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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
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さらに、さらに、その店では。1

 沈黙が落ちた。


 その時のウィルフレッドの心理を言い表すなら、ここも領主の手の内だったか! の、一言に尽きた。


 魔法小路を探せと言われて出向いた先で、ここは魔法小路だと言い張る男女に出会う。ロマンか。最初っから、ロマンの演出のために俺をあちこち引きずり回し、最後の仕上げにここで食事をさせたのか。


 酔狂なあるじの迷惑なたわごとに付き合っている男や女たちに、いったい、どれだけの金銭を支払ったんだ、うちの領地は今、資金繰りに困っていたんじゃなかったのか、と、本気で怒髪をつきそうになった。


 故事にも言われるが、人は、それまでの行いによって判断されるものである。ロード・アラン・ミストレイクの、ロマンがからんだ事に対する行いに関しては、ウィルフレッドの信頼は、地の底まで落ち込んでいた。



「魔法小路?」


「はい」


「ここが?」


「はい」



 それでも何とか平静を保ちつつ、店主の言葉をくりかえすと、店主はしごく穏やかに、普通の様子でうなずいた。


 見事だ、とウィルフレッドは思った。見事に自分の役割を演じている。不自然な所は全くない。もらった金銭に見合うだけの働きはしようと、努力しているのだろう。見上げたものだ。


 領民に罪はない。


 雇われた者たちにも罪はない。


 悪いのはすべて、ロマンを声高に叫ぶクサレ領主だ。よし、帰ったら、性根が入れ換えられるまで、騎士としての訓練に付き合ってもらおう。領主と言えど、自分の身を護るぐらいの訓練はせねばならないしな。うむ。文句は言わせん。



がたたっ。



 妙に穏やかな様子ではあるが、しかし殺気を放ち出した騎士に、じんが青ざめて後退った。逆に、おばばは身を乗り出している。



「こりゃまた、黒いものが漂っておるわい。なんぞ、妙なことを考えておるようじゃのう」


「黒いって言うか、なんか怖いです」


「と言うか、今の説明で納得したのかの?」



 それについては、店主自身も不安であった。魔法や、それに類することは嫌っている様子の騎士が、『ここは魔法小路です』と言われてすぐに、そうかと納得するとは思えない。


 しかし、この騎士が、なぜここに迷い込んだのか、何をもって、滞在の契約としたのかがわからなければ、彼は、時が果てるまで、ここで彷徨い続けることになってしまう。


 ここでの契約は、そういうものだからだ。



「騎士さまには、魔法小路について、どのような話を聞いておられますか」



 それでも話を進めねば、糸口が見つからない。殺気を放つ騎士の様子をつとめて気にしないようにしながら、店主が尋ねた。



「あまり多くはない。魔女がいるとか、呪いをかけられるとか、やくたいもないものが多かったが……ふむ。すると、店主どのは魔女ということか?」


「わたしは、ただの、茶屋の店主に過ぎませんが……」



 なぜか、ええー。という声が、おばばとじんから上がった。



「わたしがしている事は、お茶やお菓子を出している、それだけでしょう」


「まあ、それだけって言ったら、それだけですけどね」



 微妙な顔をしつつ、じんがぼそりと言った。



「あっ、それじゃあ、俺はパンを焼いているだけですね!」


「わしは、駄菓子を集めたり、配ったりしているだけじゃの」


「おばばさまは、まじないをするじゃないですか」


「あの程度、魔法のまの字にかすりもせんわい」



 わいわいと言い出す二人に、「少し、黙っていて下さい」と店主から声が飛んだ。二人は黙った。



「魔女、という存在については。どのように理解しておられますか」



 店主の問いかけに、ウィルフレッドは少し考えてから答えた。



「怪しげなことを言いふらし、うさん臭い薬を鍋で作る、迷信深い老婆たちだな。たまに恐ろしく迷惑だ」



 以前、ミストレイク城に、人気のない場所で夜半、怪しげな叫び声があがるという怪異が起きた事があった。


 城に住み着いた妖精か、幽霊のしわざかと、一時は騒然となったが、件の叫び声の正体をあばかんと、ウィルフレッドが夜通し見回りをしてみた所、月の光を浴びた若い騎士見習いが、奇怪な踊りをしながら鷹の鳴きまねをしている、という場面に遭遇した。


 なんでも、彼の出会った『魔女』を自認する老婆から、「こうすれば、強くなれる!」と言われ、それを信じて実行していたらしい。


『鷹』のウィルフレッドが悪人を倒す際にやった、勝どきの動きと叫びを、月光の元で続けることで、その強さを身につけることができる! と言われたのだそうだ。


 なお、彼の動きと叫びは、彼の住んでいた村に来た吟遊詩人から覚えたらしいのだが、ウィルフレッドの目にはどう見ても、引きつけを起こした熊か何かが、暴れているようにしか見えなかった。


 詩人に才能がなかったのか、騎士見習いの方に問題があったのかはわからないが。


 妙ちきりんな踊りや叫び声を、『鷹』のウィルフレッドがやった事ですから! と堂々と言われ、彼の中で何かが切れたのは言うまでもない。


 訓練すれば、嫌でも強くなれるわ~! と一喝。その後、騎士見習いはしごきにしごかれ、二度と奇怪な踊りも叫びもしなくなった。


 ちなみにこの話はなぜか、『ウィルフレッドの幽霊退治』として、彼が怪しげな魔物や幽霊をばったばったと倒してゆく話に改竄され、あちこちの村で現在も歌われている。



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