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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第77話 故意か偶然か


 林間学校最終日。朝食を腹に収めてゲレンデの地面にスキーブーツの跡を刻む。


 つんざくような外気にさらされながらインストラクターからの注意事項を耳にする。心なしか俺に対して告げているように感じられる。


 気まずい時間から解放されてリフトに乗り込む。


 楽しまなきゃ損だけど、頭の片隅には昨日の出来事がこびりついている。今日を一日目のように満喫するのは無理だろう。


 現に気になって仕方ない。


 先日ぶつかってきたルームメイトのように、隣に座す男子も俺を突き飛ばそうとするんじゃないか? 悪い創造ばかりが頭をよぎって落ち着かない。


 リフトから腰を浮かせた。スキー板の裏で白い地面に軌跡を描く。


 リフトから落とされなかった事実に安堵しつつスキーストックの先端で雪を突く。体に慣性を付けて斜面に身を預ける。


 真っ白な景観が目尻へ流れる。三日目の今となっては慣れたものだけど、今日で見納めになると思うと感慨深い。


 滑り終えてリフトに乗り、再び雪の地面に滑走の軌跡を刻む。


 休憩がてらにスノーゴーグルを上に持ち上げた。スノーウェアのチャックを少し下げてこもった熱気を外気にさらす。


 気を抜いたのはいっしゅんのこと。すぐに気を引きしめて周囲を見渡す。


 二日目にタックルを受けたのは休憩をしていた時だ。今日も狙ってくるかもしれないと思うと体がこわばる。


 いくつかの人影が視界の隅から隅へと消えて行く。

 

 来た。ルームメイトの男子が雪の地面にスキー板の軌跡を残して迫る。


「ど、どけ!」


 目が合うなり田中さんがわめき出した。

 

 まさかとは思っていたから備えていた。スキーストックの先端で地面を突き、体に慣性を付けて田中さんの進行方向から脱する。


 田中さんが白い地面に横たわる。


 まるでドロップキックだ。左半身で地面を滑ってスキー板の裏を俺に向ける。


 その転倒までは読めなかった。想定外の出来事を前に頭の中が真っ白になる。


 足を取られて浮遊感に苛まれた。まぶたをぎゅっと閉じて衝撃に備える。


 ザクッと小気味いい音が鳴り響いた。降り積もった雪のおかげで大して痛くはなかったものの、心の方は大きな衝撃を受けて揺らいでいる。


 そこまでするのか。


 彼らが俺を疎んでいるのは知っていた。燈香や魚見、柴崎さんに好意を向けられたりと最近いいことが続いている。誰かに妬まれる自覚はあった。


 だけど俺がルームメイトに何かをしたか? 


 してないはずだ。俺は普段燈香たちとしか交流しない。少なくともスキー板でドロップキックを受けるいわれはない。


 胸の奥でメラッとしたものが噴き上がる。


「悪い、ちょっと体勢崩した」


 この期に及んで白々しい。


 腹の底で煮えたぎった熱が言葉となって口を突いた。


「わざとだろ」

「は?」


 戸惑いの視線に見上げられる。


 その態度がなおさら俺の苛立ちをかき立てた。


「わざとだろって言ったんだよ。こんな陰湿な真似、ばれないと思ってるのか?」

「は、わざとじゃねえし。なあ?」


 田中が振り向いて須藤に同意を求める。


 二つの首が縦に揺れるのは自明の理だ。こいつらは二人で俺に嫌がらせをしているのだから。


「そんな嘘ばればれだぞ。初日から嫌な気配はしてたけどここまでしてくるとは思わなかったよ。君たちは結構アグレッシブだったんだな」

「何勝手に決め付けてんだよ。わざとじゃないって言ってんだろ」

「二日連続で体当たりしておいて、その言い分を通せると思ってるのか?」

「お飴、俺らがわざとぶつかったって言うのかよ」

「ああ」

「お前ふざけんなよ!」


 田中が声を張り上げた。周囲に散在する人影が俺たちに視線を向ける。


 目立つ行動は控えたかったけどこうなっては仕方ない。ルームメイトとの件をはっきりさせないとせっかくのスキーも楽しめない。ここでどちらが上かわきまえさせてやる。


「どうかしましたか?」


 振り向いた先で華奢な人影がすーっと迫る。

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