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赤い髪



 もう一週間で二作同時進行は止めます。滝峰つづりです。


 一週間だとやはり一作が限界だと知りました。これからはフェイクワールドは二週間に一つのペースでやっていこうと思います。たびたび申し訳ないです。


 ではまた、再来週にノシ

 最近、同じ夢を見る。とても懐かしく感じる夢を……。


 時代はいつだろうか、辺りには刀を腰に差した侍がせわしく行き交っている大通り。俺はその人混みに流されながら巫女服の少女とたわいない会話を交わしていた。笑って、怒って、泣き真似をして、喜んで、本当に幸せそうだった。


 ただ、俺は夢の中の俺を見ているだけで、実際にどんな会話をしているかわからなかった。


 いつも夢の終わりは、俺が振り返りこう告げるんだ。


「―――お前は今、笑えているか?」





 蒼空がいなくなって、もう十日もたつ。学校も始まり、今は高校生として通うものの、中学生のころと学校と人が替わっただけ。興奮も感動も感じなかった。


 今日も今日もで制服を着て、学校に通い、家に帰って、寝る。紙より薄い時間だ。


 数にするとたかだか七日。蒼空と過ごした七日が、俺にとってかなり濃密な時間だった。


 でも、もういない。消えてしまった。呆れるほどあっさりと。


「大切ななにかって、無くして初めて気づくものだから」最近のラブソングでそんな歌詞があった。


「本当にそうだよな」


 自嘲気味に笑う。


 ふと、時計を見た。いつもなら既に学校についてる時間だ。


「学校……、行かなきゃな」


 学校指定の鞄を持ち、蒼空が残していった赤い髪をかき上げて鉄製のドアのノブを回した。


「稲穂……! どうしたんだ、インターホンくらい鳴らせよ」


 ドアの先でちょこんと稲穂が待っていた。


「うん、ちょっとね……。ねぇ真紅くん、学校、一緒に行こうか」


「いいぜ、さ、行くぞ」


 俺が最初に歩きだし、それを小走りで追いかけ、稲穂が横に並ぶ。


「もう、おいていかないでよ! こんな美人と並んで歩くなんてめったに出来ない体験だよー」


「ソウデスネ」


「むかつくぅ~、ちょっとは素直になろうよ」


「ああ、お前は美人だよ(笑)」


「うむむむむ……」


 なんて談笑していたらいつの間にか学校が見える位置まで来ていた。


「ところでさ……、真紅くん最近なにかあった?」


「―――っっっ!!」


 唐突に切り出された問いに一瞬息が詰まった。


「……………いや、特にはなにも。どうしてだ?」


「最近ね、真紅くんが無理に笑ってる気がして……」


 さすが幼なじみだ。俺の些細な変化も見逃さない。


「べ、別にあたしの思い過ごしだから気にしないで! あ、ゆーちゃんだ。お~いゆーちゃ~ん。ごめん、先行くね?」


 前を歩く生徒に大声を出しながら駈けていった稲穂。その背に「ああ、またあとで」と残し、俺はゆるーく自分のペースで歩を進めた。


 無駄にうるさい稲穂がいなくなって大分静かになると、今度は同じ学生の小声と視線が俺にふりかかった。


「おい、アイツ赤髪の新入生だぞ」


「うわ、マジでチャラいって。すぐ先輩に目をつけてボコられるだけなのにな?」


「あ、もしかして、それを狙ったマゾなんじゃね?」


 ゲラゲラとその辺から嘲笑が湧き上がる。嗤いたきゃ嗤えばいいさ。でも、絶対に染めやしない。この髪は俺の大切な思い出なんだ。






 校門に到着すると、なにやら人の列ができていた。教諭やら生徒会役員やらが一人一人チェックを付けている。どうやら身だしなみ検査を行っているみたいだ。


「おいおい、今日の運勢は最下位なんじゃないだろうな……」


 小さなため息が漏れた。


 渋々列に並んで数分後、俺の番がきた。待ち構えたように一番秩序にうるさそうな生徒会長である。マジで占いが最下位かも。


 つり上がった目、両サイドに揺れる金色の髪、豊かとは言えない胸。コレがウチの生徒会長を前にした感想。


 今日はおまけに竹刀まで持っていやがる。あなたはどこのアニメの生徒会長ですか?


「さて、あなた高城真紅くんね?」


「いえ、私は鈴木・ジャスタニエ・太郎です。こう見えてフランス人と日本人のハーフで髪はフランス人の母からの遺伝です。って事で通りますね~」


 一応自分を隠して通過してみる。


「え? あ、あれ、私の人違い? や、やだ! ごめんなさい、赤髪は高城真紅って生徒だけだと思っていたから。あ、でも服装のチェックはさせてもらってもいい?」


 あ、この人案外チョロいかも。


 内シャツの色、学年証、指定靴の確認、ベルトの色、全て調べられた。うわぁ超がつく真面目だな。


「はい、OKよ。今日も授業頑張って」


 おおっ! 検査を抜けられたぞ。案外今日の運勢も悪くないかもな。


 清々しい気持ちを抱え、校舎に向かう。


 ――バサリ。


「あ、ちょっと待って、生徒手帳落としたわよ」


 な ん だ と !


「あ、あはは、ありがとうございます」


 恐る恐る手を伸ばす。


「でも、ハーフって響きが格好いいわよね、鈴木……え~っと、ジョージ・太郎くんだっけ?」


 うん、ジョージでもジャージでもいいから生徒手帳を早く!


「なんか違う気がする。うろ覚えじゃ失礼よね、ちょっとごめん。中を見るね。えっと………たか…ぎ……しん……ぐ……?」


「ヤバッ!」


 俺の次の行動は早かった。生徒手帳をひったくると脱兎のごとく教室へ走った。途中大声でなにか叫ばれたがよく聞き取れなかった。


 やっぱり今日は厄日に違いない。


 教室へ駆け込み、そこでやっと一息ついた。


 俺の席は窓際。後ろから二番目の好ポジションだ。


 鞄を下ろし席に座ると、周囲からの視線に気づく。


 負の感情が込められた、どぶ川のように淀んだ視線。


 いつものことなので無視して窓の外を眺める。


 髪が赤いだけでこの反応かよ……。ま、いいけどさ。


 男女共に容赦なくビシバシやってる生徒会長を遠目に見ながらため息を吐く。


 ……蒼空、どこに行っちまったんだよ。本当にもういないのか?


「いや、いくら考えても仕方ないな……」


「何が仕方ないのかしら? 太郎くん?」


 予想外の返答に身が強張った。


 慌てて外に目を向けたがそこには行列も生徒会役員も教諭もいなかった。


 いやな汗があごを伝う。あっれ~、いつの間に服装&頭髪検査終わってたのかな? そしてこの数分前も聞いたことある、背伸びして会長ぶってますよ的な声は……。


「や、やあ、生徒会長じゃないですか~、一年の、しかも取り柄もないこんな教室になにかご用でしょうか。二年生の教室は上の階ですよ」


「あら、しらを切るつもり? あなたのその髪の色に問題がありそうだから、この生徒会長直々に出向いたのだけれど?」


 さて、俺はどうすべきだろう。


 ① ありのまま俺に起こった現実離れした話をし、この髪を納得させる。


 ② 「これは地毛です」と、述べる。


 ③ 逃げる。


 よし、③だな。①は有り得ない。


 出入り口は……ちっ! 見物人が邪魔で出れそうにないな。


 よし、窓から『I can fly』作戦だ。


「アイ キャン フラーイ」


 窓を開いて飛び出す。


「! させるわけないでしょ!!」


「ぐげっ!」


 ――前に首根っこ掴まれ飛び出せなかった。作戦失敗、打つ手なし。


 仕方なしに席について、後頭部をがしがし掻く。


「まったく……、あんたも一応は生徒なんだし風紀を乱す行動、言動、騒動は控えなさい」


「いやぁ、お恥ずかしい」


 ギロリと睨まれた。


「暗い茶髪くらいまでなら黙認してるのにわざとらしく目立つ赤髪で登校なんて生徒会に喧嘩でも売ってんのかしら」


「いやだな~、わざわざそんなことの為にしてるわけないじゃないですか」


 俺はおどけてみせて、おまけに鼻で笑った。


 とたん、生徒会長にぐにっとほっぺを引っ張られ、「なんかあんたムカつくわね」なんて言われた。おぉ、怖い怖い。


 まぁ、冗談はさておいて、この状況どう切り抜けよう……。めんどい、髪ことを適当に話すか。


「じゃあどういった理由か聞かせてもらいましょうか?」


「あ~、実は俺にもよくわかってないんです。ある日起きたら髪が赤く染まっていた、みたいな?」


「は?」


 案の定すっとんきょうな声が返ってきた。


「いや、自分も驚いたんですよ? 昨日まで黒かったはずの髪が真っ赤になってたんですから」


「つまりはこう言いたいのかしら? 髪が、夜の間に独りでに色を変えたと?」


「人類の神秘ですね、生徒会長」


「そんなの有り得ないでしょ!!」


 バーンと机がいい音で叩かれた。


「ま、普通はそうですよね」


 無意識に声のトーンが低くなる。


「……な、なによ、何が言いたいのよ」


「俺、普通じゃないんですよ」


 口をポカーンと開いた、生徒会長のだらしない顔をしばらく堪能していると予鈴が教室のスピーカーから響いた。その拍子に我に返った生徒会長は慌てた様子で教室を出ていった。


「またあとで来るから覚悟してなさい」と、残して。


 危ない人っぽく振る舞ってもう関わらないでもらおうと思ってたんだが、なかなか上手くいきそうにないな。


 再び頭の後ろをボリボリ掻いて、外に目を向けた。




 To be continued

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