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引っ越し―午後―


ども、滝峰つづりです。フェイクワールド二話目ですね~てか一話読んでくれた人っているんですかね~?


できれば感想の程をお願いします。

「こんなところか……」


 俺が再び口を開いたのは、お天道様が春でも容赦ない日差しでジリジリと身を焦がしはじめた昼過ぎのこと。


 ちなみに我が母上様はおねむのようで、大きくて愛くるしいおめめをこしこしとこすり、なんとか起きる努力をしている。


 俺のお気に入りのリビングを埋め尽くす数あったダンボールも、小さく折りたたんで隅っこに縛っておいた。


 よし、完璧だ!


「あ、母さん。昼飯どうする? やっぱここは出前でも頼むのがいいと思うけど」


「いや! しんちゃんのが食べたい」


「そう言われてもなぁ……。冷蔵庫は今さっき電源入れたばっかで中身は空っぽだし、買い物に行くしかないけど……」


 ちらりと自分より明らかに身長の低い幼児体型を見て考える。


「けど、どうしたの?」


「幼児を一人だけ残して買い物には行けないよな」


「どうしてそんな答えが出るのさ! お母さんだよ! お・か・あ・さ・ん! 弁解しなさい。さあ、今すぐに!!」


 ポケットから小さい包みを取り出し母の前にぶら下げる。


「うわぁ! あめちゃんだぁ。………くぅ~~~、ご、誤魔化そうとしたって、そうはいかないんだから!」


「ちっ! ダメだったか」


 世の中上手くは廻ってないんだな。予想外だった。


「で、でもそのあめちゃんくれるんだったら、わ、忘れてあげなくもないよ!」


 前言を撤回しよう。母親だけは飴さえあれば上手く廻せそうだ。


「よしよし、母さんよ、俺の頼みを聞いてくれるなら飴ちゃんをもう一つ追加しようじゃないか」


「えっ!! あめちゃんがもう一つ? きくきく~何でも聞くよ」


「……」


 ふと、この親大丈夫なのか? と、息子ながら不安がよぎってしまった。


「どうしたのしんちゃん」


「いや、何でもない。頼みたいことだけど、留守番をお願いしたいんだ。」

「解った、任せて!」


 快く引き受けてくれた母さんに用件を伝える。


「留守番だって大変だぞ。いらない新聞の押し売りを断って、もしかしたらお隣さんがご挨拶に伺うかもしれないからその時はテーブルに置いてある袋を渡す。出来るか?」


 自分でも理解してる、完全に母さんを子供扱いしてることくらい。息子としてどうなんだろうな……。


「やってみる! ところで袋の中身って何が入ってるの?」


「よう――」かん、と言おうとして口が硬直する。中身を答えればこの親、食いかねない。


 やや溜めて吐き出した言葉は、


「かいが入ってるんだ」


 かなり無理があった。


「や、やめてよ怖いよしんちゃん」


「じゃ、中を見ないこと。これ、俺との約束だ。ちょっとだけ長くなるけどいい子にしててくれよ?」


 もしかしたら、俺が実の母を子供扱いしてしまうのは俺だけが悪いわけではないのかもしれない。


 小さい頭を撫でながら、そう思ってしまった。






 慣れない街並みに戸惑いながら見つけたスーパーは、なんか……変な名前をしていた。


 『もりもりスーパー月見』美的センスもあったものじゃない看板の前で俺は固まってしまっている。


 別に入りづらいから。とかではなく、単に見惚れてしまっていたのだ。


 赤みがかった茶系統の髪、その髪より深い赤をした緋袴と、肩で一度切れた白衣


 そう、巫女さんがいた!


 しかし、疑問が一つ。なんで地べたに這いつくばっておられるのでしょうか?


 そもそも何故通りすがりの人たちは声をかけようともしないんだろう。


「あの、こんな所で寝ていたら風邪ひきますよ」


「……」


 返事がないただの屍のようだ。


 で、片付けちゃダメですよね、解ってます。


 意を決してもう一度。


「あの~……」


 肩を揺すったそのときだった。


 神経に電気が流れた時に似た不快感と共に、脳に一瞬だけ不気味な模様が浮かんで、反射的にサッと手を引っ込めた。


「なんだ……、今のは………」


 警戒しながら、また腕を伸ばす。


「………あんた、私が見えるのね?」


 不意に聞こえた眠たげな声に思わず辺りを見回した。


「前よ、前」


 前? 左右に振っていた首を正面に戻し、さらに目線を少し下に下げる。


 声の主は巫女さんだったらしく、怠そうに顔だけこちらに向けていた。


「なんでアスファルトの上で寝転がっているんですか?」


「身体に力が入らないの」


「えっ!? 持病とか何かですか? すぐに救急車を……」


 携帯を取り出そうとすると、首を振り断られた。


「あ、いいから。そんなのじゃないし」


「なんだか大丈夫そうですね。良かった~……」


 思いの外元気そうな巫女さんに、安堵のため息が漏れる。


「珍しくまともな人間に声を掛けられたわね」


「そう言えばさっき私が見えるとかなんとか言ってなかったですか? もしかして幽霊だったりして」


 冗談めかした口調で手頃なベンチまで肩を貸し、座らせる。


「あ、それ近いかも!」


 ……………はい?


「……ああ、かぶせボケですか。なるほどね~」


「違う違う。何を隠そうこの私は―――神よ!」


 ででででで、電波キターーーー。どうしよう俺、電波さんの対応法なんてしらねぇよ。逃げるか? ここは潔く逃げちゃうか俺。


「久しぶりにまともな話し相手ができたんだからちょっと付き合いなさいよ」


 す、既に逃げられない空気になってる~!!


「その、なんで巫女さんがこんな所にいるんですか?」


 あれこれ考えた結果、逃げるのは無理と判断し彼女の隣に腰を下ろした。


「ああこれ? もともと私が考えて作ったものなんだけど、昔私の姿を見た人間がいてね、真似されて今の巫女装束があるのよ。だからこれがオリジナル」


 ダメだ。つっこんだら負けだぞ高城真紅!


「へ、へぇ、長生きなんですね~」


「私には歳とかいう概念がないからね。いつまでもこの姿のままよ」


 中二っ!!


 中二病患ってるよこの人! 助けて、誰かもうこの空気を破壊してくれよー!


「でも……」


「ん、どうしました?」


「ホント、何年ぶりかしらね、人との会話って。あ、でも独りきりだったって訳じゃないわよ。森に行けば動物たちとも話せたし、町にいても犬や猫とはしょっちゅう……」


 可哀想っ!!


 ちょ、いくら電波で中二病患ってるからって一人も相手してもらえないって可哀想すぎるだろ!


「だからかな、誰かに話し掛けてもらえてとても嬉しかった」


「っ~~~~~!!!!!」


 反則だろこの笑顔! ヤバい油断してたよ、意識が飛んでいきそうだった。


 それからしばらくたわいない会話をして時間が過ぎていった。


 彼女の話は有り得ない話ばかりだったが、だからこそ会話が止まることなく笑いあっていられた。





「しんちゃん遅かったね。どこで油を売っていたの!」


 ビニール袋を持って玄関に入った矢先のこと、リビングに繋がる廊下にでーんと仁王立ちして待ち構えていたちっちゃくて可愛い生き物。


「ああ、近くのガソリンスタンドでちょっとハイオクをな」


「違うの! お母さんはなんで遅かったのかって聞いてるんだよ!」


「倒れてた巫女さんとベンチでお喋りしてきた」


 靴を並べてスリッパに履き替える。


「むきー! お母さんをバカにしてるでしょ!! しんちゃんなんかが女の子とおしゃべりできるほど成長してるはずないよ!」


「それって俺をバカにしてるよね?」


 これは本当の事なんだけどな~……。別に伝える気もないからいいけどね。


「まあまあ、お昼ご飯作るから待ってなさい」


「もう夕食だよ!!」


 後ろでグチグチ言われながらテキパキと使わない材料を冷蔵庫にしまっておく。


「あ、母さん。俺が留守の間に誰か来た?」


「うん、でもちゃんと言ってくれればよかったのに。お隣が杉下ちゃんだって」


 ガシャーン!!


 なん………だ……と…………?


「あっ! お皿割った~。いけないんだ~」


 えっ? あっ! マジで!? マジで杉下なのか?


「でもよかったじゃない、お隣が幼なじみなんて。そうそう、杉下ちゃんが学校でもよろしくねっだって」


 スパーン!


 一玉あったキャベツを真っ二つに叩き割り、半玉になったキャベツを右端から細さ一ミリ弱の幅で切っていく。


 人ちがいだ、人ちがいだ人ちがいだ人ちがいだヒトチガイダ!


「しんちゃんキャベツの千切り速いねぇ! お母さんにも教えてよ。でもなんか現実から逃げてない?」


 タイミングを見計らったかのようなチャイム音。


「母さん、きっと夕刊を売りにきてるだけだからでなくていいよ」


 すぐさま返事しようとする母を制する。


「でも……」


「真紅くーん」


 続いて聞き慣れた声に身が竦んだ。


 気のせいだ、気のせいだ。うん、僕なにもわかんなーい。


 ついでに手の動きが速くなってるのも気のせいだろう。


「しんちゃん、杉下ちゃんきてるよ」


「ラーラララールルルー」


「もう! お母さんが出るよ」


「やめて!!」


 しまった! 声がデカかった


「あっ! 真紅くんいるんだね!」


 終わった。俺の人生がここで終わった。死因は自滅になるのか?


 ああ……。懐かしいな。昔の俺が母さんと並んで歩いてるよ。


 おっ! この記憶は、ついさっきの巫女さんとの会話じゃないか。……名前、聞いてればよかったかな。


 なんにしても遅いことだ。だってこれ、走馬灯でしょ? 脳が死を覚悟してるんでしょ?


 ん? これは……。






「真紅くん、一緒にあそぼ!」


「うんいいよ! 稲穂ちゃん、なにして遊ぶ?」


「うんとね~、えっとね~、おままごと!」






 いやな走馬灯だった。


「真紅くん、頭抱えてるけどどうしたの?」


 おもにお前のせいだよ……。


「稲穂、何故隣に引っ越してきやがった」


 ファション雑誌のカタログに載ってそうな綺麗な服を着た幼なじみは、これまた素晴らしいプロポーションの持ち主で、顔も悪くない。てか、中学の時に一、二を争っていた美人ですすいません。


 でも完璧な人間なんて存在しない。こいつ人の皮を被った鬼ですよ。ホント。


「ふふん、そんなのこのマンションが来週から通う高校に近いからだよ」


 得意げに結構大きな胸を張る稲穂。


「俺はなぜ隣なんだよって聞いてるんだけどな」


 止まっていた千切りを再開する。


「それは……、ほ、ほら、真紅くんと同じ学校な訳だし、そ、その、一緒に行けたらな~、とか思ってたり」


「稲穂と一緒に学校………に?」


 あはは、手が止まらねー。千切りもあっという間に出来上がり。


「なんで嫌そうな顔してんのよ! そこは赤くなりなさいよ!!」


 赤くって自分の血でですか? どこまで鬼畜なんでしょうこの鬼様は……。


「まあ、でも良かったわ、真紅くんの顔も見れたし」


「俺の恐怖に怯える顔がそんなに好きか!」


「あはは、照れちゃって! 羊羹、おいしくいただくわね。白雨さん、お邪魔しました!」


 嵐がすぎて晴れ間が戻る。


 俺は疲れた体に鞭打って料理を完成させた




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