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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
43/79

家臣は新たなる奈良漬けにがっくし。4



「……」



 ウィルフレッドは、くねくねしている手を見下ろすと、咳払いをした。

 それから、少し気まずげな顔をしてから視線をそらし、言った。



「ああ、まあ……このような場所では、ノミも多くいたりするものだからな。

 気づいてやれず、悪かった。確か、ペニーロイヤルミントをいぶした煙が効果的だそうだ。試してみると良い」



 ぴしり、と空気の凍りつく音が、どこかでした。

 なんてことだろう。

 彼はこの腕の媚態と精一杯の誘惑を、『ノミにたかられてかゆいから、もぞもぞしている』と判断したのである。

 そうしてさらに、固まっている腕に向かって言った。



「そなたもいつまでも、このような所では苦痛だろう。もう帰ると良い。後は気にするな。無理を言う者がいれば、どうにかする」



 まさかの三度目の『帰れ』発言。

 ちなみにウィルフレッドは既に、レディ・アリシアに連絡してロード・アランにお灸を据える気満々である。実は今回に限っては濡れ衣の領主であったが、そんな事とは彼は知らない。

 必ず叱りつけてやろうとの決意も新たに、きっぱりとそう言った。



『……』



 腕がうなだれた。何か敗北感のようなものを漂わせていた。

 それと同時に、ふっ、と灯が消える。



ばたり。



 音を立て、窓が閉じられる。戸板が閉まる音。



ばたり。

ばた、ばたり。

ばた、ばたばた、ばたた……。



 その音は周囲からも次々と響き、家々の窓が閉じられた。そうして灯が消えてゆく。

 人の気配とざわめきも。



ばたり。

ばた、ばた……。




 そうして、最後の音が消えた時。


 集落は元通り、薄暗く、人気なく、生き物の気配らしき気配もない、寂れた静けさをまとう、空虚な場所となっていた。


 ウィルフレッドは、周囲を見回すと息をついた。



「見事なものだ……」



 これほど連携の取れた行動は、なかなかできる事ではない。旅芸人の一座が芝居をするのを見た事があるが、これほどではなかった。



「どれほど練習を重ねたのか」



 これは是非領主に、多くの褒美を出させてやらねば。

 感嘆の思いと共にそう考えていると、夕闇に沈むその場所に、笑い声が響いた。

 女の声だ。

 ウィルフレッドが振り向くと、少し離れた所に、人影があった。黒いフードつきのマントで、全身を覆っている。

 笑っているのはその人物だ。声からして、若い女性だろう。しかし。



「ぐ、ぐふっ、ぐふふふっ、ひ、ひひひひひ~っ」



 若い女性と言うのはもう少し、小鳥のような笑い声を上げるのではなかったか。



「ぐひっ、ひ、ひひひ、……うひひひひひ! 笑いがとまらんわい。ひ~っひっひっひ! 腹がよじれるっ! うひゃひゃひゃひゃ~っ」


「……」



 体をくの字に曲げ、ひたすら笑っているその人物に、ウィルフレッドはどうしたものかと眉間にしわを寄せた。


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