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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
33/79

甘味はうろたえる涙をごそり。4

なぜだろう。書けば書くほど領主がヘタレに。


「それで、俺、いや、わたしに何をさせたいのですか」



 怪しい絵から視線を外すと、ウィルフレッドはロード・アランに向かって尋ねた。いろいろと思う所はあれど、自分は騎士だ。

 ミストレイクの騎士だ。

 主君が命を下すとあらば、従わねばならない。たとえ、その主君が多少ヘタレで、迷惑極まりない趣味の持ち主であったとしても。

 ヘタレで、迷惑極まりない趣味の持ち主であったとしても。



「おまえ、何か失礼な事を考えてないか」

「いえ別に」



 主君を見つめている内に、つい心の中で力強く、二回繰り返してしまったウィルフレッドだったが、ロード・アランの言葉にそう答えると、質問をもう一度繰り返した。



「何を、命じられるおつもりなのでしょうか、マイ・ロード」



 微妙に声音が重々しくなるのはしかし、止められなかった。



「だからなぜそう、脅すように……まあ、つまりだな。ここはやはりロマンの追求……」

「マイ・ロード」

「あ、いや。おまえとて、追求したくなるだろう?」

「何を、でしょうか、マイ・ロード」

「いやその、あのな? 魔法小路だぞ?」

「それが何か」

「それが何かって……魔法小路だぞ! そこから出てきた品物だ!血湧き肉躍るロマンの気配を感じずして、なにがおとこか!

 果てしなきロマンの始まりが今! ここに!」

「その口を、今すぐ閉じていただけませんでしょうか、マイ・ロード」



 殺気を放ち出したおのが騎士を見て、領主は黙った。



「兄上の戯言たわごとは置いておいて。僕からも頼みたいんだよ、サー・ウィル」



 そこでにこやかに、デイヴィッドが言う。ロード・アランは自分の弟に、情けない表情で視線を投げた。



戯言たわごとっておまえ……」

「兄上は黙っていてください。まとまる話もまとまらない」

「お、俺はおまえの兄で、ここの領主だぞ?」

「そうですね。では、黙っていてください」



 笑顔で言われ、領主は黙った。何とはなし、背中がすすけている感じだった。相手にすらしていないデイヴィッドの笑顔に、ウィルフレッドは内心、敬意を覚えた。



「話を聞いてもらえるかな」

「聞きましょう」



 主君である人物を置いておいて、二人は真剣な顔で向かい合った。「俺の存在意義は……」とか何とかつぶやく領主の声が聞こえたが、二人とも無視した。



「見てもらった通り、この品物は色々な意味で異常だ。よく、兄上の手に渡る前に、焼き尽くされなかったものだ。

 そうして、これの重要性は、中身にはない。魔女の呪いとやらにはね」



 デイヴィッドが話し始める。ウィルフレッドは無言で、彼の言葉の続きを待った。



「知っての通り、わがミストレイク領は、辺境にある土地だ。領民は勤勉で、よく働く。しかし、それだけではやって行けない。

 王への税、王国への進入をはたさんとする異民族の撃退、盗賊たちへの対応。それらと同時に力なき領民を守り、養い、導く義務がわれらミストレイクの一族にはある。

 その支えとなるのが家臣たちであり、騎士であるのだが」

「はい」



 うなずいたウィルフレッドに、満足げに笑いかけると、デイヴィッドは続けた。



「ミストレイクの特産物は、羊毛と毛織物。それでどうにか税は支払えたし、民を守り、家臣に報い、騎士や兵士を育てる資金、いざという時には傭兵を集める資金にもなってきた。

 しかしそれも、近年は危うくなっている」


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