●番外編 梅醤番茶(うめしょうばんちゃ)
※ティラミスさんとサー・ウィルフレッドがお店の常連になったころの話。時系列的には未来です。
「紅さぁ~ん、なにか、あったかいものあります……?」
「あれ、調子悪そうですね、ティラミスさん」
「ずーっと暑かったから、冷たいものばっかり飲んでたの。そしたら、お腹が痛くなっちゃって……」
「ああ、……じゃあ、カフェインのないのが良いでしょうね。刺激が少ない方が、体には優しいですから。梅醤番茶はどうですか」
「梅……?」
「つぶした梅干しを入れた番茶です。番茶は、カフェインがほとんどないんですよ」
「おねがいします~……」
「ちょっと待っていて下さいね。お湯をわかします。ええと……あとは。ああ、あった」
ことり。
「湯飲み……? って、え、なにこれ……『男前』?」
湯飲みには大きく、『男前』と書いてある。
「おばばさまからの、いただきものです」
「おばばさま……どこからこんな湯飲みを」
「漢字がわからない方には、神秘的な模様に見えるみたいで好評ですよ」
「えっ、紅さん、外人さんにこの湯飲み出してるの!?」
「こういうのもありますね」
ことり。
「『浪花節だよ人生は』って、これも!?」
「サー・ウィルにこれで飲み物をお出ししたら、喜んでおいででした」
「サー・ウィルに!? え、あの人確か、漢字読めない……なんて説明したの!?」
「辛いことが多い人生でも、人と人とのつながりを忘れてはいけないという意味だと」
「なんだかすご~く良い意味に聞こえるけど、日本語のわかる人には、軽くギャグなんですけど」
「これもありますよ」
ことり。
「『男はつらいよ』……」
「おばばさまは、あの映画がお好きで」
「それでこの湯呑みのラインナップ? まあ、あたしも寅さんは嫌いじゃないけどさあ……」
しゅんしゅん、と湯が沸く。
「もう少し待っていて下さいね。梅干しをつぶして……」
「は~い。あ、なんだか口の中にツバが沸いてきた」
「ショウガをすりおろして……」
「あれ、ショウガも入れるんですか?」
「ええ、あと、醤油も入れます。塩味のお茶になりますよ」
しゃっ、しゃっ、しゃっ、
「これぐらいかな?」
「なんだか、美味しそう」
「あとは、醤油をひとたらし。さて。熱い番茶を注いで、出来上がりです」
温かい、梅干しの香りのお茶。
「ほわ~……なんだか懐かしいような、安心する香り……いただきま~す♪」
* * *
ちょっとお腹がおかしいな、という時には、つぶした梅干しとすりおろしショウガを入れた、梅醤番茶。
懐かしく、優しい味のお茶です。
番外編は、そのうちまた、付け加えるかもです。