●番外編 ハッピー・ハロウィン 5
* * *
「届けて、きたよ」
店にいた店主とおばばは、その声に、扉の方を見た。緑色の服を着た男の子が立っていた。
「何をもらったのかの」
「これ」
おばばの問いかけに、にわかせんぺいを見せると、男の子はうれしそうに、自分の顔に当てた。
「おもしろい」
「そりゃ、良かったの」
おばばが言うと、男の子は笑った。
「うん、おもしろい」
「何を渡しました?」
店主の言葉に、ふふふ、と緑の服の子どもは笑った。
「飾り。蔦の。あのおねえさん、ほしいって言ってた、でしょ」
「わたしは、『何』を渡したのかと尋ねていますよ?」
繰り返した店主に、子どもは顔からせんぺいを外した。にやりとする。
「気になる?」
「あのかたは、お得意さまですから」
「ふふ」
くるりと踵をかえすと、子どもは笑った。
「あの娘、優しいよなあ?」
声が低くなる。輪郭がぶれて、姿がくずれて消える。別の姿が現れる。
「わしの欲しい方の菓子をくれたよ。だからわしも、好意をやったさ」
子どもより、もっと小さな背丈。とんがり帽子にずんぐりとした体つき。白いあごひげ。
「さして影響はなかろうが、多少は運の底上げになるのではないか?」
振り向いた小人が笑う。
「今年は蜂蜜酒が足りんでなあ。くさくさしておったが。ここではもらえたし、良いとするよ。ではな。ただの茶屋のあるじ。おばばも」
「この飾りは気に入っておる。また頼むぞい」
おばばの言葉に、おう、と言ってから、小人はふい、と姿を消した。
「あの娘、やはり運が良いのう」
「接触があったと聞いた時は、冷や汗が出ました」
ふう、と息をついて店主が言った。
「気まぐれじゃからの、あやつは。わしらの会話をどこかで聞いておったんじゃろ。で、あの娘のあとを追いかけた。幸運を渡すことも、不運を渡すこともあるからのう。今回は、幸運で良かったの」
「どの程度のものでしょうね」
「心配するでない。あの言い方じゃと足される運は、うれしい事があった時、もう少しうれしいが増える。けつまずきそうになった時、気がついて立ち止まれる。それぐらいじゃろ」
「大き過ぎる幸運も、人には時に災いとなる。彼らにはでも、その辺りが判別できません。わたしの立ち会いの元でなら、良かったのですが……」
「それじゃと、あやつが来んじゃろ。しかし……」
おばばは、胸を張った。
「我ながら、にわかせんぺいは、良いチョイスじゃった。これであやつも、さらに良い作品作りをするじゃろう!」
「あのお菓子を、顔にくっつけながらですか……?」
店主の突っ込みに、答えるものはいなかった。
* * *
「あれー、ティラミス。このお菓子、なに?」
「あ、みゆたん。ソウル・ケーキって言うんだって。クッキーだけど」
「へ~。あれ? こっちは?」
「ふっふっふ。紅さんに教えてもらった、美味しい紅茶の入れ方で、みゆたんに、ハロウィンなティータイムをご提供~!」
「えっ、なんかうれしいっ!」
「と言うわけで、トリック・オア・トリート! なにかお菓子出して出して」
「チョコレートならあるよ~」
「なにしてるの、二人とも」
「あ、うとちゃん。ほら。ハロウィンでしょ? だからお茶会しようかって。紅茶持ってきたの」
「へえ~。あたしも混ぜて? ポッキーなら持ってるよ」
「良いね〜。他にも何人か呼ぶ? あ、わけちゃん!」
「なあに〜? 楽しそうなことやってるね。まぜてまぜて!」
「あれ、ティラミス、そのイヤリング、きらってしなかった、いま?」
「え、そう?」
「七宝焼?」
「わかんない。子どもの手作り品だって」
「粘土か何かかな? オーブンで焼いたら陶器になる粘土ってあったよね」
「ああ、それかな? 良くできてるね~」
「ねね、それよりお茶会! お昼休みにやる?」
「楽しそう~」
その後、話を聞いた女子社員たちがお菓子を持って集まって、ハロウィンのお茶会。トリック・オア・トリート! と言い合いながら、お菓子をつまみ、お茶を飲んだ。
なんだか、とっても楽しかった! という意見が多数。
ティラミスの会社ではその後、女子社員の間で、ちょっとした紅茶ブームになりました。
ハッピー・ハロウィン。