥生が投げかけた問いに答える者はもちろんいない。

 それでも、心が抑えきれずに漏れていくのを止めることは出来なかった。


「あたしは……何なのかしら……あたしに……意味はあるのかしら?」


 それは、これまでに深く考えた事がなかった事だ。

 この感情はなんなのだろう……。

 それから弥生は帰ってきた二人に声をかけられるまで、ずっと考え事に耽っていたのだった。


読んでいただきありがとうございました。


ティエルちゃんはヒロインにするかサブキャラにするか検討していたりします。

皆様のお声があればすぐに決断するかもしれません。

というわけで意見を少し求めてみます。よろしければ思う所をつづっていただけたらな、と。


また、他にも何かございましたら気軽にお願い致します。


次回も定時となります。

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