最初のすれ違い トーマスside
「えっ誰も!? ご家族だけでなく使用人も!? 」
連れてきたカナリヤは、屋敷に使用人がいないことに驚きの声をあげた。
「そう、だから掃除が行き届かなくて」
なるべく、こちらの動揺に気づかれないよう何でもないように言う。
屋敷にバケモノとふたりきりで暮らすことが分かったら、気を変えてしまうかも。覚悟を決めたが、彼女からの言葉は違った。
「あのお金は大事な物だったんじゃ」
お金?すぐに彼女の懸念に思い至った。
金銭のことは心配いらないと告げた。カナリヤはずっと訝しんでいたけど、最終的には納得してくれた。
カナリヤがこの屋敷に来てくれた時に、僕は不謹慎にワクワクした。彼女は僕の顔が気にならなず、一緒に暮らしてくれると言う。そんな人は今までいなかったから。
まずは彼女の部屋を決めよることにした。僕は大きめの客用の寝室を案内した。しかし、彼女は断った。
「私はご主人様に買われた身です。使用人部屋で結構です」
「えっと、見ての通り部屋は余っているし……。狭い使用人用の部屋でなくても……。こちらの方が部屋の方が暮らすには便利だろうし……」
使用人用の部屋は、屋敷の隅である。
「……それとも、ご主人様の夜の相手をするには使用人部屋では不自由でしょうか?」
「そんな相手をして貰おうと思って無い!!! 」
「それでは、使用人部屋で問題ないですね」
カナリヤは、僕の叫びにも表情一つ変えず淡々と返した。
そして頑なに、使用人用の服以外の受け取りを拒んだ。
僕は頷くしかなかった。客用寝室に案内したり、綺麗なドレスを勧めたのには理由があった。居心地の良い環境を提供すれば、カナリヤが屋敷にしばらくは逗留してくれるのでは無いかと考えたからだ。自分のあさましい考えを見透かされたことを恥じた。
いい加減、己も立場をわきまえなければ。部屋に戻り、普段はしまい込んでいる手鏡を机の引き出しから取り出した。
「僕はバケモノだから。好意を持って欲しいなんて考えてはいけない」
呪文のように繰り返し僕は自分に言い聞かせた。カナリヤにこれ以上、嫌悪されないために。