トーマスの自己紹介
男主人公です。人とかかわるのが怖い、引きこもりのトーマス君です。(#^^#)
彼女は僕を好きだという。僕はそれを嘘だと知っている。こんな醜い存在を愛する人間なんかいるわけがない。それもあんな美しい人が。
僕は罪深い人間だ。自ら負った咎で醜くなった顔。父は出ていき、母は不幸になった。それでも僕はその赤い輝きに憧れてしまう。例えその咎で、業火に焼かれてしまっても。
僕は幼いころ暖炉に自ら入り大火傷を負った。顔が半分焼け爛れ、十数年たち成人した今もケロイドになっている。
同室にいたにもかかわらず、僕の愚行を止められなかった母は父に酷く責められたらしい。
元々、父と母は政略結婚だった。先祖代々の浪費が祟り見る影も無かった伯爵家の一人息子。高位貴族に名を売りたい、新興の男爵家の末娘。双方の思惑が一致し、結ばれることになった。
ぎくしゃくとしながらも婚姻は結ばれ、一年後に長男である僕が誕生した。僕は商売上手な祖父の名前と同じトーマスと名づけられた。
しかし、跡継ぎが出来ると父は母と距離を置くようになった。それでも母の方は、父と夫婦関係を築こうと努力してたと聞く。しかし僕が暖炉に入り込む事故で、亀裂は決定的になった。
そのまま夫婦関係は破綻し、父は屋敷に寄り付かなくなった。最後には若い愛人と旅先で事故に遭い亡くなった。
母は全ての原因である僕の火傷を見るたびに、険しい顔をした。ときおり、思い出したかのように呟かれた。
「お前のせいで私の人生は狂った」「私の幸せを返して」
使用人たちも雇い主である母に遠慮したのか、それとも焼け爛れた僕の顔に恐れをなしたのか僕に必要以上に関わろうとしなかった。
その頃の話し相手と言えば、年老いた家庭教師だけだった。やがて彼も年齢を理由に職を辞し、僕は書庫に入り浸るようになった。
僕が18歳で成人し後見人が要らなくなると、母は実家に戻った。当時いた侍女たちは、みな母の実家についていった。
その後の事はよくわからない。何度か母の実家に手紙を書いたが返事は来なかった。様子を知るために、疎遠になっている親戚に連絡を取るのも億劫だった。
母のこれからの人生に僕は必要ない。それだけわかれば十分だった。
幸いな事に僕は以前の家庭教師から、貴族に必要な教養の他に建築関係の知識を教わってきた。彼は若いころ、王都の学校で教鞭をとっていたそうだ。我が伯爵家は、その頃には領地をとっくに返納していた。教え子の行く末を、心配してくれたのかもしれない。
大工などの職人には、学はあるが口下手なものも多い。そういった者たちと手紙のやり取りだけで仕事を始めた。僕は祖父の商売の才能も受け継いだらしい。10代の後半の頃には十分すぎるほどの収入が入るようになった。
大きな屋敷に一人で住む寂しさに耐えかねて、僕は使用人を雇う事にした。
通いのコックと身の回りの事を頼む執事と侍女頭の夫妻。少しずつ増やしていくつもりだったが、彼らの会話を聞いてしまった。
『陰気なご主人だよね。客も来ないから腕がなまっちゃうよ』『仕方ないよ。あの顔じゃ』『およしよ、聞かれたらどうするの。せっかく給料だけはいい職場なんだから』
僕みたいな愚かなバケモノと暮らそうなんて人間はいない。彼らの不満に気が付かなかったことを恥じた。
退職金を十分に支払い次の職場への紹介状も用意し、暇を取って貰った。
そして僕はこれから、一人で生きていく事を決意した。
次は女主人公のターンになります。(#^^#)