Episode107 頼まれ事
だいぶ前回の更新から経ってしまいましたが、更新しました。
相変わらずの世界でまったり進んでいこうと思います。
執筆はまったりじゃなくて、どんどん行きたいですけど(汗
「やっべ、完全に忘れてた」
朝、学校に着いた俺はティエルの言っていたことをふと思い出した。
玲音に話を聞かないといけないんだった。
多少慌て気味に教室に入ると、いつも以上に教室内は騒がしい。
「……園田がまた騒いでるだけか」
数人の女子たちの前で、また何かを語っている。
これが海斗だったら、誰一人聞かないんだろうなぁ。
「でね、今度こそ見ちゃったわけで……」
「わくわく」
「女の人が……みたいな?」
「女の人ってのはありきたり感があるよねー」
「聞いて驚かないで。なんと……それは男の人だったんだよ!」
何かを高らかに言っている。
また、怪談話だろうか。
もしかして昨日も見たのかもしれないな、あいつ。
暇だから適当に耳だけ傾けて、寝たフリでもしていようか。
あ、玲音探さなきゃいけないんだった。
「えっ、男!?」
「それで、何も言わないままこちらに近付いてきて。間違いなく、ここの制服なのは確かなのだけど……顔は見れなくて」
「ええ、こわっ」
「園田くん、霊感あるんだろうね」
何か話しているが、俺はやることがあるんだ。
だから玲音がいるクラスに早く行かないと。
「あ、ホモの小波くんだ」
「いや、ホモじゃないからね!? やめて、そんな目で俺を見ないで!?」
しかし、俺が立ち上がると女子の一人が俺にあらぬことを言ってくる。
周りの視線がどこか痛いのだが違うからね、違うんだからね。
「あ、実は昨日も見ちゃって。なんなら、話聞きます?」
「悪いけど、急いでるからまた後でな」
霊の話に関しては少し気にならなくもないが、それより今はティエルの頼みを優先しなくてはいけない。
やると決めたのだから、やりきらないと。
教室を後にして、四組にやってきた。
確かここに居たはず。
「……ん、なんで四組に来てるんだ? 珍しいな」
「誰かと思えば須田か。お前もこのクラスだったのか」
声をかけられて、そちらを見ると須田が読書をしていた。
同じクラスなら頼めばよかったな。
「お前もって……人探しか?」
「山吹玲音って、わかるか?」
「ああ、あのティエルと双子の弟だったか」
「そうそう。見てない?」
「まだ来てないな。小波が呼んでいたと伝えておくよ」
「そうか。助かるよ、ありがとう」
「気にするな。用があるんだろうから、そのくらいはな」
須田に礼をして、俺は自分の教室に戻る。
そんな俺を待っているのはなんとも言い難いものだった。
「あ、ホモの小波君が誰か掘ってきたー」
「だからやめて!? そんなことしないから! というかホモじゃないから!!」
戻って早々この扱いというのは酷いと思います。
どうしてこうなったんでしょう、ほんと。
「いや、流石に引くわ……それはない……いやでも、超絶可愛い男の娘ならワンチャンあるか……?」
「お前に言われたくもないしお前の方が危ないからな、海斗」
男の娘なら許すとか言いそうな辺り、完全にこちらのが危ういと思うのだけど。
「……洵さん、そんなっ……」
「鵜呑みにしないで!?」
何故青葉にまで哀れみるような目で見られなくてはいけないのか。
ついでに、同性愛自体は悪くは無いと思います。
ってことを言ったら余計ホモとか言われるので絶対に言わないけどね!
「あはははは、小波君からかうの楽しい」
あまりのおかしさに笑いを堪えきれなかったのか、声を上げて笑いながらそんなことを言う。
「あのさぁ……人で遊ぶなぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃーこわーい」
「……絶対思ってないよな」
棒読みの限りを尽くしてるような声だった。
ふざけられてるなぁ。
「も、もしかして……怖さを思い知らせてやるとか言って襲ってくるの……?」
「そんなこと言ってないよ!?」
震えた声で、身を守るようにそんなことを言ってくるのだが、これもまた違うし先程よりさらに危ない。
男を掘るよりかはその方がいいけど……ってしないよ、犯罪になるし。
「言ってないだけで、しないとは言ってないよね?」
「するとも言ってないよな?」
「くっ、いつになくうまく返してきたな小童が……」
「何か黒いんだけど!?」
眼鏡の女の子は悔しそうに下唇を噛んでみせた。
小童って……いつの時代の人なんだろう。
「まあいいわ。許してあげるから、また今度出直してきなさい」
「なんかめちゃくちゃじゃないか……」
なんだか調子が狂うし、疲れて仕方ない。
ふと、教室に学校の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「ほらほら、早く席着かないともうチャイム鳴ってるよー」
「誰のせいだと」
「えー? 誰のせいですって?」
「いででででっ!? ものさしで人を刺すな!」
彼女は俺の横腹に嬉々としてものさしを突き刺していた。
思いの外、ものさしソードは痛い。
「あら? ほら、早く戻りなさいよ」
「お前なぁ……」
チャイムが鳴ったのは確かなので、やむを得ず席に戻る。
本来なら苦情をこれでもかと述べたいのだが時間が無い。
「洵さんはどうしてそんなにモテるんですかねー」
「あ、青葉……?」
「なんでもないですよー」
青葉にすごい白い目で見られている。
ホモ呼ばわりにものさしで突かれるというろくでもない目に遭っているのに、踏んだり蹴ったりで泣きたい。
「ほら……泣きたいなら泣けよ」
海斗がそっと、キャラがプリントされている小学生が持っていそうなティッシュをくれた。
「海斗……お前……」
「困った時は、お互い様だろう?」
「そう、だな……」
妙に海斗が優しい気がする。
いや、元々こんな奴だったのかもしれないな。
こうして付き合ってるうちに忘れていたのかもしれない。
そうだ、海斗だっていい所の一つや二つくらい──
「というわけで、今度手伝ってくれるよな」
「え」
「いや、ちょっと俺一人じゃ厳しいんだ。だから人手が欲しい。そして……困った時はお互い様、だろう?」
海斗はしてやったり顔でこちらを見ている。
ああ……殴りたい、この笑顔。
「……一瞬でもお前に期待した俺が馬鹿だった」
「クーリングオフは適用外となっております」
「じゃあ賠償として殴らせろ」
「殴りながら言わないでくれまいか!?」
「悪い、手が滑った」
「全力の握り拳だったよねぇ!?」
少しすっきりした所で担任の佐伯先生が入ってきて、朝のショートホームが始まる。
結局、青葉の機嫌は変わらないようだった。
それから各休み時間、俺は教室で待っていた。
その理由は簡単、玲音が来ないかと待ち受けていたのだ。
しかし、玲音が現れることはなく、結局無駄に時間を過ごすだけなのであった。
そして昼休み、すっかり寒くなってきているのにも関わらず、弥生と屋上でお昼を共にしていた。
「な、なぁ……寒いからやっぱり戻らないか……」
気温はそこまで低くないそうだが、あいにく屋上は風通しもよく、想像以上に寒い。
「あたしは寒くないけど?」
「ばっちり防寒具着けてればそりゃあ寒くないだろうな」
制服の中には学校指定のカーディガンを着ていて、それでかつなにやら温かそうなパーカーを着こなしている。
さらには風避けに須田が動員していた。
「須田もよくやるよな……」
「お、お嬢様のためならば……こっ、このくらいはた、容易いっ!!」
「さっきから声震えてんぞー」
相反して須田はカーディガンも着ていなければパーカーもなく、風に煽られながら一枚の板を手に立ち尽くしていた。
せめてスカートくらい着替えればいいのに。
「しかし……だいぶ少ないですねー」
屋上を見渡して青葉がぽつりと呟いた。
学校でも指折りの美少女たる弥生に、人気急上昇中の青葉、見た目は満点の女装男の須田がいれば、もっと賑やかであってもおかしくはない。
しかし屋上に人はまばらだった。
「そりゃあ寒空の元で好んで外に出る奴なんて……」
つい、弥生の方に目がいってしまう。
あ、目が合った。
「……文句でも言いたいのかしら?」
「いえ、滅相もございません」
「……人避けよ、静かでしょ」
「風の音がうるさくて何も静かじゃないと思うのですが」
「あたしは気にならないわよ?」
「私も慣れてますからねー」
「……強いな二人とも」
まあ弥生は風避けがあるから何とも言えないんだけど。
「うおおおお! 私はこの程度は負けたりしないからなぁぁぁぁ!!」
なんて強風に立ち向かう須田が勇ましく、そして可哀想だ。
まあいいや、頑張れ。
「そういえば、話は済んだの?」
「え? あ……」
突然、弥生が話しかけてくる。
慌てて卵焼きを落としてしまって俺は悲しいです。
「……捨てるの手間ね。あーあ、青葉ったら卵焼きこぼしちゃって。何をしてるのかしらねー」
わざとらしく弥生が大きな声で言う。
すると、凄まじい勢いでこちらに飛び込んでくる……海斗の姿があった。
「青葉様の食べさしと聞いたら、黙ってはおれん!! 三秒ルールなど知るかぁぁぁ!! 青葉様待ってくだされええええ!!」
「気持ち悪……」
青葉の会心の一撃は見事に回避し、海斗はそのままの勢いで卵焼きを掴む。
気味の悪い笑みを浮かべながら海斗は卵焼きを口に入れると、颯爽と屋上を去っていった。
「……色んな意味で流石だよな」
「試しにやってみたら成功したわね。手間が省けて助かるわ」
「新たな利用方法……なるほど」
「青葉、それは学ばなくていいと思うぞ」
納得したような青葉がいやに不安で仕方がない。
まあ海斗としても幸せっぽそうだからそれもいいのかもしれない。
「それで、話は? ティエルの弟さんと話があるんでしょ?」
「あ、ああ……って、なんで知ってるんだ」
「細かいことは気にしちゃだめよ」
「細かくはないと……」
「口ごたえしない」
「はい」
ぺし、と弥生に顔をはたかれる。
痛くはないだけいいか。
「なんならついて行ってあげるから。ほら、行くわよ」
「え、ちょ……急すぎないか」
「そんなこと言って先送りにしてたら終わらないわよ」
「それはごもっともです……」
「ほら、早くして」
「女の子を待たせるのは良くないと思いますよ、洵さん」
二人はすぐにでも行ける様子。
二人とも一体いつの間に片付けたんだ……。
「わかったわかった。さ、行こう」
「わざわざ冷えるとこにいる意味もないものね」
「飛んでるともっと冷えるので割と平気ですよー」
飛ぶ人がまずいないことに関しては突っ込まない方針でいいよね。
二人に急かされるようにして、屋上を後にする。
玲音を探しに、あと暖かさのために、俺たちは校舎へと戻った。
「お嬢様ぁ、お待ちくださいいいいっ」
……須田、頑張れ。




