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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第80話 理不尽だ


 林間学校最後のスキーを終えて部屋に戻った。


 ルームメイトとの顔合わせは気まずかったものの、彼らが俺に突っかかってくることはなかった。


 俺は荷物をまとめて一番に部屋を出た。通路の床を踏み鳴らして所定のバスに乗り込み、初日ぶりに丸田たちと顔を合わせて教師からの点呼を待つ。


 背中が軽く背もたれに押し付けられた。窓の向こう側にある景観がおもむろに後方へ流れる。


 楽しい林間学校だった、とはお世辞にも言えない。疎まれる時間に精神を削られて、雪の地面に二本線引く行為を素直に楽しめなかった。


 その一方で、この三日間何も得られなかったと言えば嘘になる。


 今までも燈香絡みで妬みを向けられることはあった。それらを仕方ないと思って受け止めてきた。


 でも燈香のこと以外で嫉妬を向けられるとは思ってなかった。


 俺自身変わった実感がなくても、周りから見れば羨まれる立場にあるらしい。不相応と思われていそうだけど、羨望されていると考えれば悪い気はしない。


 どのみち俺がやることは決まっている。


 妬まれたところで燈香たちとの縁を切るなんてあり得ない。嫌がらせをしてくる相手の機嫌なんてどうでもいい。


 俺は自分が過ごしたい学校生活を送る。また奈落から足を引っ張る奴がいたら、そいつの頭蓋を踏み砕いてでも前に進んでやる。


 気持ちに整理を付けた頃合いになって、炭酸が抜けたような音が鳴り響いた。前方に映る背中がぞろぞろと腰を浮かせる。


 俺も制服の群れに続いて外気に身をさらした。昇降口になだれ込んで二日ぶりに廊下の床を踏み鳴らす。


 教室に集まって談笑する内にスライドしたドアが廊下の光景をのぞかせた。担任が教壇に上がるなり帰るまで遠足うんぬんの呪文を唱える。


 晴れて放課後を迎えた。


 椅子から腰を浮かせる前に華やかな立ち姿が迫る。


「ねーねー萩原、この後モール寄ってかない?」

「いいけど、スキーで疲れてないのか?」

「バスの中で眠ったから体力マックス!」

「なるほど」


 そうでなくても魚見は毎日走り込んでいる。一日数時間程度のスキーで削り切られるような体力はしていない。


 かくいう俺もまだ余裕がある。体育祭前に走った成果が出ているのだろうか。部活動で取りあえず走らせる理由を垣間見た気がする。


「丸田たちも誘うか」

「ううん、このまま行こうよ。二人で」


 何で最後をささやき口調にしたんだろう。


 どうせまた俺をからかおうとしているんだ。魚見の誘いを目尻に流して口を開いた。


「丸田、燈香。これからモールに行くんだけど二人もどうだ?」

「お、行く行く。プレゼント交換の品も選ばないといけないしな。燈香も行くだろ?」

「うーん、私はいいかな」


 一瞬頭の中が漂白された。


 はしごを外された感覚とでも言うのだろうか。燈香なら即首を縦に振ると思い込んでいた。


「何か用事があるのか?」

「そういうわけじゃないんだけど、ちょっと気分が乗らないっていうか」

「ひょっとしてあれか? 新しい彼氏と待ち合わせしてるとか」


 丸田の笑み混じりな冗談を耳にして息を呑む。


 俺は燈香と別れた。互いに新たな恋を初めても誰かに文句を言われる筋合いはない。


 それでも微かに胸の奥がきゅっとした。


「彼氏なんていないよ。もうすぐ三年生だし、大学受験の勉強だってあるんだから」

「え、夏祭りとかいかねえの? 息抜きは大事だろ」

「何か月後の話してるの? それに丸田は彼女作る方が先でしょ」

「言うなっ!」


 燈香たちが笑い声を上げる。


 俺も口角を上げた。リュックを持ち上げて廊下の床を踏みつける。


 細い指に右の頬をつままれた。


「あの、魚見さん」

「なあに」

「なあにじゃなくて、何でつねってるの?」

「気のせいじゃない?」

「いやいや、気のせいって」


 現に今痛いんですけど、なんて言える空気じゃない。


 魚見がむっとするようなことを何かしただろうか? いつもの冗談をさらっと流しただけなのに。


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