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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
1.客が落ちていた日。
9/79

レッツ、リフレッシュなリラックス。4



☆★☆



 ぷしゅーっ。



 ……と、何かがティラミスの頭から出て行くのが、見えた気がした。

 ティラミスは、テーブルに突っ伏した状態で、先ほどから、「ひょひょひょ」とか、「ひわわ」とか、妙な声を上げている。



「大丈夫ですか」

「大丈夫、じゃ、ないれす……」



 うひい、とか何とか言いながら、ティラミスが起き上がった。



「ああああ、あたま、あたまがどーっと流れて。いいい、今もしびれてますう」

「しびれましたか」

「正座したあと、足がしびれてるみたいな、頭がそんな感じで。何かがどーっと流れたあああああ」



 涙目になりながら、おそるおそるという風に、自分の頭を触っている。



「相当、こってましたから。一気にリンパや血流が流れたんでしょう。ちょっと静かにしていたら収まりますよ」

「店主さん……紅さんは、何か、そういうのやってた人なんですか~?」

「いいえ?」



 店主は、にこやかな顔で答えた。



「これは単に、趣味です」

「趣味って、趣味って」



 ティラミスはなぜか、涙目だ。



「こってるなあ、という人はね。大概、自分では気がついてないんですよ。

 その流れを良くしてあげると、今のティラミスさんみたいに、しびれた状態になるんですよね。

 それ見てると楽しくて」



 わきわき、と店主が指を動かす。



「何か間違ってる~!」



 いや~! とか何とか言いながらティラミスが叫ぶ。



「あはは。もう大丈夫じゃないですか? 頭、ちょっとはスッキリしたでしょう」

「え、あ、」



 きょとんとした顔になってから、ティラミスは首をかしげた。



「ホントだ。何だか頭が軽く……?」

「気の流れが良くなったんです。リンパとかもね。ただ、根本的な解決にはなってないので、軽い運動を心がけて、体をほぐしたら良いですよ」

「え?」

「背骨や腰骨の辺りとか、緊張がひどい。ずっと同じ姿勢でいるのじゃないですか?」

「え、……ああ。一日中、デスクについて座ってるから……」

「一日十分でも良いので、ヨガやストレッチをすると、気分も前向きになりますよ。

 で、指ですが……ちょっと待ってて下さいね」



 店主は一度、厨房の方に引っ込んでから、湯を張ったたらいとタオル、何かの入った綿の袋を持ってきた。



「アレルギーとかあります?」

「え、ないです」

「失礼しますね」



 袖をまくると店主は、綿の袋を湯の中に入れ、自分自身も湯の中に手を入れた。袋をもむと、白い成分が出てきた。



「これ、なんですか?」

「オートミールです」

「オート……って、食べるやつ? 昔、何かの童話で読んだけど。確か、麦のおかゆ……」

「肌に良いんですよ」



 さらりと言うと、店主はさらに袋を揉んで、白い液体でたらいを満たした。



「ここに手を入れて。熱過ぎませんよね」

「え? え? はい、大丈夫です」

「しばらくそうしていて下さいね」



 そう言うと、店主は厨房の方に戻っていった。残されたティラミスは、白い液体を見つめた。湯の感触がとろりとしている。入浴剤を入れたみたいだ、と思う。

 おそるおそる、湯をかきまぜてみる。微かに水音をたてて、小さな波ができた。手が、たらいの中の布袋に触れる。

 触って揉んでみると、まだ中から、とろりとした白い液体が出てくる。



「食べ物を、こんな風に使うんだ……?」

「食べて大丈夫なものは、肌につけても大丈夫ですよ。もともと、化粧品は、外用の医薬品から発達してできたものです。

 エジプトの壁画にある、目のまわりのアイシャドーは、虫よけの薬でした。食べたり飲んだりできるハーブは、薬としても処方されましたし。

 そうして医薬品は、食べ物から作られることが多かったんです。野菜のキャベツは、元々薬草だったんですよ。果物のりんごも。

 東洋でも、食事が体を作る薬だという思想があるでしょう?」



 つぶやくと、店主が戻ってきてそう言った。手に油のびんと小さめのボウル、マグカップ、湯気を出すケトルを乗せたトレイを持っている。



「はあ。あの、でも。さっきの緑茶のパックを聞いた時も思ったんですが、……なんだか、食べ物に悪いような気がするんですけど……」

「『もったいない』の思想ですね。大切な感覚だと思いますよ。

 化粧品や、こうしたものに関しては、食べて不調を治すか、肌につけて不調を治すか……それだけの違いだと思います。

 疲れを取るのに柑橘類を食べたりするでしょう?」

「え……っと。レモンの蜂蜜漬けみたいな?」

「ええ。レモンのクエン酸、ビタミンC、それに蜂蜜の糖分でのエネルギーの補給。

 手軽で簡単にできる、疲労回復の食べ物ですよね。

 そこで使われている蜂蜜は、ちょっとした塗り薬として使われてきた歴史があります。殺菌作用が多少、あるので……唇が荒れた時に、塗ったことはありませんか」



 店主がテーブルにトレイを置く。ケトルから、熱がこちらに伝わってくる。びんの中の油には、何かのハーブが入っていた。



「え? どうだったかな……あ、でも、おばあちゃんが昔、リップクリームない時にやってたような」

「油分が足りなくて皮膚のバリアが低下したなら、油のあるものを塗って補強する……蜂蜜を唇に塗るように。

 皮膚の表面の油がうまく排出されない時には、吸着力のある素材を塗って、皮脂を取るようにする……陶土や小麦粉を練って、肌につけるように。

 食べ物に体の内部を癒してもらって、

 体の外側も癒してもらう。

 昔は、その発想が当り前だったんです。薬は、自然にあるものから作るしかありませんでしたから。

 そうして使い終わったものは、土に帰す。

 それでバランスが取れていたんですよ」

「……はあ」



 なんだか良くわからない。大切なことを言われている気もするのだが。



 店主はそんなティラミスを見て、小さく笑った。



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