表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
62/79

さらに、さらに、その店では。2

「そうとも。魔女なんぞ、迷惑極まりない。吟遊詩人並に迷惑だ」



 今も各地で歌われている、自分を主人公にした妙な歌を思い出し、ウィルフレッドは眉間にしわを寄せた。そういう歌を歌っている詩人が目に入り次第、尻を蹴飛ばして追い払って来たが。


 やめさせてもやめさせても、妙な歌はなくならない。



「吟遊詩人?」



 その言葉に、店主を含めた三名は首をかしげた。なぜそこで、吟遊詩人。苦虫をかみつぶしたかのような表情で、ウィルフレッドは答えた。



「ないことないこと歌い踊って、ろくでもない話を蔓延させる。あやつらは、魔女なみに迷惑な人種だ」


「え。なんか、変なうわさでも流されたんですか」



 思わずというふうに、じんが言うのに、騎士は答えた。



「俺は妙な叫びをあげながら、飛んだり跳ねたりする男なのだそうだ」



 なんだ、それは。


 三人は、思わずウィルフレッドを見つめた。



「ええ? なんですか、それ。飛んだり跳ねたり? 妙な叫びって」


「言っておくが、俺は、断じて、そんな事は、して、おらん」



 じんの言葉に、歯を食いしばるようにして答えると、おばばが尋ねてきた。



「おまえさん、詩人に恨まれでもしとるのか」


「俺の方が恨みこそすれ、あやつらに恨まれる筋合いはない」


「それはそれで、どうかと思うがのう。それにしても、なんでまた、そんな話に」


「知らん。俺がやったのは、盗賊を撃退したり、部下を鍛えたりしただけだ」


「なんでまた、それがそんな話に」


「俺こそが聞きたい」



 おばばも、じんも、首をひねった。騎士の言葉に嘘はなさそうだ。だとしたら、盗賊を撃退したり、部下を鍛えるだけの話が、どうして叫びながら飛び跳ねる話になるのだろう。



「世の中は、不思議でいっぱいですね」


「そうじゃのう」



 とりあえず、二人はそう言った。



「音楽は、魔法と強く結びつくものですが……そういう話でもなさそうですね」



 一連の会話を黙って聞いていた店主が、そこで苦笑気味に言った。



「こうして見ていても、わかります。騎士さまは、とても生命力にあふれている。人々が、思わず姿を目で追ってしまうほどに。


 そんな騎士さまの物語なら、誰であれ、聞きたいと思うでしょう。


 詩人たちは、だから。騎士さまを題材にして物語を作り、それで日銭を稼いだのではないでしょうか。聞きかじった小さな出来事を、できるかぎり大きく広げ、飾りたてて」


「ああ、小遣い稼ぎに話を作って、吹聴して回ったんですね。まあ、衝撃的な話の方が人は聞きますし……」


「人の世では、荒唐無稽な話ほど、信じられたりするものじゃしな。しかし、なんで飛び跳ねて叫ぶ……?」



 じんが言い、おばばが言った。



「俺が叫びながら飛び跳ねる事のどこが、聞きたい話になるのかわからん」



 ぼそりと言ってから、ウィルフレッドは息をつき、紅に視線を戻した。



「それで、店主ミストレス。この話は、どこに行き着くのか」


「ああ、申し訳ありません。騎士さまが、どのような方なのかを少し知りたく思いまして。しかし、困りました……」



 店主は、どうしたものかという顔をした。


 この騎士の言葉から推測するに、彼は基本、魔法や魔法に関したことを、詐欺や、戯言たわごとに類するものとして認識しているらしい。どちらかと言うと、科学の発達した時代の人間の感覚に近いように思われる。


 となると、どのように話を持って行けば良いのか……。


 一方、思わず、というふうに漏らした店主の言葉に、じんとおばばは顔を見合わせていた。



「あ~……困りますかね?」


「魔法も音楽も嫌いときては、わしらの言葉をどこまで聞いてくれるか、わからんからの」


「ああ。やっぱ、嫌ってますか?」


「この反応を見ればな。こういう御仁は嫌うあまりに、聞く耳を持たぬという事になりかねん。ま、あっさり信じるよりは良いやもしれぬが」


「あれ? あっさり信じたら、まずいんですか」


「それはそれで、問題があってのう。妙に依存してきよる者もいる。


 そういう者はどうかすると、わしらが何か、万能かのように思いおる。そうして何かあれば、なぜ自分を助けないのかと、口をきわめてののしりおる。


 それが人とは言え。対価もなしに利用しようとは、性根が醜いにもほどがあるじゃろ」


「そうですねえ」



 二人してうんうんとうなずきながら、話している。


 ちなみに声をひそめるという事もないので、まるまる全部、ウィルフレッドの耳に入っている。ミストレイクの騎士は、二人の会話を耳にして眉をひそめていた。なんだ、この会話は。



(まるで、自分たちが人間ではないかのような言い方をする……)。



 これは、あれか。あれなのか。



(ロード・アランの、『ロマンの指導』によるものか……!? どこまで領民に迷惑を!)



 眉間のしわが深くなった。ロマンはもう良い。魔法も音楽もどうでも良い。とっとと帰って、クサレ領主に剣の稽古をつけてやりたい。三日ぐらい、不眠不休で。全力で。そうとも、全力で!


 泣いても、やめてやらん!



「あの……騎士さま。何か、お気に触りましたか」



 そう思っていたら、自分で思う以上に不機嫌な顔になっていたらしい。店主にそう尋ねられた。はたとなり、ウィルフレッドは店主に意識を戻した。表情をどうにか普通に戻し、咳払いをする。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ