Episode15 海斗の家にて
ネタ回、な感じになります。
男だらけですね……なんかすいません。
とりあえず外へ出た俺はあまりに暇なので海斗の家へ向かっていた。
といって間違いはないが、実は海斗からすぐに家に来てくれ、という連絡があったからだった。
どうせまたろくでもない事なんだろうな、とか思いつつも歩いているうちに海斗の家に着く。
インターホンを鳴らすと、可愛らしいキャラがプリントされている服を着ていたりと、いつも通りの格好の海斗が出てきた。流石というか。
「待ってたぜ。客がいるんだよ、入っていけ」
「ああ……ありがとう、お邪魔します」
客なんて……いるのか? こいつに。
海斗の性格的に、友達なんてものはほぼいないだろう。むしろなんで俺は友達なんだろう。
高校に入った当初の俺は何かを間違えてしまったみたいだ。後悔しても遅いけど。
玄関を抜けて廊下を渡り、部屋へ行く。
ドアになんかポスターが貼ってあるがもう見慣れてしまっている。
だってもっとすごいものがあるんだから、このくらいなんてことはない。
「先に待ってな、仕方なく飲み物とかをくれてやるよ」
「ありがとな、先に部屋にいるよ」
海斗が行くのを見送ってから、俺は異様な気配を醸し出しているドアを開けて部屋へ入る。
相変わらずのオタクの部屋というか……ポスターにフィギュア、抱き枕カバー……etcという痛い事この上ない部屋にこれまた異彩を放つ人がいた。
二人いて、一人はまるでカモフラージュでもしているかのように溶け込んでいた。
そしてもう一人は――
「小波! 話があるんだ」
一見美少女、中身は男。そう、女装が趣味という、弥生の執事、須田がいた。
それにしても何故海斗の家にいるんだろうか。
「須田……ごめん、俺帰るよ」
俺は逃げ出した。弥生があんな状態なのが須田に知られたら俺はどうされるか分からない。ただ怖かった。
「待て!!」
須田は俺の服の襟を掴んでくる。
そうはいかない、俺は行くんだ。
俺は掴む須田の手を払い除けて部屋から出る。
廊下を駆けて家から出ようとした、その時。
ジュースを注いだコップを持った海斗が現れて――
「ちょ!? 海斗、どけぇぇぇ!」
「できるかバカぁぁぁ!!」
言うまでもなく俺たちはぶつかった。
ぶつかった衝撃で海斗が持っていたコップの中身が俺の服にかかる。
「うおわっ……服が!」
「俺は悪くねぇ、廊下を走るやつが悪い」
ごもっともです。反論できません。
俺が再び動く間もなくガシッ、と今度こそ須田に捕まった。
「小波、大事な話があるんだ……何もしないから、話を聞いてくれ……」
そう言う須田はいつになく本気の表情だった。
「分かった、聞くから……手を離してくれ、服が伸びる」
「あ、ああ……悪い」
「海斗」
「何だよ、俺は忙しいんだ」
海斗は床に溢れたジュースをティッシュで拭いている。
「拭くのは俺がやるよ。服を貸してくれないか?」
流石にジュースがかかった服で居たいわけがない。甘い匂いがするし、なんだか気持ち悪い。
「仕方ねぇな……待ってろ、貸してやるから」
「海斗、ありがとな」
俺は海斗からティッシュを受け取り、床を拭き始める。それと同時に海斗は部屋へ服を取りに行ったようだ。
それにしてもなんか綺麗に拭き取れないな。
「須田」
「何だ……?」
床をゴシゴシと拭きながら須田を見るとなんだか怪訝そうな顔をしていた。まるで、何かを隠しているような。
「謝らなきゃいけないんだ」
「……私もだ」
「えっ……?」
須田が俺に謝る事なんて……あっただろうか。不思議で仕方が無い。
「分かった、後でお互い話そう」
「……ああ」
須田はそっと返事をした。
俺たちが部屋に戻ると、海斗ともう一人の人があの萌え格ゲーに奮闘していた。
「服はそこの机にある、それでも着ておけ」
とか言いながら相手に技をかます海斗。流石というか……やり込んでる感じがすごい。
言われた机の方を見ると……
「……」
「小波……着るのか?」
「……一応」
置いてあった服は……よりにもよって、巨乳な女の子のキャラがなんとも言えぬ顔で口に指を当ててこちらを見つめている、そんなものだった。
ハードルがとてつもなく高いのが言わなくてもわかる。こんなの着れるか。
「着たくないならいいぞー」
悪魔め。お前絶対に許さないからな。
「ええい! こうなったらもうやけだ!!」
背に腹は変えられぬ、というがまさにそれというか。
着てみたはいいがとんでもなく恥ずかしい。
妙に汗臭いのは仕方ないと諦めることにした。
「よし!!」
「なん…だと…今の場面での暴れの中段は読んだが……それからのキャンセルで下段で崩してくるとは……さらに4kコンボだと……」
とりあえず用語並べられても困ります。
というかあの人すごいな、ほんと冴えないというか海斗に似たものを感じるのだが。黒髪で無造作でメガネをしていて細身な体。
「園田……貴様いつの間にそんなに上達したのだ……解せぬ、再戦だっ!!」
「いいですよ、やりましょうか……」
園田って言うらしい。まあいいや、放っておこう。その方が都合がいい。
「須田、場所を移そう」
「……ああ」
もしかして須田はこんな空間に俺が来るまでいたのではないかと思うと同情してしまう。
「海斗、少しリビング借りるよ」
「好きにしな、どうせ親は今日は帰ってこないらしいからな……って園田、貴様!そのタイミングで昇龍は酷いぞ!!」
「皐に言われる筋合いは無いですよ。無闇にジャンプするから狩られるんですよ」
園田とやらは済まして返す。
どうやらなかなかの手練れのようだ。今度お手合わせ願おうかな。
「貴様ぁぁぁ! 許さん、我が嫁であり最凶と謳われたステファたんで貴様を徹底的に潰してやる!!」
……放っておこう。
ちなみに、海斗の使うステファ、とやらはもはや異次元な領域だったのを覚えている。確か本人曰く「弱キャラと言われるが愛でカバーしているのだ」とか。その努力か愛が叶ったのか、そのキャラでの対戦レートが全国トップクラスらしい。
話が逸れた。
俺と須田は熱くなってる海斗たちがいる部屋を出て、リビングへ行く。
リビングは海斗の部屋のように散らかったりしていない。多分親が綺麗にしているのだろう。
テレビがあって、ダイニングテーブルがあり、少し離れてテーブルがもう一つ、さらにそのテーブルを囲むようにソファがある。
俺たちはテーブルを挟んで向かい合うようにしてソファに腰かけた。
二人の間になんとも言えない空気が立ちこめる。緊張してきた。きっと須田も同じに違いない。
「……どちらから言う?」
その空気に圧されながらも、抗うように須田が弱々しく言った。
「……俺からいうよ、というか……言わせてくれ」
固唾をのみ、一度大きく息を吸って……俺は須田を見つめた。
読んでいただきありがとうございます。
次はシリアスな回になります。
次回も読んでいただけたら幸いでございます。