Episode17 青葉が今、出来る事
青葉ちゃん大活躍!
……なんて。
増やす予定ではなかったのですが、先に出すことになった新キャラも登場します。
青葉は困っていた。
なんでどこにいるかも分からないのに飛び出してしまったのか。
「家……どこなんだろう……?」
青葉は弥生の家を知らない。そしてもう一つ困ったことに青葉は携帯を持っていない。
もちろん、家を飛び出したのだからそんなものがあるはずもない。
連絡手段もないまま、路頭に迷っている。それが今の状況だった。
天気が良い事だけがせめてもの救いだ。
「どうしよう……あ、洵さんに頼もうかな」
唯一の手がかりである洵に頼むしか他に術がなかった。洵の家なら場所もわかる。
青葉は洵の家へと急いだ。
◆
洵の家のリビングで物思いに耽る美少女がいた。
神崎弥生は、悩んではため息をつく、というのを繰り返していた。
「はぁ……」
本日何度目かも分からないため息。さっきからため息をついてばかりだな、って自分自身思うけども……今の自分をうまくコントロールするのは容易ではなかった。
逃げ出してしまった。
そんな事実が弥生の心を蝕んでいく。飛び出たのだから、そう簡単には戻れない。着信が鳴り止まない携帯はとっくに電源を切っている。
電源をつけたら……元に戻る?
そんなことはなくて、どうしたらいいか分からなくなるばかり。
「結局あたしは……一人じゃ、何も出来ないのね……」
静かなリビングは、弱々しく紡いだ言葉も空気に溶かしてしまう。
この声は誰にも届かない……弥生の心からのヘルプだった。
洵なら……気付いてくれるだろうか。あの、冴えないけど他人のために必死になれる……どこか憎めない仮の彼氏は…………今どこにいる?
携帯で、連絡すれば……来てくれるだろう。しかし、番号は覚えていないし携帯の電源をつければまた着信だらけになるのは目に見えているのだ。
なんで洵は置いていってしまったのか。でも「側にいて」なんて言葉、言えるわけもない。だって、これまでに一度言ったかも分からない、そんな言葉を……簡単には言えるはずがない。積極的にものを言うのはあまり得意ではないのだ。
ましてや、感情をそのままぶつけるなんて事は滅多にない。
気付いて欲しかった。洵に。何も言わなくても。無理だとは分かっていても。
「……側にいてよ……ねぇ……一人にしないで……」
もう一度、届かないとは分かっていても助けを請う。
もちろんこの声もまた――
「……私なら、いますよ。弥生さん」
ハッとして弥生が顔を上げると……そこには、青葉がいた。
「私には……よくは分かりませんけど。それでも側にいて励ますくらいなら……私にも出来ます」
そう言って青葉は微笑む。
まるでその姿は、地上へ舞い降りた天使のようにも感じられた。
「青葉……何で……ここに?」
弥生の頭は真っ白だった。
「弥生さんに連絡取れないかな、と洵さんを訪ねたつもりだったのですが……何で、弥生さんが一人でここに?」
「そうね……話してあげるわ」
少しだけ気丈に振る舞う弥生。助けを求めていたくせに強がるなんて……自分でもバカバカしく思えたが、自分より辛いであろう青葉に対しての意地なのかもしれない。
「私は……聞きますから、どうぞ」
ありがとう、と軽くお礼をする。
ジュースで乾いていた口を潤して、弥生は言の葉を紡ぎ始めた。
◆
俺がぽつぽつと街中を歩いていると……
「ん? なんだあれ……」
俺の歩く先に、人集りができていた。
何かイベントとか祭りとかやってたっけ……全然記憶に無いけど。
その人集りは高校生が構成していた。主に男子。
学生服やらジャージ姿だったりとひと目で分かるくらいである。
どうせ暇な俺は、気になったので何があるのか見てみることにした。
主に男子が造る人集りを半ば強引に押しつ押されつつでくぐりぬけ、中心の方へたどり着く。
「はーい! よろしくですわ! わたくしはティエル・ソフィーディアですわっ! ティエルと呼びなさい! わたくしはイギリスからの帰国子女ですのよ! わたくし、ファンクラブを開設いたしましたわ。今入会すればわたくしのあんな写真やこんな動画も見れたりしますわよ!」
なんだあれ……。
正直驚きで開いた口が塞がらない。やべ、アゴ外れそう。
ピンク色したふわっとした短髪の、豪華そうなドレスを着た可愛い女の子がいた。背は平均くらい、胸がなかなか……いえ、何もございませんよ。やましいことなんて。
というか勧誘するにしてもその方法はいかがなものかと……。
「嘘はいいって、彩楓姉さん……」
後ろで何だか申し訳なさそうにしている薄茶の髪をしたすらっとしたイケメン。
あれはお付きとか、須田のような、そういうのだろうか。よくは分からないのだけど。美形なのが腹立つ。
「あんたは黙れっ」
一瞬声色を変えて鋭く一撃。
「がはっ……」
腹パンをいただいている所を見るとなんだか哀れに見える。ざまぁみろ。
「うおおお!! ティエルちゃん、入らせてくれー!!」
「お、俺も俺も!!」
……などと欲にかられる思春期の男子というのは分かりやすい。次々と会員が増えていってるようだ。
俺からすると実にどうでもいい。
こんな事に浮つく程、今の俺の心は軽いものではなかった。
弥生の事が頭で渦巻いているのだ。良く分からないセールスみたいなものは勝手にしていてくれ。気になったのは俺だけども。
そんな俺を不思議に思ったのか、ティエルちゃんとやらが見つめている――目が合ったから間違いない――が、正直反応に困る。
目が合って改めて分かる、あの子は弥生とか青葉と同等のクラスの美少女だ。弥生をだいぶ見慣れてきた俺が認めるんだからきっとそうだ。
それでスタイルが良いとなると……男達が群がるのも仕方がない気がする。
というかさっきからずっと見られています。顔そらしても視線感じるのですが。
そして一番の恐怖、それは……この人集りを考えればいとも容易く予想がつく。
奴らは今、ティエルちゃんとやらに夢中。そのティエルちゃんが俺をずっと見ている。そして奴らは俺に向けて嫉妬の念と共に憤りを覚える。
こうなれば奴らは結束、俺を潰せばまたティエルちゃんが振り向いてくれると考える。
つまり……俺は今この瞬間にも膨大な人数を敵に回している、という事になる。
こうなってしまったのならもう俺に残された手段は一つ。うん、逃げよう。
俺はそそくさとその場から離れる事にする。
と、十数人が逃がすまいと俺を追いかけてくる。
「待て、俺は何もしていない! 見逃してくれ!」
殺気を感じた俺は一目散に逃げる。この数はどう考えても酷い目に遭うのがわかっていた。
「逃がすか!! ティエルちゃんの視線を一人占めするなんて許せん! お前ら、行くぞ、追いかけろ!!」
とか集団の一人が高らかに叫んでいたり。
その号令に奴らも高らかに叫んで……全力で追いかけてきた。
やばい、実にやばい。
「だから俺は何もしてねええええ!!」
俺は奴らから逃れるため、ただひたすらがむしゃらに走って逃げるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回もまた読んでいただけたら、と思います。
弥生の話もだいぶ引っ張ってますのでそろそろ……なんて思いながらゆっくりです。力不足ですかね……。