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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
1.客が落ちていた日。
8/79

レッツ、リフレッシュなリラックス。3

「やってもやっても、何にもなってないような、同じ場所でずっと足踏みしているような、

 全然前に進んでなくて。でも気持ちばかり焦ってしまう。

 そんな感じじゃないですか?」

「あっ、そう! そうなんですっ!」



 がばっ、と顔を上げてティラミスが言った。



「店主さんも、そういう事あったんですか」

「はい、それなりに。でもそういう時と言うのは、必要があってそうなってもいるんですよ」

「必要?」



 首をかしげたティラミスに、店主は苦笑した。



「最中にいると苦しくて、他がわからなくなりますが。

 通り抜けてみれば、わかるんです。必要な状態、必要な時でもあったと。

 前に進めない、足踏みばかり繰り返しているような状態と言うのは、今の自分を見直す時期に来ている、という事なんです」

「見直す?」

「自分のやり方や、生活や。いろんなもの。

 仕事に関してなら、新入社員と、責任ある立場の社員とでは、仕事のやり方が違うでしょう。

 新人なら許される事も、責任者なら許されない、そういう事はたくさんある。

 今までなら、それで通ってきたことが、通らなくなる。それは、責任を持つ人間として、周囲が認め始めたということです。

 だから、自分を振り返って、

 今まで、どんな事をしてきたのか。

 何をして、何をしてこなかったのか。

 それをした事で、周囲にどんな影響を出して来たのか。

 点検する時、というのが。誰にでもあるんです。

 ティラミスさんも、たぶん、そういう時期に来ているのだと思いますよ」

「点検……」

「生活なら、ちょっと習慣を変えたり、食べるものに気を使ったりすることで、肌の状態がずいぶんと改善されたりしますね」

「えっ、そうですかっ!」



 いきなりティラミスが身を乗り出してきた。目がらんらんと輝いている。すごい食いつきだ。



「そう言えば。店主さん、肌キレイですよねっ!」

「………………どうも」

「そっ、その、うるおいお肌の秘密ってなんですかっ! えええええ、こうして見るとキメ細かいっ! 白いっ! 何なのこの肌っ!」



 手を伸ばされ、思い切り、顔をなでまわされた。



「何なのと言われましても……、いえ、食生活気をつけて、……ちょ、ちょっ、落ち着いて下さい。何だったら、化粧水の作り方とか教えますから!」

「ラッキー!」



 拳を握ってガッツポーズをするティラミス。


 いやもう、すごく元気だ。さっきまでの落ち込みぶりは、どこへ行った。


 と、店主は思った。



☆★☆



「つまり、パックにするなら、緑茶!

 化粧水にするなら、ハーブをりんご酢に漬けこんで~。それを水で割るのね! 酢って、臭くない? ええ? ブリーチ効果で色白に!? それはやらないと!!!

 え、スギナとかも? 化粧水にできるの?

 オリーブオイルにカモマイル? ハーブ屋さんだけじゃなくて、薬局の健康茶のコーナーにも置いてるのね! よしっ!」



 ティラミスが、メモを取りまくっている。



「緑茶は割と万能ですね。日焼けのケアにも使えますし。

 パックは、カオリンなどのクレイ(泥、土)素材で作るのが一般的ですが、小麦粉で作っても大丈夫ですよ」



 店主が言うのを、またメモする。



「ふふふふふ! これでわたしも、色白美人~~~~!」



 すごい迫力だ。

 気を取り直して、店主は、ティラミスの手を取った。



「ええと、では……ちょっと失礼しますね。ああ、やっぱり。手の先が冷たい」



 指先を軽く握る。



「逆むけって言ってましたよね」

「はい」

「指って、意外と疲れがたまりやすいんですよ」

「え、そうなんですか」

「手をマッサージする、リフレクソロジーのお店とかあるでしょう。あれも、手が疲れやすいのがわかっているから……あとは、足もね。けっこう、疲れがたまる」



 店主はそれから、ティラミスの後ろにまわり、頭を軽く触った。



「ここも凝ってますねえ。これは、気の巡りが悪くなるはずだ」

「えっ、えっ、頭? あたまって、こるの? 肩こりみたいに?」

「凝りますよ。インドでは、頭をマッサージする健康法が、昔から伝わっています。アーユルヴェーダと言って……ああ。肩もがちがちだ」



 これは意識がマイナス方向に行きやすくなるだろう、と店主は思った。体中が常に、緊張している状態だ。



「頭の後ろに、こぶみたいなものができてます」

「えっ? こぶ?」

「自分ではわかりにくいと思いますが……それが頭の、こりの部分です。

ちょっと手を」



 店主はティラミスの手を取ると、頭の後ろの部分に触らせた。



「ここですが」

「んっ? んんっ? 良くわからな……ん? あれ?」



 ティラミスは妙な顔をしていたが、おや、という顔になった。



「でこぼこ? みたいな?」

「それです」

「えっ、やだ、きもちわるい」

「ご自分の頭ですよ」



 笑って言うと、店主は指をわきわきとした。



「どうもこういうのを見ていると、放っておけなくて。ちょっと揉んでも良いですか」

「も、揉む?」



 がし。



 店主はティラミスの頭を鷲掴わしづかみすると、笑顔で言った。



「痛くありませんから」

「ひっ、ひょ、ひょひょひょえええええ~~~~~っ!」




 ティラミスの叫びが、店に響いた。


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