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「本当にあった怖い話」シリーズ

湯船の中で出会ったモノ

作者: 詩月 七夜

 私が小さい頃の話。


 親から聞いた話だが、私は水に興味を持つ子供だったらしい。

 自宅の庭でビニールプールを置けば、お昼ご飯もそっちのけで遊び続けていたという。

 また、公園では空のビンやなどに水を入れて、砂場で砂を濡らして山を作ったり、小さいバケツに水をためて、砂場に池を作ろうと躍起になっていたという。

 カレンダーの裏面へお絵描きで描くのは必ず池や海の絵だった。

 そこに魚やカメをクレヨンで繰り返し描いては飾っていた。

 小学生になると、スイミングスクールにも通った。

 また、夏休みに行われるプール開放への参加は、ほぼ皆勤賞だった。

 学生の頃も速くはなかったが水泳部に所属していたし、今も水族館は大好きだ。

 晴れの日はさわやかで好きだが、雨の日は落ち着けるのでもっと好きだ。

 梅雨の頃も、皆ほど鬱陶しいとは思わない。

 大変ではあるが、田んぼでの作業も嫌いじゃない。

 特に田んぼに水を張った田植えの頃は、とても心が落ち着く。


 そんな風に何かと水を好む私だったが、唯一ちょっと苦手なのがお風呂だ。


 別に不潔というわけではなく、汚れたり、汗をかいたりすれば普通に体をきれいにしたくなる。

 でも、大抵シャワーで済ませる。

 湯船に浸かるのは全くダメではないけど、何だか「長居をしたくない」のである。

 なので、温泉旅行とかに行っても、結構早く上がってしまう方だった。


 そんな中、今年の夏のホラー企画におけるテーマが「水」である伺い、正直心がざわついた。


 水に縁を持ち、惹かれる反面、お風呂が何となく苦手になった私だが、その経緯は長らく誰にも語らずにいた。

 けれども、こうした機会が訪れたのも何かの巡り合わせなのだろうと思ったのだ。

 なので、私の幼い頃のとある話をしようと思う。


 私の実家は田舎にある。

 よく言えば、事件や事故とは無縁の平和でのどかな土地。

 悪く言えば、医師はいないし、コンビニも無い、何にもない土地だった。

 そんな場所で育った私は、祖父母と同居していた。

 そうして私が保育園に入る前、両親の仕事の関係で、私は故郷を離れることになった。

 そう遠くないし、夏休みなどには会えるので、その時は悲しいとか感じなった。

 逆に実家に帰ることが旅行のようで楽しみだった。


 ただ一つ、慣れないことがあった。


 それは田舎特有の「暗さ」だ。

 引っ越した場所が町場のアパートだったので、街灯や電灯の光が行き渡り、暗闇は退けられていた。

 しかし、久し振りに帰った実家は、田舎の家なので無駄に広いこともあり、夜になると、家の中でもそこかしこに暗闇がある。

 トイレまでの長い廊下が特に恐怖で、電気のスイッチも暗がりにあるため、小さい私にはその行き来だけでも生きた心地がしなかった。

 それと並ぶのがお風呂だ。

 当時は浴室の隣りに風呂釜があり、それで風呂を沸かすタイプのお風呂だったので、作動させると外にまで響くくらいの音がしてうるさい。

 しかも、その風呂釜に燃料を給油するために、外へと続く出入口もあった。

 夜に扉を開けば、もう真っ暗闇だ。

 何かが潜んでいて扉を叩きそうで、それはもう落ち着かなかった。

 また、浴室の裏は山である。

 換気窓を開けば網戸越しに鬱蒼と茂った森があり、そこから何かがこちらを覗いているようで、怖くて開けられなかった。

 さて、こんな環境だったので風呂が苦手…と言いたいところだが、実は別の理由がある。

 それは浴槽だ。

 当時の浴槽は結構深くて、掴まるための補助手すりなども無い。

 なので、小さい頃、浴槽の中で滑っては何度も溺れかけた。

 逆にそれなりの深さを利用し、浴槽蓋を置けば小さい子供なら完全に隠れることが出来る。

 それを利用し、後から入って来た人を脅かすということも可能だった。

 実際、従弟が遊びに来て、一緒に入浴する時にそれをやった事があり、その時はまさに「ドッキリ大成功」だった。


 ある時のこと。

 記憶が定かではないが、私は同じように浴槽に潜み、蓋をして「誰か」を待っていた。

 不思議なのはその「誰か」がまったく思い出せない。

 家族だったのか従弟だったのか、記憶があやふやなのだ。

 それでも覚えているのは、この時の体験のせいだろう。

 浴槽の蓋をして、浴槽の中で身構えていた私は、突然辺りが暗くなったのビックリした。

 蓋をしたせいではない。

 それでも浴室の照明は、蓋の隙間から漏れていて、視界も十分だった。

 それがいきなり真っ暗になったのである。

 照明を消された、と気付いたのはすぐだった。

 照明のスイッチは浴室手前の脱衣所の壁にある。

 点けっぱなしと思われ、誰かが消したんだろうか?

 いずれにしろ、この暗闇は恐怖でしかない。

 私は「消さないで!」と大声をあげながら、蓋を開けて浴槽から出ようとした。

 そうして立ち上がった瞬間、浴槽から、


「チッ…」


 と、舌打ちする音が聞こえたのだ。

 私はギョッとなった。

 浴室には自分しかいないはずだ。

 ましてや、浴槽の中には私以外に入れるはずがない。

 鳥肌が立った私は、大慌てで脱衣所を抜け出し、びしょ濡れのまま風呂から脱出した。

 それを見た両親や祖父母は驚き「何があった!?」と問い質してきた。

 なので、たったいま起きた出来事を言うと、父親が浴室を見回りに行った。

 そうして母親が体を拭いてくれていると、父親が戻ってきて、


「誰もいないし、何も変なことはない」


 と言う。

 そして、照明を消した犯人も分からなった。

 分かったのは、母親と祖母は台所で洗い物をしており、父親と祖父は居間でテレビを見ていたということだった。

 全員にアリバイがあるので、疑いようが無かった。

 ただハッキリと言えるのは…



 私は確かに湯船の中で得体の知れない「何か」に遭遇し、今もその影に怯えている。

【ご案内】

例年、開催される「夏のホラー企画」で紹介した過去の作品を「本当にあった怖い話」シリーズとしてまとめております

本作を気に入っていただけたなら、本ページ最上部の文字リンクからジャンプできますのでお楽しみください

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― 新着の感想 ―
『何か』が判明しないトコが、良いです。 遠野物語みたいに、不思議は不思議のまま。 お話しを読んで、幼い頃の祖父母も家を思い出しました。 と言っても怖くもなんとも無い、お手洗いが外にあったな、お風呂の…
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