●番外編 花粉症ですね。2
「ドクダミとかもあるよねえ」
「はい。あれも毒素を出してくれる、デトックスのお茶になりますね」
「体を強くするのって、スギナだけ?」
「ネトルもありますよ。イラクサ」
「イラクサ……って、ええっと。何かの童話でなかった? 白鳥の王子さまに、イラクサの上着を編んであげるの」
「アンデルセンでしょうか。エリザ姫の話ですね。お兄さんが、魔女に白鳥にされてしまって、イラクサで上着を編んでかけてあげないと、魔法が解けない」
「ああ、そうそう。そんな話だった。小さいころ、好きだったの。イラクサって、どんな草だろうって思った。ヒイラギみたいな、とげとげの葉っぱなのかなあって思ったなあ」
「雑草ですが、野菜扱いもされますね。ミネラルが豊富なので。
イラクサは、葉の表面に細かいとげがあって、触れると火傷をしたみたいに痛むんです。一度触ると、半日は痛みが取れません。
そんなイラクサを素手で摘んで、足で踏んで、糸に紡いで。それを編んで上着にする。とてもつらい作業ですよ。イラクサに触れた事のある人なら、どれほどつらい仕事か良くわかる」
「そうなの?」
「とげに、ヒスタミンがあるんです。乾燥させたり、茹でたりすれば、触れても痛みはなくなるんですが。
アレルギーのある人にも良いので、花粉症対策で、ネトル……イラクサを飲んでいる人もいますね」
「ふふ。ほんと、いろんなものが、あたしたちを助けてくれるのね。その辺にある雑草が、体を強くしたり」
「ハーブと呼ばれているものも、大半は雑草ですからね。ミントも。さて」
腕まくりをすると、わきわき、と店主が指を動かした。
「え、ちょ、なに、紅さん」
「足を出して下さい」
「足ぃ!? なんで!?」
「花粉症対策には、まず、体力を上げる。というのが効果的なんですよ。
ツボを押してみましょうね」
「えええええ、でも、足とか、足とか、ちょ、見せられないですよ~!」
「わたしは平気です」
「いや、あたしが平気じゃないから! 見せられるような足じゃないから!」
ここの所、くしゃみやら発熱やらで、ぼろぼろだったのだ。身だしなみも最低限になってしまっていて、足の手入れなんぞしていない。
濃い色のストッキングをはいて誤魔化しているが、見せられる状態ではない。
「良いですから! 結構ですから! あ、ぐしゅっ、は、はっくしょーい!」
あわあわと慌てて後退ろうとした所で、顔からコットンが落ちた。途端にまた、鼻がむずむずしてきて、くしゃみが出る。
「ええ、さっきまで収まってたのに! なにこれ、紅さん、何か魔法でも使った? はわ、はっくしょい!」
「失礼な。どんな魔法ですか」
「く、くしゃみの魔法~」
店主は、呆れた顔をした。
「そんな事して何の役に立つんです。足湯の用意をしてきますから、ストッキング、脱いでおいて下さいね」
「あ、あしゆ??」
「まずは、足を温めます。花粉症になっている人は、冷え性でもある事が多くて。体が冷えてしまっている人が多いんですよ。手とか、足とか、末端を触るとわかる」
「え? あ? そ、そうなの? ……そう、かな」
思わずティラミスは、自分の体を省みた。冷え性。
そうかも。
「言われてみれば、ここのところ、手とか足とか冷たい……」
「どっちが原因ともわかりませんがね。体を温めてあげて、体力をもう少し上げてあげれば、くしゃみももうちょっと収まるのじゃないかな、と」
「そ、そうかなあ」
思わず納得しかけたティラミス。そこへ、店主が言った。
「後は純粋に、わたしの趣味ですね!」
「いやだから、なんでそれが趣味なの!?」
人の足をつかまえて、ツボを押すのが趣味って、どこか間違っていませんか。
そう思ったティラミスだったが、真顔になった店主に、動きを止めた。え、なに?
「ティラミスさん」
「は、はい」
思わず背筋を伸ばしてしまう。店主は真面目な顔で言った。
「趣味を持つのは、大事ですよ。人間が生きて行く上で、小さな楽しみを持つことは、人生に彩りをもたらします」
「え、や、そ、それは、そう、でしょう、けど」
「わたし、昔から、一度言ってみたかったんです」
「はい?」
首をかしげたティラミスに、店主はにっこりして言った。
「『よいではないか、よいではないか』」
……。
…………。
………………。
「悪代官か~~~いっ!」
なんじゃそりゃ~! と叫ぶティラミスに、声を上げて笑う店主。そのままなし崩しに、ティラミスは湯を張ったバケツに足を入れる羽目になった。