表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
47/79

●番外編 花粉症ですね。1

短く終わらせるつもりが、何だか長くなってしまいました……番外編です。



「ぶ、ぶぇにさあ~ん……」



 くぐもった声がした。店主が振り返るとそこには、マスクで顔を半分以上隠しながら、鼻をぐしゅぐしゅいわせているティラミスがいた。

 ちなみに涙目だ。



「ティラミスさん……?」

「うう、かゆ、顔がかゆい~、ぶ、ぶえっくしょ~い!」



 意外と男らしいくしゃみをしてから、ティラミスはその場にへたり込んだ。



「ふひい、もお、もお、毎年こうなんだから。もおイヤ~~~!」

「花粉症ですね……」



 みーみーと泣きながら、バッグの中のティッシュを探すティラミス。店主は困ったような顔をしてから、「とりあえず、席についてください」と言った。



* * *



「紅さんは、花粉症とかないの?」



 ペパーミントとユーカリ、タイム、そしてスギナを混ぜたお茶をいれてもらったティラミスは、ゆっくりと湯気を吸い込み、ほーっと息をついてから尋ねた。



「そのお茶、香りがアロマテラピーになりますから、ゆっくり吸い込んでから飲んで下さいね。湯気は肌に当てて下さい。ペパーミントとユーカリは、ほてりを鎮めますから。

 花粉症は、わたしも少しは出ますよ。くしゃみじゃなくて、頭痛として出るんですが」


「それもイヤね……ああ、そうだ。みゆたんも同じだった。頭痛とか吐き気がするって。そういう花粉症もあるんだーって思ったよ……」


「お友だちですか?」


「うん、会社の同僚なの。あたしはくしゃみとか、鼻水とかで、すんごーくみっともない状態になるでしょ。頭痛なら、まだマシかなあって思ってたんだけど……。

 みゆたんは、みゆたんで、大変みたい。ずーっと頭に重しが乗ってる感じなんだって。ひどい時には、集中して考える事もできないし。

 あと、頭痛だったら、見た目が花粉症ってわからないから。具合の悪い時にも、あんまり同情してもらえないんだって。あたしみたいにすぐ『花粉症』ってわかる方が、うらやましいって言われた」


「そうですね。頭痛だと、見た目は普通ですから……風邪と勘違いして、無理をする人もいますし。飲む薬を間違えたり。

 わたしも最初は風邪だと思っていたので、使っていたハーブが違っていたんですよ」


「そうなの?」


「フィーバーフューというハーブがあって、これは偏頭痛に使われるんですが。頭痛のひどい時に飲んでいました。

 花粉症だと、でも、違うんですよね。使うべき薬草が」



 苦笑しながら言った店主は、小皿とコットンを持ってくると、ティラミスの前に置いた。



「なあに?」


「カップの中のお茶がさめてきたと思うので。小皿に少し移して、コットンを浸して下さい。はい。それぐらいで。

 そのコットンを顔に当てて……鼻の周りとか、赤くなっていますから。ぱたぱたして下さい」


「うあ~……なんっか、キモチイイ……」



 お茶はまだ温かかったが、小皿に移すとかなりぬるくなった。その液体を浸したコットンを肌に当てると、ペパーミントの効果でひんやりする。



「ミントは、鼻づまりした時に、鼻を通してくれますからね。むずむずするのを、抑えてもくれますし。

 くしゃみや鼻のかみすぎで、ぎっくり腰になる人もいますから……こういうお茶を飲んだり、肌につけたりするのは良いと思いますよ」


「え、ぎっくり腰?」


「くしゃみをする時に、腹筋を使うでしょう。あれを何回もやっている内に、腰をやられるみたいです」


「はわ~……」



 じゃあ、あたし、危ないんじゃない? と、鼻の頭にコットンを貼り付けたまま、ティラミスは思った。くしゃみを何とか、抑えるようにしないとなあ。



「お茶の方も、飲んで下さいね。少しはマシだと思います」

「あ、はい。ん? いつもよりなんだか、苦い、と言うか、味が濃い……?」

「薬湯の状態にしましたから。いつもより長く蒸らして、成分を出しています。その分、苦くなってしまったかもしれません」

「そうなの……ね、これって、花粉症に良いお茶? みゆたんにも、教えてあげたいんだけど」

「くしゃみが出たり、かゆくなる人には、良いと思いますよ。頭痛の人には、どうかな? スギナを入れたので、体力を回復するのには良いとは思いますが……」



 店主が首をかしげる。



「うーん、もお、すぐにぱーっと効くようなお茶とかないの?」


「ありませんねえ」



 苦笑して、店主は言った。



「すぐに効く、というのは、現代医学の抗生物質ですよ。原因を特定し、そこを集中的に叩く。

 薬草を使った自然療法は、日常的に使うことで、体を全体的に整え、ゆっくりと回復させてゆきます。だから、効果が出るまで、時間がかかるんですよ。

 ただ、病気と言えないような小さな不調には、自然療法の方が、体を楽にしたりしますね。

 ずっと痒みが出るとか、だるいのが続くとかは、病気ではないけれど、あるとつらい不調です。

 そういうものには抗生物質を使うより、日常的に食べたり飲んだりする、薬効のある野菜や果物や、薬草を使った方が、体も気分も楽になったりします」


「野菜?」


「花粉症を考えると、冬の間に体に溜めてしまった毒素が出きっていない状態で、体力が衰えた時に、出る事が多いでしょう?

 解毒や体を浄化する作用のある野菜を食べて、体の中を綺麗にするのも大事です」


「デトックスってことよね。繊維の多いもの? ごぼうとか、筍かなあ」


「ツクシも良いですよ」



 それじゃ、ごぼうのお味噌汁に、筍ごはんとか、してみようかなあ。とティラミスは考える。ツクシも摘みに行かないと。



「ツクシ、摘みに行くのなんて、子どものころにやったきりだわ。でもなんだか、ちょっと楽しみかも」



 何となく楽しい気分になって、ティラミスは言った。土手にしがみついて、必死になってツクシを集めた事があったっけ。

 たくさん摘んだのに、ゆがいたら、ちょっぴりになっちゃって。がっかりした。それでも自分で摘んできたツクシは、すごく美味しく感じたのを覚えている。

 大きくなってから、店で売られているツクシを食べた事もある。でもその時は、なんだ、こんな味かと思った。

 それなりに味付けがされていて、昔食べた、お母さんがゆがいてくれた、あのツクシより、きっと、ずっと、美味しい味だった。

 けれど、あの時、必死になって集めたツクシの方が。ティラミスには今も、ごちそうだったと思えるのだ。



「ツクシの後に出るスギナは、体を回復させるハーブです。東洋でも、西洋でも、穏やかに体を強くする薬草として使われてきました。

 大地はわたしたちに、たくさんの助けを与えてくれる」



 静かに言う店主に、なんだか紅さんの言うことは、いつもどこかでちょっと不思議だなあ、とティラミスは思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ