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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第82話 おにぎり握ってろよ


 カーテンを視界の隅に追いやってクリスマス当日の朝日をおがむ。


 地面は白く染め上げられていた。遠くに映る赤い車がショートケーキを飾るイチゴに見える。


 私服にそでを通して一階の床を踏みしめる。


 この日も妹の方が早起きだった。


 午前中から友人と合流して街を遊び歩くらしい。身支度をすませた妹が一足早く玄関に向かう。


 いってらっしゃいを告げて、俺もダイニングチェアから腰を浮かせた。


 妹が外出した今リビングはフリーだ。


 リビングでパーティーといきたいところだけど両親がいる。親の目があるところではしゃぐのはバツが悪い。


 騒ぐなら親の目がない自室一択。


 早速掃除に取りかかった。粘着ローラーで床を鳴らし、クリスマス用の飾りで部屋の内装を鮮やかに彩る。


 不出来。粗末。


 でも雰囲気は出た。ヨシ! と自分に太鼓判を押す。


 クリスマスパーティーの開催は午後からだ。勉強机に問題集とノートを広げて勉学にいそしむ。


 リビングに下りて昼食を腹に収めていると、両親がおしゃれをして現れた。急きょ二人で出かける予定を立てたらしい。


 いわばデート。長男としては複雑な心境ながらも笑顔で見送り、がらんとした自宅で時の流れに身を任せる。


 リビング内に軽快な電子音が鳴り響く。


 廊下の床をスタスタ言わせて玄関に外気を迎え入れた。ドアの隙間から友人たちが顔をのぞかせる。


 口角が浮き上がったのは一瞬のこと。奥に長身が映って息を呑む。

 

 せっかくのパーティーだ。浮谷さんに対する苦手意識も林間学校で和らいだ。雰囲気を壊さないように立ち回れるはずだ。


 お邪魔しますを告げる彼らにスリッパを勧めた。コート掛けの位置を指示してリビングの床を踏みしめる。


 両親がいなくなった旨を伝えると、パーティーはリビングでやるべきとする意見が挙がった。


 部屋を飾り付けた労力はもったいないけど、自室を見られることへの恥ずかしさはあった。


 俺が反対する理由はない。彼らが持参した食材をテーブルの上に置かせて、早速役割分担にしゃれ込んだ。


 クリスマス用の飾りを持参した女性陣はリビングの飾りつけ。


 俺含めた男性陣は、クリスマスツリーを取りに車庫へ足を運んだ。


 段ボール箱をどかして、クリスマスツリーが入ったバッグを探す。


「ところで秋村さんはいつ来んの?」

「燈香は来ないぞ」

「は?」


 素っとんきょうな響きの声が車庫の空気に溶ける。


 丸田が目を丸くした。


「あれ、言ってなかったっけ」

「言ってねえよ! てか聞いてねえ! 今日秋村さん来ないのかよ!」

「ああ」

「ああじゃなくて、ああ……っ」


 浮谷さんが額に手を当てる。

 

 丸田が浮谷さんの首元に腕を回した。


「そんな顔するなよぉ。俺らとも仲良くしようぜー?」

「やめろ暑苦しい。萩原におにぎり握ってろよ」

「こいつのために握り飯握ったことねえっつーのッ!」


 小さく笑いながら段ボールをずらす。


 緑色のバッグを見つけた。横たわれば入れそうなサイズのそれを持ち上げようと試みる。


 一人で持ち上げるのは無理と断じて二人を呼んだ。三人でバッグを持ち上げて元来た道をたどる。


「しかし秋村さんストイックだなぁ。大会のために年に一度のクリスマスを捨てるなんて」

「どういうことだ?」

「一月に大会があるだろ。このタイミングで断りを入れるなら練習するに決まってる」


 合点しかけて、頭の中に疑問符が浮かび上がる。


 燈香がバレー部に復帰したことは知っている。でもそれが理由なら大会に向けての練習があるからと言えばいい。


 でも燈香はそう告げなかった。何か別の用事があるってことじゃないのか。


 履き物をサンダルからスリッパに変えて廊下の床を踏みしめる。


 リビングの床にバッグをそっと置いた。収まっているツリーを取り出し、作り物の樹木に天井を仰がせる。


 女性陣も交えて質素なツリーを飾り付ける。


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