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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
32/79

甘味はうろたえる涙をごそり。3

「見てもらいたいのは、その絵や顔料だけじゃないんだ。ウィルフレッド。それに触れてごらん」



 デイヴィッドが言った。ウィルフレッドは、ちらりと彼の方を見た。



「触れても、大丈夫なのですか?」

「聖水をかけたり、香炉の煙でいぶしたり、色々やったらしいから、呪詛があっても払われているよ。大丈夫」



 水をぶっかけたり、煙でいぶしたりしたらしい。パチパチパニックの袋を。



「修道士が何日も、祈祷をした。そうして月が一巡りするほどの間、様子を見たらしい。

 その結果、何かあったとしても、効果は失せていると判断された。僕が触っても平気だったし、安心して良いよ」



 一月の間祈祷をして、様子を見ていたらしい。パチパチパニックの袋を。



「顔料も、取れたりしない。普通、そういう事をしたら、傷んだりするものなんだけれどね。それの異常な所は……、

 うん、口で言ってもわからないと思う。とにかく触ってみて」



 デイヴィッドにうながされ、ウィルフレッドは、用心しつつその絵に触れた。



(……?)



 なんだ、これは。



「硬い……?」



 布にしては、妙に硬い。金属というほどでもないが。

 硬く、つるりとして、すべらかだ。こんな感触の品物は、初めてだった。

 指を滑らせて、端の方に触れてみる。意外ととがった感触に驚き、また、薄さにも驚いた。

 縫い目がない。糸目も見えない。


 何をどうすれば、ここまで薄い布を作る事ができるのか。



「いったい、何の糸で織られているんだ。絹地の感触とも違う」



 表面の光沢は、燭台の炎を反射した。まるで金属か何かのように。

 もう一度、絵の表面をなぞってみる。そうして、気づいた。



「顔料の、盛り上がりがない……?」



 絵を描いたなら、どのように薄く塗ったとしても必ず出る、顔料を塗った事によるでこぼこが、その布にはなかった。

 あくまでもすべらかで、つるりとしている。

 ありえない事だった。



「これは……いったい、どれほどの技量を持った画家が描いたのか」



 技量があるわけではなく、印刷してあるだけなのだが、そうした技術のないこの世界の住人には、驚嘆すべき匠の技に見える。

 描かれているのは、擬人化されたコーラ瓶が、パチパチはじける感触に、うひい、となっている顔なのだが。



「僕も驚いた。後ね。それ、ちょっと持ち上げてみて」



 言われてウィルフレッドはその絵を持ち上げ、眉を上げた。



「何か、入っている?」



 これはどうやら、極限まで薄く織った布を二枚縫い合わせ、中に何かを入れた品らしかった。布が薄いので、はっきりわかる。小石のようなものが入っている。



「開けて中身を見るかどうか、修道士たちも悩んだらしいよ。表面の絵が、どう見ても危険を知らせる感じだし」



 単に、パチパチはじけてます、な顔なのだが。



「何が出てくるかわからないから、そのままにしておけって事で。後は兄上にお任せになった」



 変なものが出てきても怖いし、結局、妙なものを集める趣味のある領主に丸投げされたらしい。



「魔女の呪いを封じた護符だろう、というのが、それを調べた修道士たちの見解だ。力を封じたものは、他の呪詛に対して、有効な魔よけになるからな」



 ロード・アランが言う。ウィルフレッドは「そうなのですか?」とそちらを見た。領主は重々しくうなずいた。



「そのような話を聞いた事がある。

 これはおそらく、何らかの呪詛を、この絵と、縫い目のない袋に入れることで完璧に封印しているのであろう」



 実際の所は、お菓子が湿気らない為の完全密封であるが、まさかそのような用途であるなどとは、この世界の住人は思いもよらないだろう。


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