祟り神(上)
始めにですが今回は超が付く中途半端ぶりです、ごめんなさい。
と、謝罪から入りました滝峰つづりです。
気づいた人もいるかな~、実は今週に新しい小説を一つ投稿したんですよね。
その名も『ウチの生徒会役員が全員フリーダムな件について』です。
また長い名前を付けたな~(^_^;)
もし宜しければそちらの方もぜひ覗いてみて下さい。それではノシ
身支度をすまし、玄関の鍵をかけて振り返る。そこには未だへこんだ姿の蒼空がいた。
「お~い蒼空、行くぞ?」
「うぅ~~っ!」
やっぱ余程堪えるか……。
でもここでずっと蒼空の復活を待つのは得策じゃないと思うんだよな。……よし!
自ら動こうとしない蒼空の手を掴む。
女性らしい柔らかな手と、ほのかな甘酸っぱいい香りに一瞬、クラッときた。
いや、そうじゃないだろ!
腕の神経を半ば気持ちで無理やり麻痺させ、足を動かす。
「ちょ、ちょっと何!?」
手頃な階段を目指して歩きながら蒼空のわめきを聞いた。
「お前を待ってたら日が暮れるっての。うじうじするのは構わないが、俺のアップルパイが食えなくなるのは嫌なんでな。」
無論、適当なこじつけである。
「私は別にうじうじなんか……」
「してただろ」
「……うっ」
もうこいつ置いてけぼりにして、一人で行こうかななどと考え出したとき、
ゾワリ。全身の毛が逆立った。
なんだ、この感覚。頭が割れそうに痛い。
視界までもが歪んだ鏡面の世界でも見てるかのように潰れた。
「ねぇ、急に止まらないでよ危な………ちょっと真紅、大丈夫!?」
平衡感覚も狂い、立つことも困難になった。
その場に四つん這いになったが、それでもフラフラとおぼつかない。
――ドクン。
胸に無いはずの心音が耳に届く。
なんだ? 俺、どうなってるんだ?
心臓は一定のリズムで音を刻む。
もしかして誰かが俺の心臓を使ってる……のか?
そんな馬鹿な、俺の心臓は蒼空をかばって……。かばって……どうなったんだ。
蒼空をかばったのは明確だ。俺の背に骨ごと貫いた傷が残っているから。……でも、心臓がないのだ。
仮説をたてるのなら意外と難しくない。もしも俺の心臓もあの黒い影、祟り神に持っていかれたって事なら、納得もいく。そして、蒼空は話たがらなかったが、祟り神の元は人の心臓なんじゃないだろうか。
もし、そうだったのであれば俺の心臓も……。
「……ぐ………し……ぐ……真紅、お願い目を……」
薄く目を開くと灰色の冷たい天井があった。どうやら家の玄関らしい。
俺、いつの間にか気を失ってたのか。
そのまま視線を下に下げていく。さらりと燃えるような紅がちらついた。
それは髪だった俺の胸に顔を押しつけ、嗚咽を漏らしてる蒼空の髪の色。
全身の力が入らない。
驚くほどに全く……。
「大丈夫だ」と伝えたい、心配するなと頭を撫でたい。
蒼空の泣いてる姿など見たくないのに何もできない。
ふと、気が付いた。俺の体から黒いモヤが垂れ流しになっているのに。まるでこれじゃあ俺が祟り神みたいじゃないか。
……いや…………。
祟り神になってしまうんだろうな。直感で悟った。気付くのが遅かったんだ。
「ふふふ、いいですよ~あなたの涙に濡れたその顔。私は実に大好きです」
「だれだ?」声は出ないが目で探す。
奥の通路にそれがいた。小柄な体躯に赤い鼻、黄色の服に尖った靴。そしてふざけた化粧はまさに道化のそれだった。
「悪魔風情が調子に乗るなよ」
「あらら怖い、でもそんな事言っても良いんですかね~、私その男、すぐにでも祟り神に出来るんですよ~?」
「し、真紅は関係ない!」
「それはあなたが決めることではありません。私が決めることです」
くくくとゲスな笑みを浮かべる道化。
またか、また俺が蒼空に迷惑をかけてしまうのか。
歯ぎしりしようにも顎に力を入れる事すら叶わない。
「彼を救いたいのであれば私の玩具になりなさい。私は優しいですからね、どうします天照様?」
駄目だ蒼空。そんな奴が約束を守る筈がない。
「真紅……」
「私は同時に気も短いんですよ」
ぐっと拳を握る道化師。
「ぐぁぁぁぁ!!!」
苦しい、息ができない。気を抜けばすぐにでも意識が飛びそうだ。
「解った! 私をどうにでも扱いなさい! だからお願い。……それ以上真紅には手を出さないで……」
消え入るような蒼空の叫びに胸の内で何かが起きる。
それは微かな闘志の火。あの道化は一発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まねぇ。
黒い霧が風もなくなびく。
「物わかりがよろしいですね~、この少年がそれ程大事ですか?」
「ええ、自分でもどうしようもないくらい大好きよ。あんたみたいなクソ虫が目に入らないくらいにね」
「く、くくく。どうやら少々躾が必要なようですね。この場で恥をさらしなさい!」
怒りを隠すでもなく露わにした道化。
そして道化が取り出したのは真っ黒な蛇頭の鞭。ただ鞭を振るだけで蛇が蒼空に這っていった。さながら本当の蛇のように蛇行し、彼女に巻きつく。しかし蒼空は避けようとはしなかった。
蛇は蒼空の肩に噛みつき肉を抉る。なにも抵抗するでもなく彼女の白衣が鮮血で赤黒く染められた。
微かだった火は瞬く間に焔と化し俺の芯を燃やした。
「くくく、痛みを堪えるその表情、いいですよ、いいですいいですいいですぅぅぅぅ!!!」
華奢な蒼空は蛇にはさらに四度牙をむける。
「うっ……っ! くはっ………」
「そろそろ仕上げにしましょうか!!」
トドメとばかりに腕を高らかに挙げ、振り下ろした。
ソレ以上蒼空ニ手ヲ出シテミロ、殺スゾ
―――轟っ!
蛇が蒼空に牙を立てる直前、黒い火柱がその総てを焼き尽くした。
「きぃぃぃ誰です!? 私の邪魔をするのは」
蒼空が力なく崩れ落ちそうになるのを抱き留める。
まるで三流映画のザコキャラBさながらのセリフだな。
「大丈夫カ蒼空」
舌が変に回らない。
それ以前になんだこのモヤは……。俺はどうなってるんだ?