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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
48/79

●番外編 花粉症ですね。2

「ドクダミとかもあるよねえ」


「はい。あれも毒素を出してくれる、デトックスのお茶になりますね」


「体を強くするのって、スギナだけ?」


「ネトルもありますよ。イラクサ」


「イラクサ……って、ええっと。何かの童話でなかった? 白鳥の王子さまに、イラクサの上着を編んであげるの」


「アンデルセンでしょうか。エリザ姫の話ですね。お兄さんが、魔女に白鳥にされてしまって、イラクサで上着を編んでかけてあげないと、魔法が解けない」


「ああ、そうそう。そんな話だった。小さいころ、好きだったの。イラクサって、どんな草だろうって思った。ヒイラギみたいな、とげとげの葉っぱなのかなあって思ったなあ」


「雑草ですが、野菜扱いもされますね。ミネラルが豊富なので。

 イラクサは、葉の表面に細かいとげがあって、触れると火傷をしたみたいに痛むんです。一度触ると、半日は痛みが取れません。

 そんなイラクサを素手で摘んで、足で踏んで、糸に紡いで。それを編んで上着にする。とてもつらい作業ですよ。イラクサに触れた事のある人なら、どれほどつらい仕事か良くわかる」


「そうなの?」


「とげに、ヒスタミンがあるんです。乾燥させたり、茹でたりすれば、触れても痛みはなくなるんですが。

 アレルギーのある人にも良いので、花粉症対策で、ネトル……イラクサを飲んでいる人もいますね」


「ふふ。ほんと、いろんなものが、あたしたちを助けてくれるのね。その辺にある雑草が、体を強くしたり」


「ハーブと呼ばれているものも、大半は雑草ですからね。ミントも。さて」



 腕まくりをすると、わきわき、と店主が指を動かした。



「え、ちょ、なに、紅さん」


「足を出して下さい」


「足ぃ!? なんで!?」


「花粉症対策には、まず、体力を上げる。というのが効果的なんですよ。

 ツボを押してみましょうね」


「えええええ、でも、足とか、足とか、ちょ、見せられないですよ~!」


「わたしは平気です」


「いや、あたしが平気じゃないから! 見せられるような足じゃないから!」



 ここの所、くしゃみやら発熱やらで、ぼろぼろだったのだ。身だしなみも最低限になってしまっていて、足の手入れなんぞしていない。

 濃い色のストッキングをはいて誤魔化しているが、見せられる状態ではない。



「良いですから! 結構ですから! あ、ぐしゅっ、は、はっくしょーい!」



 あわあわと慌てて後退ろうとした所で、顔からコットンが落ちた。途端にまた、鼻がむずむずしてきて、くしゃみが出る。



「ええ、さっきまで収まってたのに! なにこれ、紅さん、何か魔法でも使った? はわ、はっくしょい!」


「失礼な。どんな魔法ですか」


「く、くしゃみの魔法~」



 店主は、呆れた顔をした。



「そんな事して何の役に立つんです。足湯の用意をしてきますから、ストッキング、脱いでおいて下さいね」


「あ、あしゆ??」


「まずは、足を温めます。花粉症になっている人は、冷え性でもある事が多くて。体が冷えてしまっている人が多いんですよ。手とか、足とか、末端を触るとわかる」


「え? あ? そ、そうなの? ……そう、かな」



 思わずティラミスは、自分の体を省みた。冷え性。

 そうかも。



「言われてみれば、ここのところ、手とか足とか冷たい……」


「どっちが原因ともわかりませんがね。体を温めてあげて、体力をもう少し上げてあげれば、くしゃみももうちょっと収まるのじゃないかな、と」


「そ、そうかなあ」



 思わず納得しかけたティラミス。そこへ、店主が言った。



「後は純粋に、わたしの趣味ですね!」


「いやだから、なんでそれが趣味なの!?」



 人の足をつかまえて、ツボを押すのが趣味って、どこか間違っていませんか。

 そう思ったティラミスだったが、真顔になった店主に、動きを止めた。え、なに?



「ティラミスさん」


「は、はい」



 思わず背筋を伸ばしてしまう。店主は真面目な顔で言った。



「趣味を持つのは、大事ですよ。人間が生きて行く上で、小さな楽しみを持つことは、人生に彩りをもたらします」


「え、や、そ、それは、そう、でしょう、けど」


「わたし、昔から、一度言ってみたかったんです」


「はい?」



 首をかしげたティラミスに、店主はにっこりして言った。



「『よいではないか、よいではないか』」



 ……。

 …………。

 ………………。



「悪代官か~~~いっ!」



 なんじゃそりゃ~! と叫ぶティラミスに、声を上げて笑う店主。そのままなし崩しに、ティラミスは湯を張ったバケツに足を入れる羽目になった。



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