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恋の始まり トーマスside

 これだけはどうしてもと押し通しメイドの給金だけは受け取って貰えるようにした。しかしそのためか、カナリヤは使用人としての立場をけっして崩そうとしなくなった。


 そんな カナリヤも、しばらくすると徐々に感情を出すようになった。


「店にいるときは、大声で笑うなと言われていました」


 と自嘲しつつも笑みを見せてくれる。

 僕が遅くまで起きていると険しい顔をして怒り、鼻歌を歌いながら掃除をする。

 僕の作った料理に「美味しいです!」と感嘆の声を上げてくれた時は、泣きたいほど嬉しかった。だから彼女が料理を覚えると言った時は、思わず止めてしまった。


 僕の身勝手な言葉に気を悪くした様子も見せず、メイドの仕事だからと彼女は調理の腕をみがいていった。

 彼女の作る食事が目に見えて上達していくのを、少し寂しく感じていた。


 だけど優しいカナリヤは、僕の不摂生を気遣ってくれたのか一緒に食事を取ろうと提案してくれた。まさか僕みたいなバケモノと、一緒に食卓を囲もうと言ってくれる人がいるとは思わなかった。

 そして、笑い合いながら食べる事がこんなに幸せなんて知らなかった。


 僅かな期間で、彼女との生活は何より大切なものとなった。


 いやきっと、最初に会った時から。あの美しい横顔を見たときから僕は彼女を好きになっていたんだ。

 

 僕はこの生活が少しでも長く続けばと願った。しかし彼女は、メイドとして屋敷に留まってくれている。


 諦めが悪い僕は、たびたびカナリヤに提案をした。


 先祖代々の衣装部屋にあるドレスを着てはどうかと聞いてみたり、やはり屋敷にしまい込まれていたブローチを贈ろうとしたり。


 カナリヤからは最初と同じように淡々と断りの言葉を告げられた。


「その衣装を身に着けて、寝室に侍れば良いのですか? 」


「貴金属など頂かなくても、買われた身ですからいつでもお相手しますよ」


 そのたびに僕は、カナリヤの気を引こうとしたことがバレた決まりの悪さからその場を逃げ出した。

 それを何度か繰り返し、ようやく諦めがついた。カナリヤが屋敷にいてくれるのは、金で買われたと思っているから。僕自身にはなんの興味もない。


 手鏡を見て自分に言い聞かせ続けた。


 「お前はバケモノだ。期待してはいけない」


  何度も、何度も……

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