第85話
終業式の日を迎えた。体育館に足を運んで教員からのありがたい言葉を耳にする。
教室に戻ると今度は担任が注意事項を語り出す。
ロングホームルームを終えて室内は開放感に満ちた。がやがやした室内の光景に端正な顔立ちが付け足される。
「もうすぐ年末だけど初詣どうする? 集まるでしょ?」
「そうだな。受験勉強だけだと参ってくるし、一緒に初詣行くか。丸田と燈香も行くだろ?」
「おう。屋台のたこ焼き食いたいしな」
「私はいいかな」
はしごを外されたような感覚に陥る。
クリスマス前にもあった感覚。
燈香がどこか遠くに感じられて、俺は即座に言葉を続ける。
「そういえば大会近いんだっけ。大晦日も練習するのか?」
「練習はないよ。さすがに大晦日と元旦はお休みをもらってる」
「もしかして、誰かと予定があるのか?」
「ないよ。休むのも部活の内って言われてるし」
「休むのも部活かぁ。うちのバレー部結構ガチって聞くもんねー。燈香も膝悪くする前はムキムキだったでしょ」
「ちょっとやめてよ」
燈香が苦々しく口角を上げる。
球技大会前に見たドッヂボールの練習が脳裏をよぎる。
ちらっと見えたくびれのあるウェスト。その綺麗さに一瞬見惚れたものだけど、休部前はバッキバキに割れていたのだろうか。
「痛ったッ⁉」
太ももがチクっとして視線を落とす。
繊細な指先が俺の太ももをつねっていた。
「何するんだ魚見!」
「萩原の目がエロかった」
「目がエロいってなんだよ」
「なになに、エロい話?」
「頭にもみじ貼り付けるぞおにぎり」
検討する丸田にドン引きする魚見をよそに、燈香が通学カバンの取っ手を握る。
「私食堂行くね。午後から部活あるんだ」
「気合十分だな。バレーの試合いつからだっけ? 観に行くよ」
「来なくていいよ」
一瞬頭の中を漂白された。
今までの燈香なら二つ返事で観に来てと告げるところだ。
今は恋人関係じゃないけど立場は丸田たちと同じ。来なくていいなんて返事は想定していなかった。
困惑する俺の前で燈香が口角を上げた。
「初詣は私抜きで楽しんできてよ。じゃあまた来年」
「ああ、また来年」
俺も笑みを返した。燈香が微笑を残して廊下に消える。
残った面子で午後の予定を決めてから教室を後にした。




