俺は小学1年生の時に女の子に告白をした。それをネタに、その女の子に一生揶揄われている
【告白編】
「みくちゃん! ぼくとつきあって!」
ぼくはかおを赤くした。ゆうきをだして、こくはくした。あさのはんとう校で、ぼくはドキドキして、みくちゃんにこくはくした。
みくちゃんは、キョトンとしたかおで、ぼくを見ていた。はんのみんなは、すこし、おどろいたかおをしていた。
「ぶふッ……! あははー! なにそれー! そうたくん、おかしいーんだー!」
みくちゃんが、おかしそうに、すこしわらった。なぜかわからないけど、みくちゃんはわらった。
「どうしてわらうの?」
ぼくは、あたまにハテナを出して、わらわれたいみを、みくちゃんにきいた。
「だってわたしたち、まだ小学生だよ? ……なのに、そうたくんはわたしにこくはくなんてしたんだもん!」
はんのとし上のおにぃちゃんと、おねぇちゃんたちが、うんうんと、くびをたてにふっていた。
じぶんの子どもを、お見おくりするために、あさのはんとう校にやってきた、おかあさんたちは、なぜかほほえましい? そうに、ぼくを見ている。
ぼくは、なにがいけなかったのか、わからず、下をむいて、しゅんっとした。
そんなぼくのところに、みくちゃんは歩いて、ちかずいてきた。
みくちゃんは、げんきよく、ぼくにこえをかけた。
「でも、ありがとーね! そうたくんのこくはく、うれしかったよ!」
ぼくは、みくちゃんのそのことばで、パッと、かおを上げて、あかるいひょうじょうをした。
ぼくのかおのまえには、みくちゃんの、えがおがあった。
みくちゃんのえがおを見て、うれしくなり、ぼくもえがおになった。
「みくちゃんのこと、ぼくがぜったいまもるからね!」
◇◇◇
これが俺と美空の始まりだった。そして、それと同時に、今後このネタで美空が俺を揶揄い続けることになるとは、当時小学1年生だった俺には知る由もなかった。
◇◇◇
【小学生編】
「ねぇねぇ! みんな聞いて聞いて! そう太君ったら、1年生の時にわたしに告白してきたんだよ!? ぶふッ! 今考えただけでもおもしろーい!」
ポニーテールを揺らしたみくちゃんに、今日もクラスのみんなの前でからかわれていた。僕が1年生の時に告白したこと。
みくちゃんのそのからかいにはずかしくなり、僕は少しうつむき、顔がカーッと熱くなった。
みくちゃんはどうしていつも、僕をからかうの?
小学校の6年間ずーーーっと、僕はみくちゃんにからかわれていた。でも、その理由が僕には分からない。
「みくちゃん、いっつもその話しするよね〜?」
「うんうん、それ、今までもう何十回も聞いた話しだよー」
みくちゃんと一緒に話していた友達が、少しおかしそうにみくちゃんへ話した。
「ふふんっ! だって、おもしろいんだもん! 1年生で告白されるなんて思わないよ〜」
そう言ってみくちゃんは少し嬉しそうに話し、トコトコと僕のところへやってきて、はずかしくてうつむいている僕の後ろからギュッとだきつき、腕を胸元に回した。そしてみくちゃんが僕の肩に頭を置いて、耳元で嬉しそうに声を出した。
「ねぇーー? そう太君!」
「ッ……!」
みくちゃんに後ろからだきつかれて、そして、耳元で声を出されたことで、僕はもっとはずかしくなって、顔を真っ赤にする。
僕はみくちゃんに何も言えず、ただ、だまってみくちゃんの腕をギュッとした。
◇◇◇
【中学生編】
中学1年生になってしばらく経ったある日、オレは朝、教室にやってくると、黒板にデカデカとこんな事が書かれてあった。
『そう太君は、私、美空に、小学1年生の時に告白してきました』
黒板にデカデカと書いてあるその文字を見て、オレは声を大きくしてみんなにたずねる。
「おい! 誰だよこれ書いたやつ!」
そうは言ったものの、正直、本当は誰なのかなんとなく分かっていたりする。なぜなら、答えが黒板に書いてあるから。
そのため、オレの視線はとある女の子に向いていた。
「私でーす! 私、美空でーす! ふふん! 良いでしょこれ!!」
「やっぱりお前か! 早く消してよ! 恥ずかしいんだぞこれ!」
オレのその言葉に、教室が笑いでつつまれた。
オレはカバンを机の上に置いて、走って黒板までやってくる。その横に美空もやってくる。
横にやってきた美空は、ニコニコとしながらしてやったりといった表情をしていた。
その後、オレと美空は一緒になって文字を消していく。
──くそう! いつまでもからかって……! いつか絶対からかい返してやる!
そんなことを思うけれど、でも、それ以降もからかわれ続けるのだった。美空をからかっても軽く流されるだけ。なんでだ……。
◇◇◇
「颯太ったら、私に小学1年生の時に告白してきたんだよ? まだ知り合って間もなかったのに」
「あー……。颯太って美空と仲の良い隣のクラスの人でしょ? 美空っていっつもその男子の話するよね」
「小学生で告白するなんて……凄いね……」
この2人は今年始めて同じクラスになって仲良くなった友達。
中学3年生では、私は颯太と同じクラスになれなかった。でも、いつものように颯太を揶揄っていた。颯太のいないところで。
「そうなの! まだちっちゃかった颯太が「みくちゃん! ぼくとつきあって!」って、顔を真っ赤にさせて告白してきたんだよ! 超キュート!」
私はあの時の颯太の告白を思い返しながら、笑顔を浮かべて2人に話した。
その後、私は少し顔を赤くさせて、高校では颯太と一緒のクラスになれたら良いな……と、そんなことを思った。
◇◇◇
【高校生編】
今日は高校に入学してから初めての体育祭をやっている。そして、今は借り物競争をしていた。美空が。
俺やクラスメイト達が声を張り上げて美空を応援していた。
ロングストレートに伸ばした髪を揺らしながら、美空がお題箱まで走って行き、箱の中に腕を突っ込む。そして突っ込んだ腕を引き上げて、紙に書いてあるお題を読む。
その後、紙から視線を外して美空がキョロキョロと辺りを見回す。すると丁度、俺と目が合った。美空がパァーと顔を明るくさせて笑顔を浮かべたのち、コチラに向かって走ってくる。
「ねぇねぇ! 私について来て!」
そう言って俺の腕を引っ張り、無理矢理立たされる。
「ひゅーひゅー!! お熱いこって!」
「なんだなんだ!? 何のお題だったんだ!?」
「おい颯太! 美空ちゃんの足引っ張るなよ!?」
クラスメイト達が俺たち2人にニヤニヤとした笑みを向けてきて、揶揄いの混じった言葉を発した。
「うっせえ!」
俺はそれだけみんなに吐き捨てた。
「ほら行くよ!」
そう言って美空が腕を引っ張って、俺は転けそうになりながらも美空の後を追ってゴールへと向かう。
そして俺と美空は同時にゴールテープを切り、見事、1着を獲得した。
この借り物競争を実況席で実況していた放送部員の人が、美空に向かってインタビューをした。
「1着おめでとうございます! 全校生徒に向けて、何か話したいことはありますか?」
インタビュアーとは別の放送部員の人が、俺たちの元へマイクを持ってくる。
美空はそのマイクに顔を近づけて声を出した。
「そうですねぇ……。では一つ、この隣の男子についてお話ししたいと思います。これは小学1年生の時の話──」
「おいちょっと待て!! 全校生徒の前でそれ言っちゃうの!? やばいって!!」
俺は嫌な予感がした。絶対アレだ。小、中と揶揄われ続けたあのネタだ。
俺はすぐさま美空の言葉に待ったを掛けて声を張り上げたが──残念かな。美空は俺の言葉を無視して言った。
「この人ー! 小学1年生の時にー! 私に告白して来たんですよー! そりゃあもう顔を真っ赤にさせてー!」
「やめろおおおおおおおおお!!!!」
俺は慌ててマイクに手を被せるが、残念ながらもう遅い。既に全校生徒に俺の告白ネタが知れ渡った。
美空のその告白と俺の言動により、全校生徒から笑いと甘い悲鳴が校庭全体に響き渡った。
その後、俺たちは“学校公認の夫婦”と呼ばれるようになった。しかもそのネタで、高校3年間他の奴らにも揶揄われる事となった。
俺はそんな奴らにいつも言っていた──
夫婦じゃねぇよ!!
──と。
◇◇◇
【大学生編】
「問題! デデン! 颯太が私に告白してきた年齢は何歳でしょう!」
「ピンポーン! 小学1年生の7歳!」
「ピンポンピンポーン! 正解!」
俺は今、大学のサークルの仲間達と一緒に、居酒屋でお酒を飲んでいた。
ナチュラルメイクを覚えてさらに可愛さに磨きがかかった美空が、お酒で顔を赤くしながらいつもの俺の告白ネタを持ち出していた。しかも問題形式で。
もうそれ、サークルのみんなは知ってると思うんだけど……。だって美空のやつ、いつもそのネタみんなに話してるんだし。
そう思いながら、俺はジョッキを持ち上げてビールを飲むのだが──
「では、次の問題です! デデン! 颯太は私に告白した時、「みくちゃんのこと、ぼくがぜったいまもるからね!」と、可愛く言ってきました」
「ぶふぉッ!!」
──美空のその言葉に、俺は飲みかけていたビールを盛大に吹き出した。
た、確かにそんなこと言ったような気がする……ッ! 今回はなんか変化球で揶揄ってきてない!?
「そこで問題です! デデン! 私は颯太に守られたことがあるかないか。もし守られたことがあるなら、それは何なのか! どうぞ! 答えてください!」
美空のやつ、酔ってるからか2回も『問題です!』って言っちゃったよ……。
それにしても……美空を守ったことか……。そんなこと、今まであっただろうか? いや、あったから問題を出してるんだろうけど。
「ピンポーン! 守られたことがある! どんな感じで守られたか……それは分からない!」
「私は颯太に何回も守られたことあるよ〜! 例えば転けそうになった時に咄嗟に手を引っ張ってくれたり、雨で道路が濡れてて、水溜りにスピード出した車が突っ込んできた時に、咄嗟に私を抱きしめて濡れないようにしてくれたり、変な人に絡まれた時に助けてくれたこともあったな〜。他にも──」
アルコールで酔っているからか、それとも照れているからか、もしくはどちらも当て嵌まるのか分からないが、美空は顔を真っ赤に染めながら、嬉しそうに次々と俺に助けてもらったエピソードを話していく。
俺は当たり前のことをしただけだが、美空からしたら、それは覚えていたいほど価値のあった出来事だったのだろう。
美空の助けてもらったエピソードを聞いてるうちに、段々と俺の顔も赤く染まっていく。これは酔っているからではない。そんなことを覚えてくれていた嬉しさと恥ずかしさで顔を赤く染めている。
サークルの皆んなもその話を顔を赤くしながら聞いている。彼ら彼女らも、もしかしたら俺と同じような感情で顔を赤くしているのかもしれない。
美空は長々と話しているうちに眠気が襲ってきたのか、バタンと横になって寝始めた。
それを見た先輩が美空に気を配ってか、俺に家まで送っていくように命じた。俺はそれに頷いて、美空を背中に背負って居酒屋を出ていった。
◇◇◇
「う、ゔーん……」
頭が回らない。でも、身体が暖かい。特に身体の前が暖かい。この暖かさ、温もり、私がいつも感じているものだ。凄く安心できる暖かさと温もりがある。
私はゆっくりと目を開けた。私の目の前には見慣れた横顔があった。多分、背中に背負われているのだろう。
私は彼をギュッとして、一言、この大好きな人の耳元でボソリと呟いた。
「いつも、ありがとね……」
あまり回っていない頭で、でも、確かに私はそう呟いた。その呟きを最後に、私の意識はまた途切れそうになる。
「こちらこそ──いつもありがとう」
意識が途切れる瞬間、彼が何か喋っていた気がするけれど、私はその言葉を正しく理解すること無く意識を手放した。
◇◇◇
【家族編】
大学卒業1年後、俺は美空にプロポーズをしてそのまま結婚した。
そして今、俺は家族とリビングで夕食をとっていた。俺、美空、そして、5年前に俺と美空との間に産まれた、愛する娘の美羽と共に。
すると、小学1年生の時からある俺の告白ネタで、娘の美羽の前で美空が俺を揶揄い始めた。
「美羽のパパね、小学1年生の時に、ママに「みくちゃん! ぼくとつきあって!」って言ってきたんだよ? ふふっ……。今思い返しても可愛かったなぁ〜」
「ママいっつもパパのことからかってるけど、ママとパパなかいいよね?」
美羽のその言葉に美空はニコリと美羽に笑いかけ、そして、美羽と同じ目線に合わせて、ゆっくりと、分かりやすく言葉を紡いだ。
「それはね、美羽。ママが、パパのことが大好きだから、だよ? だから、いつも揶揄ってるの」
続けて美空は美羽に話す。
「ママはね、パパに告白されたときから、ずっと、パパのことが大好きなの。揶揄いは、愛情表現なんだよ?」
そう。実は俺たち、俺が美空に告白した時からずっと付き合ってたりする。つまり、数十年単位で付き合っていたのだ。また、俺は美空の揶揄いが愛情表現だということにも気づいていた。
「そうなのパパ?」
美羽が美空から視線を外して、興味深そうにコチラに視線を送り、俺に問いかけてきた。
俺も美空と同様、美羽と同じ目線に合わせて、そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「そうだよ美羽。パパは、ママの事が、小さい時から、ずっと好きなんだよ。揶揄われてもね。だから、こうしてママと結婚して、美羽が産まれたんだよ?」
「へぇー……。そうなんだ……」
美羽はそれだけ言って、また食事を再開した。俺と美空はそれを見て、お互い顔を見合わせる。そして、お互いニコリとした。
俺は小学1年生の時に女の子に告白をした。それをネタに、その女の子に一生揶揄われている。
でも、今ではその愛情表現は心地の良いものだった。
これからも“一生”、俺の告白ネタで彼女に揶揄われ続けることだろう。
完
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。