表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
70/79

●番外編 ハッピー・ハロウィン 5

* * *



「届けて、きたよ」



 店にいた店主とおばばは、その声に、扉の方を見た。緑色の服を着た男の子が立っていた。



「何をもらったのかの」


「これ」



 おばばの問いかけに、にわかせんぺいを見せると、男の子はうれしそうに、自分の顔に当てた。



「おもしろい」


「そりゃ、良かったの」



 おばばが言うと、男の子は笑った。



「うん、おもしろい」


「何を渡しました?」



 店主の言葉に、ふふふ、と緑の服の子どもは笑った。



「飾り。蔦の。あのおねえさん、ほしいって言ってた、でしょ」


「わたしは、『何』を渡したのかと尋ねていますよ?」



 繰り返した店主に、子どもは顔からせんぺいを外した。にやりとする。



「気になる?」


「あのかたは、お得意さまですから」


「ふふ」



 くるりと踵をかえすと、子どもは笑った。



「あの娘、優しいよなあ?」



 声が低くなる。輪郭がぶれて、姿がくずれて消える。別の姿が現れる。



「わしの欲しい方の菓子をくれたよ。だからわしも、好意をやったさ」



 子どもより、もっと小さな背丈。とんがり帽子にずんぐりとした体つき。白いあごひげ。



「さして影響はなかろうが、多少は運の底上げになるのではないか?」



 振り向いた小人が笑う。



「今年は蜂蜜酒ミードが足りんでなあ。くさくさしておったが。ここではもらえたし、良いとするよ。ではな。ただの茶屋のあるじ。おばばも」


「この飾りは気に入っておる。また頼むぞい」



 おばばの言葉に、おう、と言ってから、小人はふい、と姿を消した。



「あの娘、やはり運が良いのう」


「接触があったと聞いた時は、冷や汗が出ました」



 ふう、と息をついて店主が言った。



「気まぐれじゃからの、あやつは。わしらの会話をどこかで聞いておったんじゃろ。で、あの娘のあとを追いかけた。幸運を渡すことも、不運を渡すこともあるからのう。今回は、幸運で良かったの」


「どの程度のものでしょうね」


「心配するでない。あの言い方じゃと足される運は、うれしい事があった時、もう少しうれしいが増える。けつまずきそうになった時、気がついて立ち止まれる。それぐらいじゃろ」


「大き過ぎる幸運も、人には時に災いとなる。彼らにはでも、その辺りが判別できません。わたしの立ち会いの元でなら、良かったのですが……」


「それじゃと、あやつが来んじゃろ。しかし……」



 おばばは、胸を張った。



「我ながら、にわかせんぺいは、良いチョイスじゃった。これであやつも、さらに良い作品作りをするじゃろう!」


「あのお菓子を、顔にくっつけながらですか……?」



 店主の突っ込みに、答えるものはいなかった。



* * *



「あれー、ティラミス。このお菓子、なに?」


「あ、みゆたん。ソウル・ケーキって言うんだって。クッキーだけど」


「へ~。あれ? こっちは?」


「ふっふっふ。紅さんに教えてもらった、美味しい紅茶の入れ方で、みゆたんに、ハロウィンなティータイムをご提供~!」


「えっ、なんかうれしいっ!」


「と言うわけで、トリック・オア・トリート! なにかお菓子出して出して」


「チョコレートならあるよ~」


「なにしてるの、二人とも」


「あ、うとちゃん。ほら。ハロウィンでしょ? だからお茶会しようかって。紅茶持ってきたの」


「へえ~。あたしも混ぜて? ポッキーなら持ってるよ」


「良いね〜。他にも何人か呼ぶ? あ、わけちゃん!」


「なあに〜? 楽しそうなことやってるね。まぜてまぜて!」


「あれ、ティラミス、そのイヤリング、きらってしなかった、いま?」


「え、そう?」


「七宝焼?」


「わかんない。子どもの手作り品だって」


「粘土か何かかな? オーブンで焼いたら陶器になる粘土ってあったよね」


「ああ、それかな? 良くできてるね~」


「ねね、それよりお茶会! お昼休みにやる?」


「楽しそう~」




 その後、話を聞いた女子社員たちがお菓子を持って集まって、ハロウィンのお茶会。トリック・オア・トリート! と言い合いながら、お菓子をつまみ、お茶を飲んだ。


 なんだか、とっても楽しかった! という意見が多数。


 ティラミスの会社ではその後、女子社員の間で、ちょっとした紅茶ブームになりました。


 ハッピー・ハロウィン。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ