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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
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Episode10 再度捜索、そして願わぬ対面

金髪と銀髪、どちらが好みでしょうか。

私は断然金髪派だったりします。

関係ないですね、それでは……

 早朝。夜中もずっと降っていた雨は止み、大きな屋敷にも眩しい光が差していた。


「弥生」

「何?」

「お前はうちの後継なんだ、そろそろ考えてみないか?」


 男に写真を渡されるが、それを弥生は即座に破り捨てる。


「ば……」

「どっか行ってよ」

「や、弥生、お前は――」


 バタン。

 弥生は無視して部屋に入った。


 …………どうしよう。

 このままじゃ――

 そんな時、スマホのバイブが鳴る。

 見てみると、小波洵の文字が映っている。

 ……とりあえず出てみよう。洵からかかって来たのだから何か話があるに違いない。それに今は違う事を考えていたかった。


「……はい」

『もしもし』


 洵の声が聞こえる。その声にはちょっと安心したような、でもどこか焦りが感じられた。


『……あのさ、弥生に折り入って頼みがあるんだ』

「あたしに……?」



  ◆


 ここは交番。いかにも街中の交番って感じの場所だ。交差点を抜けて少し行った先にある。道が開けてはいるが人通りが少なさそうな雰囲気がしていた。

 わざわざ来たのはもちろん、小鳥遊さんの鈴が無いかどうか。落し物にあるかもしれない。そう思ってダメ元で来たのだ。


「この頃のだと……これだけあったよ、この中にありそうかな?」


 見せてもらった落とし物の鈴は3つ。

 一つ目は大きな熊避けの鈴っぽい。これは違うな。

 二つ目は小さい鈴である。鳴らしてみたがあの時に聞いた音とは違うものだった。

 三つ目、これも小さめの鈴である。鳴らしてみると音も似ている。さらに紅葉をかたどったストラップが付いていた。

 

「っ! これだ……」

「探し物はそれかい?」

「はい、多分」

「ま、多分でももらっていいよ。どうせ落とし物なんて財布とかじゃないと皆諦めたりしちゃうからね……おかげで物が溢れ返ってるんだよ」

「そうなんですか……」


 だからとはいえもらって良いのかよ。

 ともかくそう言われたので俺はこの鈴をもらう事にしておまわりさんに礼をし、交番を後にした。

 そして俺は急いで家まで向かう。少し走り、人気ひとけのない場所まで来た。

 するといきなり車のミラーにでも反射したのか、光がこちらへ差した。

 そして俺は気づく。目の前の異様な光景に。

 俺は驚きのあまり、口がぽかんと開いたまま閉まらない。


「……た、小鳥遊さんに弥生が乗ってる……?」


 二人は気づいたのか、俺の方へ急降下する。


「あ! 止まれないー!!」

「……え? えええ!?」

「洵……受け止めてね」

「うおわぁぁぁ!!」


 俺は減速しながらも突っ込んでくる二人を半ばやけで受け止めるが、勢いに押されて思い切り倒れた。


「いてて……」

「いたた……」


 気づくと、小鳥遊さんが俺の上に倒れている。

 ……何かすごく恥ずかしい。顔が熱くなる。体が……触れてて、感触と言いますか……。

 嬉しいなんて思ったりするのはきっと男のさがに違いない。


「きゃああ!?」


 気がついた小鳥遊さんは羽で俺をバシバシ叩く。

 驚きと照れで冷静さを無くしてるのだろうか。にしても羽って意外に痛い。


「いだだだ!? ちょ、小鳥遊さん、落ち着いて!!」


 バシバシ叩かれながらもどうにか落ち着かせようとしてみる。

 問題が小鳥遊さんの上に弥生が乗っているので、動こうにも重くて動けない。


「痛いって!! 小鳥遊さん、落ち着け! あと、弥生は早く降りてくれ!」

「はいはい」


 弥生が降りたのを確認した後、俺は羽で叩かれるのを防ぐために羽ごと両手で、暴れる小鳥遊さんを押さえこんだ。


 結果的に今の状況を客観的に説明すると、俺が小鳥遊さんを抱き締めているように見える。

 動けない小鳥遊さんは一瞬、落ち着いたようだったが即座に抱き締められている事に気付き、顔が真っ赤になる。

 パシャ。

 シャッター音が聞こえる。俺はハッとなり、音がした方向を見た。


「……良い写真が撮れたわ」


 いつの間にか弥生は俺と小鳥遊さんを撮っていた。その余裕があるなら助けてくれよ。


「や、弥生、お願いだ、消せ、いや、消してください!!」


 嫌、と楽しそうに笑う弥生。 ついでに小鳥遊さんは動かなくなっている。銀色の眩しい頭からは湯気が出ていた。

 とりあえず俺は気絶(?)している小鳥遊さんを家まで連れていくことにしたのだった。



  ◆


 洵の部屋。

 部屋には沈黙が漂っていた。

 この部屋には二人。

 銀髪のおかっぱの女の子は小鳥遊青葉と言うらしい。 背中に羽があるのがとても気になる。

 洵に頼まれた事は「母さんが来ると面倒だから入らないように見張っていて」という事らしい。

 しかし……お互いに初対面な訳であるから、話すのも辛い。

 元来弥生はそこまで話すようなタイプではないから尚更である。

 早く洵が来てほしいのだが……帰ってこない。


 ついでに弥生は洵の母親と面識は無い。

 だから家に入るのも緊張したが、どうやら寝ているらしく気付かれる気配は無かった。

 おかげで無事に入れたのだがこの状況である。


「あの……」

「何かしら?」


 初対面の人と話すのは神崎グループが投資をした企業から招かれてとか、そんな感じで何かしらとパーティーに行くために慣れている。

 しかし話しかけるのは得意ではない。大体が相手から挨拶したりしてくるから、それに慣れてしまったせいで自分から声を掛ける事が苦手なのだ。

 今も同じだ。なのに、何故か緊張してしまう。


「小鳥遊青葉と申します。青葉か、小鳥遊とでも」


 よろしくお願いいたします、と頭を下げた。

 青葉と呼ぶことにしよう。なんとなく、そう思った。


「知ってるわ、あたしは神崎弥生。よろしくね」


 はい、と青葉はもう一度頭を下げた。

 弥生もつい、つられて頭を下げる。

 わかった。なんで緊張するのか。普段パーティーで挨拶を交わすような相手は大体年の差がある。

 しかし目の前にいるのはほぼ同年代の女性。だから慣れないのであろう。

 とりあえず苦手ではあるが、勇気を出して話題を振ることにした。気になる事でもあったから。


「で、その……羽? かしら……は何?」

「羽です」

「……飛べるの?」

「はい」

「へぇ……」


 そうか、あの時の。まさかこんな所で会えるとは思ってもなかった。

 なかなか興味がひかれるものだ。


「あの……乗ります?」


 ……そして、さっきに至る。




「そうだったのか」


 弥生はコンビニ弁当を食べながら頷く。お昼の時間も近くなっていたので途中でコンビニに寄ってお昼ご飯を買ったのだ。お嬢様がコンビニ弁当を食べているのはなんだかシュールに見えた。

 俺は弥生に経緯を説明してもらい、やっと事情を理解した。先ほど目を覚ました小鳥遊さんは俺の方をチラッと見てはそっぽを向く。さっきの事があったのだから仕方ないか。俺もなんと言えば良いのか分からないし。

 というか外出しにくいのではなかったのか?

 ……よくわからない。


 とにかく、一つ打開策はある。


「そうだ、これ」


 俺はポケットから鈴を取りだし小鳥遊さんに見せると予想通り、目を輝かせている。


「交番でもらってきたんだ。違うかな?」

「見せてください」


 と、小鳥遊さんはひったくるようにして鈴を俺の手から奪いとる。

 じっくり眺めて、よく観察している。

 そして一度、深いため息をついた。


「よく似てますが……違います。私のは……ストラップの裏に、書いて……あるんです」


 小鳥遊さんはそこまで言うと急に黙って下をむいてしまう。


「えっ……」


 急に黙ってしまった小鳥遊さんの白い頬には涙が伝っていた。


「洵が泣かせた」


 パシャ。

 弥生はまた写真を撮っている。いい加減にしなさい。


「絶対見つけるからさ、とりあえず落ち着いて……」


 理由は分からないが、止まらなくなってしまってひたすら泣きじゃくる小鳥遊さんをどうにか元気付けようとする。

 しかし意味は無さそうだった。


「弥生……悪い、小鳥遊さんの事は頼んだ」

「え?」

「ちょっと出掛けてくるよ」


 そう言い残して俺は部屋から出る。

 母さんが起きてないかを確認、まだ寝ているようなので少し安心した。

 さっきの服は背中が倒れた時に濡れてしまったので代わりの服に着替える。

 感情に駆り立てられ、俺は鈴を探しに家を飛び出した。



 勢いで飛び出したまでは良かったものの、俺は路頭に迷っていた。

 一応、今回はレインコートと傘を持ってきたため、雨が降ってもどうにかなるだろう。

 しかし、鈴を落としたはずの辺りは前に探し尽くしてしまいどこを探せばいいのかさっぱりわからない。

 そうだ。あいつを、海斗を呼ぼう。人手は一人でも多い方が良い。

 俺は海斗を呼んだ。




 日がだいぶ傾いてきた頃……


「ったく、仕方ねぇな」


 見つけりゃ青葉ちゃんは俺のものだ、なんて言いながら手伝ってくれている海斗。

 手伝ってくれているのはありがたいが、下心が見え見えだぞ。

 俺たちは落としたはずの辺りをもう一度くまなく探している。

 もしかしたら見落としていたかもしれない。そんな僅かな可能性にもすがるしかなかった。


「ほんとにあるのか?」

「あるはずだよ。絶対見つけなきゃな……」

「何!? 二股だと!? しかも二人揃って美少女なんて、俺が認めん!!」


 そんな事一言も言ってません、海斗さん。

 しかも違う。弥生は恋人のフリだし。


「小鳥遊さんが辛そうだったから、見つけなきゃいけないかなーって」

「お前に青葉はやらん、青葉は俺のものだぁー!!」


 いやいや、お前のものでは無いだろ。というか会ったこともない人を呼び捨てにするな。


「絶対先に見つけてやる!」


 どうやらかなり必死で探しているようだ。

 競争するつもりはないけど……。

 これなら大丈夫だろう。

 ああ言って飛び出したからには見つけるまではとても帰れそうにない。今更ながらに後悔してる。


「よし、頑張って見つけよう」

「言われなくても頑張ってらぁー!!」


 はい、適当に草をかき分けているのがとてもそうとは思えませんよ。

 そんなこんなで俺たちは小鳥遊さんの鈴をひたすら探し続けるのだった。



  ◆


 一方、洵の部屋。


「わ、私も、探します」

「ダメよ」


 出ていこうとする青葉を弥生は引き止める。


「何でですか!! 私のためにわざわざ探してくれてるんですよ、なのに、私が探さないなんて……指をくわえて見ているだけなんて、おかしくないですか」

「それでも……ダメなの」


 弥生はゆっくりと、諭すように言う。

 青葉の言葉の後半はちょっと聞き取りにくかった。

 涙混じりの声だったからだ。

 弥生は淡々と続ける。


「洵は……あたしにあなたの事を頼んだ。何故か分かる?」


 青葉は多少冷静さを取り戻し、黙っていた。

 

「絶対に見つけるから。だから……それまであたしにあなたの、青葉の事を頼んだの」


 青葉はまだ黙っている。

 しばらくの間、部屋には静けさが漂う。

 それから少しして青葉が口を割った。


「……なんで……ですか?」


 消え入りそうなくらい小さな、震えた声。

 その問いに弥生は答える。


「あたしも分からないけど……言うなら意地でしょうね」

「意地……?」

「多分ね……風邪、ひかなきゃ良いけど」


 昼時には晴れていたが、今は雨が降っている。まるでずっと溜め込んでいた感情が急に溢れだすように、とても激しく。


「とりあえず、信じて待ちましょ」


 こくん、と青葉は頷く様子を見てこれで大丈夫だろう、と弥生が一息ついた時。

 ガチャ。

 急に部屋の扉が開いて――


「ごめん、洵、洗濯……」


 扉を開けたままの姿で停止する……パジャマ姿の洵の母親だった。

 仕方ないだろう、我が子の部屋に女の子が二人いる事、そして肝心の我が子がいない事。この二つの事に慌てふためいているのはもちろんだった。


 弥生はしまった、と思ったが時すでに遅し。

 あくまでも冷静に、いつものように振舞うのだ。そう思い、弥生は洵の母親に言った。


「お母様、初めまして。私は……洵の彼女で、神崎弥生と申します」


 洵の母親はさらに固まる。

 さらに疑問が増えて頭の中がこんがらがっているのが顔に浮かんでいた。

 洵の母親は深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。


「弥生ちゃん、すまないけど……詳しく話を聞かせてもらえる?」



  ◆


 ざあざあと降る雨の中、俺はレインコートを身にまとい、鈴を探していた。


「なあなあ、休もうぜー」


 傘は雨具を持っていない海斗に貸している。

 雨が降ってきても海斗はまだ一緒にいてくれていた。いるだけで心強いものである。例え海斗でも。

 俺たちはずっと鈴を探して転々としていたが一向に見つからない。というかゴミしか落ちていない。

 それにうんざりしたのか、海斗は探すのをやめていた。意気込んでいた割にあっさりしている。


「帰るよ? 俺」

「分かった、ありがとな」

「また今度あのゲームをぶっ続けでやるぜ。既にこれは決まっているから抵抗は無駄だ」


 それに借りも出来たからなと海斗は言い、傘ごと去っていった。

 またあの疲れと眠気を体感しなくてはならないのか。

 しまった、頼むんじゃなかった。後悔先に立たず。

 ……傘は今度返してもらおう。

 俺はすっかり濡れてしわしわになった手で頬を叩き、気を引きしめる。


「よし!」


 再び俺は雨の中、小鳥遊さんの大切なものを探し始めた。

書いて思いましたが雨の中にずっといたら私なら風邪ひくかなぁ……なんて。

読んでいただき、有り難うございました。

次回も読んでいただけたら幸いでございます。

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