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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第95話 辞めようと思ってるんだ


 図書室では何とも甘い時間を過ごしてしまった。


 ともあれ下校時刻を迎えた。俺はアプリ越しにチャットを送り、返事を受けて椅子から腰を浮かせる。


 柴崎さんと図書室を後にして静かな廊下を踏み鳴らす。

 

 昇降口は部活動を終えた運動部の談笑で賑わっている。


 バレー部の活動場所は体育館。待ち人が昇降口に現れるまでには時間がかかる。

 

 柴崎さんは用事で一足先に帰途についた。


 俺は品のある背中を見送って、時間を潰すべくスマートフォンの液晶画面とにらめっこする。


「お待たせ」


 英単語を十個ほど覚えた頃合いになって、よく通った声が耳に届いた。


「忘れ物はないか?」

「うん。帰ろ」


 燈香がすれ違って自身のロッカー前に足を運ぶ。


 踏段との違いに困惑しつつロッカーを開けた。スニーカーを引き抜いて重力に委ねる。


「今日はデオドラントシートを使わなかったのか?」


「うん。あんまり汗かかなかったから」


 燈香もスニーカーを放る。


 俺たちの学校のバレー部はスパルタで知られる。汗をかかないなんてそんなことがあり得るのか? 

 

 でも今は大会終盤を控える大事な時期だ。出場する選手を優先してコート内を使わせるのも道理ではある。 


 燈香はコートを使わせてもらえなかったのだろうか。


「靴履かないの?」

「履くよ」


 促されてスニーカーに足を差し入れた。


 俺一人やきもきしても不毛だ。昇降口を後にして学び舎の門をくぐる。


「この時間まで何して待ってたの?」

「図書室で勉強してた」

「受験生だから?」

「ああ。自宅にいると集中できないからな」

「人の目があると気を抜けないもんね。どうして見られてると頑張ろうって思えるのかな?」

「自分をよく見せたいと思うからじゃないか? 見栄ってやつだ」

「ああ、それあるかも。私も中学の頃は後輩の視線が気になったし」

「燈香は後輩からも人気あっただろ」

「多少はね」

「本当に多少か? 女子から告白とかされてたりして」

「えっ?」


 視界の隅から明るい色合いの髪が消える。


 振り向くと燈香が目を丸くしていた。


「……もしかして、本当に?」

「ち、違う! 違うよ?」

「あ……ごめん」

「謝らないで! 気まずくなるから!」


 整った顔立ちがお風呂でのぼせたみたいに赤みを帯びる。


 張り上げられた声が心地良くて意図せず口元が緩んだ。


「意外と元気そうだな。安心したよ」

「私、そんなに元気なさそうに見える?」

「見える。年が明ける前からな」

「そっか。ごめんね、心配かけて」


 燈香の視線が足元に落ちる。


 ここだ。


 自然な流れで聞き出すにはこのタイミングしかない。


「何かあったのか? 俺でよければ話を聞くぞ」

「そうだね。せっかくだし聞いてもらおうかな。私ね、部活辞めようと思ってるんだ」

「……え?」


 予想の範囲外から切り込まれて、俺は言葉を失った。


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