第81話 元クラスメイト
校門を出た辺りで燈香と別れて、俺はショッピングモールに足を運んだ。
赤、黄色、青、緑。街中は煌びやかな照明で色鮮やかに彩られていて、子供のようにはしゃぎたい衝動に駆られる。
コンクリートの地面を踏み鳴らす人影も、どことなく浮かれているように見える。
俺たちのようにクリスマスパーティーを企画しているのか、子供へのプレゼントを吟味しに足を運んだのか、はたまたデートの下見か。いずれにせよお店で働く人は大変そうだ。
イルミネーションの感想を語りつつ建物内に足を踏み入れた。数十の背中に続いて奥へと歩みを進める。
「三人で来ちゃったけど、よくよく考えると三人でパーティーってのもしまらないね」
「萩原の妹がいるじゃん」
「朱音は友達と外で遊ぶらしいぞ」
「まじで⁉ まさか男と⁉」
「大丈夫だ。丸田には関係ない」
「あるって! めっちゃある!」
「浮谷さんや柴崎さんは? 二人くらいなら部屋に入るっしょ」
「そうだな。ラインで聴いてみるか」
「無視しないでッ!」
柴崎さんにクリスマスパーティの誘い文句を投げる。
浮谷さんの連絡先は知らない。丸田に送ってもらって事なきを得た。
プレゼント交換は秘匿性がキモ。魚見と丸田とは適当な所で分かれてモール内をぶらつく。
クリスマスと言えば雪。雪と言えば寒い。プレゼントはマフラーや手袋が適しているだろうか。
でも新調した人がいたら困る。
せっかくのクリスマスプレゼントだし喜んでもらいたい。こんなことならさりげなく情報を引き出しておくんだった。
「萩原?」
聞き覚えのある声を耳にしておそるおそる振り向く。
短く切りそろえた黒髪、すらっと伸びた長身。見るからにアスリートといった出で立ちの女子が立っていた。
「片桐……」
一年生の頃に同じ教室で授業を受けた元クラスメイト。俺が加わってしばらくは燈香のグループで談笑していた女子だ。
「やっぱ萩原か。何してんのこんな所で? あんた独りでモール来るようなタマだったっけ」
片桐のスニーカーが店舗内の床を踏み鳴らす。
俺は立ち去りたい気持ちにふたをして口角を上げた。
「誕生日プレゼントを選んでるんだ。クリスマスにパーティーするから」
「燈香たちと?」
「燈香は欠席だから丸田や魚見とだな」
「ふーん、まだつるんでるんだ。燈香と別れたって聞いたから独りに戻ったと思ってた」
「友達の友達じゃあるまいし、そんな軽い関係じゃないって」
苦笑で応じる。
やはり苦手だ。片桐は一年生の頃から距離のある相手だった。
学年が変わっても関係性は変わらない。態度の理由が分かっている分、林間学校のルームメイトよりはマシだけど。
「燈香はどんな調子だ? 元気よくやってるか?」
「その言い方おじさんみたいだね」
「うるさい。元カノのそういうのは素面で聴きにくいんだよ」
聞く相手も相手だし。その言葉は呑み込んだ。
「それでどうなんだ? 燈香のことだし、復帰した後もバシバシスパイク決めてるんだろ?」
ひざの痛みで休部する前はエースとして活躍していた。多少のブランクがあるけど、燈香なら元のポジションに返り咲いていることだろう。
「ん……まあぼちぼち」
「何だよぼちぼちって」
「どうでもいいでしょ。あんたは部外者なんだから」
女子バレーに属していない者、あるいは元彼氏としても。
言外にそう告げられた気がして口をつぐむ。
片桐が背を向けた。
「そうそう、プレゼントの定番って文房具や菓子だよね。性別関係なく役に立つし」
じゃねー。それだけ言い残して片桐の背中が遠ざかる。
根っこは良いやつなんだよなぁ。
そう心の中でつぶやいて商品選びに戻る。
疎んでくる片桐のことは好かないけど、アドバイスは素直に受け取っておこう。




