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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
1.客が落ちていた日。
7/79

レッツ、リフレッシュなリラックス。2



 男性と女性では、ものの見え方、音の聞こえ方、そして思考の筋道の通り方が、かなり違う。

 男性の視界は足元から、一直線に伸びている。

 女性の視界は横に、百八十度に広がる。

 男性は、同時に、一種類か二種類ぐらいの音や声を聞き分けることしかできないが、

 女性は、数種類の音を聞き分けることができる。


 これらのことから、男性の思考は、一点に集中し、直線的になることが多い。ゴールに向かって条件をそろえ、収束する方向に向かう。

 つまり男性にとって、『考える』ということは、ゴールに向かうよう、思考の筋道を整えて一本化する意味を持つ。

 それに対して女性は、平行した思考を同時進行で行う。『考えながらしゃべる』ことを当り前に行い、関連する事項についても平行して考え、しゃべることで、それらをまとめようとする。

 また、女性は感情によって記憶する。

 つまり女性にとって『考える』とは、その瞬間の自分の感情がどうであるかが最も重要なのであって、しゃべっている事の筋道は、どうでも良いことが多い。



☆★☆



 ティラミスがうつむいている。店主は、黙って彼女の話を聞いていた。



「もうね、疲れちゃうんですよ。いろいろ。なんだろうな。がんばってるつもりなのに。やってもやっても、先が見えなくて。

 体調崩れると、がくっと落ち込むし。学生のころには平気だったのに、徹夜なんかしたら、もう、がたがた。

 でも何だかやる事だけは、いっぱい溜まってて。なんなんだろう、わたし、なにしてるんだろうって……毎日」



 こういう時、女性は、しゃべりたくてしゃべっている。

 助言が欲しいわけではない。

 もやもやとした自分の中に溜まっているものを、どこかで吐き出したい。

 そう思って、いろいろ口にしている。だから、助言を求めているわけではなく。

 単に、相手に聞いて欲しい。そんな状態だ。

 相手に解決してもらいたいわけではない。

 ただ、自分が疲れていると、傷ついているのだと、相手に知ってもらいたい。それだけなのだ。


 ティラミスもそんな状態だった。


 店主は、特にコメントをはさまず、相手のしゃべるのに任せていた。この状態の女性に何かコメントをしても、余計にストレスをかけてしまう。彼女は、しゃべりたいから、しゃべっている。

 だから、しゃべらせた方が良い。店主はそれを、知っていた。

 それに、自分は彼女の事情には部外者だ。

 いわば、通りすがりの人間に過ぎない。

 身近な人間には吐き出せないような事も、彼女は口にするだろう。それは、あくまでも、自分が通りすがりの人間に過ぎないからだ。

 自分の生活に直接関わる人間ではないから、逆に安心して、自分の事情を話せる。どの時代でも、信頼される酒場のマスターや、居酒屋の女将がいるが、

 彼らが信頼されるのは、そうした人々の話を、何も言わずに聞く係を引き受け、また聞いた話を外に漏らさないというスタンスを、貫いてきたからだ。



「朝起きると、ああ、またかって思うんですよ。また一日が始まるのかって。

 髪はうまくまとまらないし、顔はなんだかむくんでるし、何をしても、何を見ても、代わり映えしなくて、いつもおんなじで。

 化粧はどんどん厚くなってくるし、今朝なんて、爪が逆むけしちゃって、だから、

 ダメダメなんです、もう嫌なんです、わたし、自分が自分でいるの、やんなっちゃった……」



 はああ~っ、と大きくため息をつくと、ティラミスは、がっくりと肩を落としてうなだれた。

 髪の毛と顔のむくみと、逆むけ。

 なぜそれが、自分が自分でいるのが嫌になる原因になるのか。

 聞いていると謎ではあるが、本人は真剣だ。

 それに、そういう小さなダメージの積み重ねが、ある時どっと、大きな重みとして感じられて、人を追い詰めてしまう事もある。そのことも、店主は知っていた。

 店主はうーん、と思ってから、



「ありますよねえ、そういう時……」



と、言った。


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