レッツ、リフレッシュなリラックス。3
「やってもやっても、何にもなってないような、同じ場所でずっと足踏みしているような、
全然前に進んでなくて。でも気持ちばかり焦ってしまう。
そんな感じじゃないですか?」
「あっ、そう! そうなんですっ!」
がばっ、と顔を上げてティラミスが言った。
「店主さんも、そういう事あったんですか」
「はい、それなりに。でもそういう時と言うのは、必要があってそうなってもいるんですよ」
「必要?」
首をかしげたティラミスに、店主は苦笑した。
「最中にいると苦しくて、他がわからなくなりますが。
通り抜けてみれば、わかるんです。必要な状態、必要な時でもあったと。
前に進めない、足踏みばかり繰り返しているような状態と言うのは、今の自分を見直す時期に来ている、という事なんです」
「見直す?」
「自分のやり方や、生活や。いろんなもの。
仕事に関してなら、新入社員と、責任ある立場の社員とでは、仕事のやり方が違うでしょう。
新人なら許される事も、責任者なら許されない、そういう事はたくさんある。
今までなら、それで通ってきたことが、通らなくなる。それは、責任を持つ人間として、周囲が認め始めたということです。
だから、自分を振り返って、
今まで、どんな事をしてきたのか。
何をして、何をしてこなかったのか。
それをした事で、周囲にどんな影響を出して来たのか。
点検する時、というのが。誰にでもあるんです。
ティラミスさんも、たぶん、そういう時期に来ているのだと思いますよ」
「点検……」
「生活なら、ちょっと習慣を変えたり、食べるものに気を使ったりすることで、肌の状態がずいぶんと改善されたりしますね」
「えっ、そうですかっ!」
いきなりティラミスが身を乗り出してきた。目がらんらんと輝いている。すごい食いつきだ。
「そう言えば。店主さん、肌キレイですよねっ!」
「………………どうも」
「そっ、その、うるおいお肌の秘密ってなんですかっ! えええええ、こうして見るとキメ細かいっ! 白いっ! 何なのこの肌っ!」
手を伸ばされ、思い切り、顔をなでまわされた。
「何なのと言われましても……、いえ、食生活気をつけて、……ちょ、ちょっ、落ち着いて下さい。何だったら、化粧水の作り方とか教えますから!」
「ラッキー!」
拳を握ってガッツポーズをするティラミス。
いやもう、すごく元気だ。さっきまでの落ち込みぶりは、どこへ行った。
と、店主は思った。
☆★☆
「つまり、パックにするなら、緑茶!
化粧水にするなら、ハーブをりんご酢に漬けこんで~。それを水で割るのね! 酢って、臭くない? ええ? ブリーチ効果で色白に!? それはやらないと!!!
え、スギナとかも? 化粧水にできるの?
オリーブオイルにカモマイル? ハーブ屋さんだけじゃなくて、薬局の健康茶のコーナーにも置いてるのね! よしっ!」
ティラミスが、メモを取りまくっている。
「緑茶は割と万能ですね。日焼けのケアにも使えますし。
パックは、カオリンなどのクレイ(泥、土)素材で作るのが一般的ですが、小麦粉で作っても大丈夫ですよ」
店主が言うのを、またメモする。
「ふふふふふ! これでわたしも、色白美人~~~~!」
すごい迫力だ。
気を取り直して、店主は、ティラミスの手を取った。
「ええと、では……ちょっと失礼しますね。ああ、やっぱり。手の先が冷たい」
指先を軽く握る。
「逆むけって言ってましたよね」
「はい」
「指って、意外と疲れがたまりやすいんですよ」
「え、そうなんですか」
「手をマッサージする、リフレクソロジーのお店とかあるでしょう。あれも、手が疲れやすいのがわかっているから……あとは、足もね。けっこう、疲れがたまる」
店主はそれから、ティラミスの後ろにまわり、頭を軽く触った。
「ここも凝ってますねえ。これは、気の巡りが悪くなるはずだ」
「えっ、えっ、頭? あたまって、こるの? 肩こりみたいに?」
「凝りますよ。インドでは、頭をマッサージする健康法が、昔から伝わっています。アーユルヴェーダと言って……ああ。肩もがちがちだ」
これは意識がマイナス方向に行きやすくなるだろう、と店主は思った。体中が常に、緊張している状態だ。
「頭の後ろに、こぶみたいなものができてます」
「えっ? こぶ?」
「自分ではわかりにくいと思いますが……それが頭の、こりの部分です。
ちょっと手を」
店主はティラミスの手を取ると、頭の後ろの部分に触らせた。
「ここですが」
「んっ? んんっ? 良くわからな……ん? あれ?」
ティラミスは妙な顔をしていたが、おや、という顔になった。
「でこぼこ? みたいな?」
「それです」
「えっ、やだ、きもちわるい」
「ご自分の頭ですよ」
笑って言うと、店主は指をわきわきとした。
「どうもこういうのを見ていると、放っておけなくて。ちょっと揉んでも良いですか」
「も、揉む?」
がし。
店主はティラミスの頭を鷲掴みすると、笑顔で言った。
「痛くありませんから」
「ひっ、ひょ、ひょひょひょえええええ~~~~~っ!」
ティラミスの叫びが、店に響いた。