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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
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●番外編 ハッピー・ハロウィン 1

エブリスタと同時投稿です。ハロウィン記念(*^_^*)

「紅さん、このお店では、ハロウィンはしないの?」



 表から店に入ってきたティラミスが尋ねた。



「サウァンですか?」


「さ?」


「ハロウィンの古い言い方です」


「そう言ってたんだ。へえ~……。駅の近くの商店街とか、カボチャだらけだよ、いま。オレンジ色のぬいぐるみとか、ステッカーとか、あちこち飾ってある。魔女や黒猫もあって、可愛いんだよね」



 ティラミスが見回した店内に、オレンジのカボチャをモチーフとした飾りはない。いつも通り、ちょっと古びた感じの店内は、柔らかい木の色と、レンガの色に彩られている。


 ぱりっとしたリネンのクロスの白に、ハーブやちょっとした野の花が飾られているのが、なんとも目に優しく、穏やかだ。



「カボチャは美味しいですからねえ、今の季節」


「この店は、何もしないの?」


「ソウル・ケーキは焼いていますよ。蜂蜜酒ミードも作りました」


「? それなに?」



 えーと、と言って店主は首をかしげた。どう説明しよう、という風に。



「今、言われているハロウィンは、アメリカで祝われるようになってからの形式なんですよ」


「そうなの?」


「ええ、オレンジ色のカボチャを使うのも、北米の辺りでこの時期、良く採れる食材だったから。栄養もあって美味しいですから、それはそれで良いと思いますが」


「パンプキン・パイって、美味しいものね~。日本のカボチャと違って、オレンジ色っていうのもなんだか、可愛いし。あれ、でもそうしたら、魔女や黒猫を飾るのも、アメリカで生まれたの?」


「魔女と黒猫は……スコットランド由来、だったかな。可愛いデザインのものが多いですが、もともとは、不吉なもの扱いでした」


「不吉?」


「ええ……、サウァンは、日本で言うお彼岸のようなものなので」


「えっ。そうなの?」


「ケルトの時代のお祭りで、いまごろが一年の終わりになるんですよ。サウァン、というのは、夏の終わりという意味なんです。

 新年の前に、ご先祖さまが、この世に戻ってくるという言い伝えがありまして。それをお迎えするために、かがり火を焚いたりしていたんです」


「へえ~。へえ~。おもしろ~い。日本の発想と似てたのね、ケルトの人たち!」



 ご先祖さまをお迎えする、という辺りに共感を覚えて、ティラミスはうれしくなった。お彼岸、と言うと、田舎臭い感じになってしまうのだが、西洋にも同じような風習があったと思うと、何となくオシャレに感じる。



「ケルトの民にとって、先祖というのは、自分たちを守ってくれるものでしたから。

 でも、その時、先祖といっしょに良くわからないものもやってくるので。いろいろなものが戻ってくるので、魔物や妖怪も、境界線がくずれてうろうろし始めます。

 だから、怪しいものはこっちに来るな、という意味合いで、おどかすような物を置いたんですね、確か。ジャック・オ・ランタンとか」


「あ、カボチャの笑ってる顔のやつでしょ? あれって、ロウソク入れてランタンにするのよね」


「もともとは、カブで作ってたんです」


「カブ? へえ~……。ところで、ケルトって、どのあたり?」


「昔、ヨーロッパに住んでいた民族の総称ですね。独自の文化を持っていました。ケルト民族自体も、ピクト人……もともとの原住民を追い払って、そこに移住していたのですが。

 ブルターニュ地方……フランスの一部とか。アイルランド……ブリテン島の辺り、伝説とか豊富ですね」


「ブリテン島?」


「英国、スコットランド、ウェールズ、アイルランド」


「イギリスのこと? 島国だったよね」


「日本人は、全部イギリスと言ってしまいがちですが。あそこには、四つの別の国があって、言葉も文化も全部違うんですよ」


「そうなんだ?」


 同じようなものだと思ってた、と言うと、向こうの方にそう言ったら、怒られますよ、と店主が笑った。



「じゃあ、イギリスやアイルランド? では、カボチャのお菓子は作らないの?」


「作らないことはないですが……、現代イギリスのハロウィンは、アメリカから逆輸入された形になっていて。そのあとの、ボンファイアー・ナイト……ガイ・フォークス・デイの方が、賑やかだったはずですね。花火をあげたりするので。

 賑やかに祝うのは、アイルランドかな。観光客向けに、カボチャのモチーフも使うとは思いますが……キャンディ・アップル……ええっと。りんご飴とか、普通にキャンディとか。家庭では特に、カボチャにこだわってはいなかったと」



 首をかしげながら、店主が答える。ティラミスは目を丸くした。



「りんご飴って、海外でもあるんだ。お祭りの時に屋台で売ってるから、日本にしかないかと思ってた」


「りんごは何千年も、あちこちで栽培されてきましたからね。飴をからめる食べ方は、古くから西洋にありますよ。中国でもサンザシの実を使って、似たような食べ方があったはずです」


「そうなんだ~」


「あまり日持ちはしないから、どこの国でもお祭りの屋台のお菓子、みたいな扱いですけれどね。その場で食べる」


「ああ」


「子どもが集めるお菓子は、もっと日持ちのするものですね」


「あ、仮装して、お菓子くれなきゃ、いたずらするぞって言って回るんだよね。あれって楽しそうよね~」


「集めたお菓子は、大事に食べて、一年持たせるんだそうですよ。ところで、今日は、何をお召し上がりになりますか。カボチャのお菓子も作っていますが」


「何があるの?」


「クッキーと、タルトがありますよ」


「じゃあ、タルト! クッキーは持ち帰りにしてほしいな」


「お茶はどうしますか」


「お勧め、あります?」


「あのタルトなら、アッサムか、ケニア……それか、ルフナかな。バターやクリームが、結構入っていますし。オルゾや黒豆茶も合うと思いますが」


「うん、最後の黒豆茶以外は全部、わかんない!」



 元気良く言ったティラミスに、店主は笑ってから言った。



「テイスティング、してみますか? ちょっとずついろいろな種類のお茶を、試し飲み」


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