この夢、醒めるな
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
理由もわかる。きっと、欲求不満。
『おれ、リンちゃんのことすきだよ』
一緒に遊んだ後、いつもどおりに手を繋いだその時。
満面の笑みで告白された。大好きな同い年の男の子に。
『ほんと? わたしもタケくんのこと、だいすきなんだぁ!』
そう返事をすると目が覚めた。
そんな夢を見たのは小学1年生の時。
その日は嬉しくて、はしゃいでいた。
いつもどおりに手を繋いだ時、思わず「わたしタケくんのこと、だいすき!」と愛を叫んでしまうほど。
その時のタケの顔は忘れられない。みるみる真っ赤になっていく姿は、今思えば一番可愛かった。
怒ったように「おれは、すきじゃない!」と拒絶され、せっかく繋いでいた手も勢いよく投げられてしまった。以降、残念なことに手は繋いでいない。
次に夢を見たのは小学2年生。その次は3年生と、1年に1回のペースでタケに告白される夢を見る。夢のような出来事だ。夢だけど。
年々夢の中のタケも成長していて、まるで本物のタケからの告白のように思えるから、その夢を見た日はやっぱり浮かれてしまって。
だから、つい。
その日はタケを見かけると告白してしまう。
去年も散々だった。
「タケー! 好きー!」
「うっさい! 俺は好きじゃないって言ってんだろ!!!」
こんなことを毎年続けていたにもかかわらず友達なのは変わらなかったから、これも楽しいかと思っていた。
——けど。
もうすぐ高校生。
小学校と中学校とは違い、とうとう別の学校だ。
会うことも減るだろう。
だから、9回目の今日は、告わないことに決めた。
告白して、また振られてしまったら、挽回のチャンスはきっと少ない。
出くわしたタケは訝しげだった。
「今日は、何も言わねーの?」
「何がー?」
「お前が俺の気持ち見透かすみたいに、言おうと思ったその日にいっつもいつも先回りしてくるから、反射的にずっと拒絶してんだけど!?」
待って。これは既視感——まだ記憶に新しい、今朝の夢。
「ずっと俺が言いたかった。俺は、ずっとお前のこと好きなんだよ。……その、今日から付き合わね?」
知らず、自分の頬をぎゅっとつねっていた。
痛みで涙腺が緩む。
柄じゃないけど、良いでしょ? 今日くらいは。