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魔法小路のただの茶屋  作者: ゆずはらしの
2.騎士がやって来た日。
31/79

甘味はうろたえる涙をごそり。2

 ウィルフレッドは、そちらに目をやった。机の上には平べったい、小さな物があった。



「絵……?」



 鮮やかな色彩が目に入る。薄っぺらいので、布だろうか?

 デイヴィッドが燭台を手にし、机の上に置いた。少し横に下がり、ウィルフレッドをうながしてくる。

 ウィルフレッドは近づくと、それをつくづくと見た。



「刺繍……ではない……、こんなに鮮やかな色が出せる顔料があるのか。

 この赤。まるで、今さっき仕上がったかのようだ。こんな鮮やかな発色をしている赤は、始めて見た。

 この絵は……、何なのだろう。顔? 何かの文字もある。呪文か? 魔よけの札か何かですか、これは?」



 その絵は、禍々しいほど鮮やかな色彩で描かれていた。

 何かの文字らしきものがあちこちに描かれている。少し斜めになって記されているそれは、魔術の記号めいていた。

 細かく、小さな文字が記されているのは、何かの解説か。それとも、呪文を補強するための別の術か。

 鮮やかな黄色、青、緑。濡れたように輝く黒。そして、惜しげもなく使われた、赤い顔料。

 高価な赤をここまで使うとなれば、この絵は、何かよほどの事があって描かれたという事になる。

 しかし、その絵は、良くわからないものだった。黒い線で縁取られ、くっきりと描かれているのだが、何を意味しているのか不明なのだ。


 顔のようだった。それはわかる。

 人間ではないかとも思えるのだが、それにしては形がおかしい。耳がない。

 髪の毛も、頭のてっぺんにあるわずかなものを残して、ない。

 そうしてその顔だが……、


 恐ろしいことに、苦悶に歪んでいた。


 細長い顔は、口を開き、歯を剥きだしている。鼻はない。

 片目はどうも、つぶっているようだった。そうして、もう片方の目は……これは、矢か。矢で射られた傷跡か。



「拷問にかけられた人間か……?」



 ウィルフレッドは顔をしかめた。この絵は、耳と鼻をそぎ取られ、髪を剃り落とされ、片目を矢でえぐられ、最後には首を切られた人間ではないだろうか。

 よほどの苦痛と恐怖を与えられたのだろう。わずかに残っている髪は、真っ白になっている。

 そんなものを絵にするとは、何と恐ろしい。

 どれほどの悪辣あくらつな意思と、魔術が込められているのか。



「俺もそう思う。何とも不気味だが、デイヴィッドの話では、世界には動物や人間の首を乾燥させ、魔よけ代わりに吊るす民族もいるらしい」



 領主が言う。その言葉に驚いて振り返ると、デイヴィッドがうなずいていた。



「そうなのですか?」

「書物で読んだだけだけれどね。恐怖を感じるようなものを並べて、魔物を威嚇いかくするらしいよ。人の首はさすがに、悪趣味だとは思うけれど……。

 これがその類のものだとすると、高価な顔料を惜しげもなく使っていることから、何かよほどの事が起きたのだと推測できるね。

 ひどい疫病が流行って、それを退けようとしたとか。

 それか、天災や飢饉ききんといった災厄を払おうと、祈願したのかもしれない」



 ウィルフレッドは、絵の方に視線を戻した。そう考えると、描かれた顔が苦悶に歪んでいるのも、そうした苦難を訴える為なのかもしれないと思えてくる。

 不気味は不気味だが。



「こんなものを、農夫が持ち歩いていたのですか……」

「本人は、普段は真面目なんだけれどね。酒が入ると、色々とやらかすらしいんだよね。これも、酔っていた時に手に入れたとかで、酔いが醒めたら、絵の恐ろしさに失神しかけたらしい。

 何とかしてくれと顔見知りの修道士の所に駆け込んで、そこからまわりまわって、兄上の所に運ばれてきた。一応、魔払いの儀式とか、いろいろはされているよ」



 緊張する三人の前にある、鮮やかな絵。

 もしここに、現代日本に暮らす人間がいたならば、その文字はこのように読めただろう。



『パチパチパニック! コーラ味』



 某製菓会社が出している、子ども用の駄菓子の袋である。


この回の為だけに、明治製菓のホームページを検索しまくりました。



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