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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第72話 クリスマスの約束


 プレゼンテーションの練習を終えてカフェテリアを後にした。


 通路の途中に椅子を見つけて歩み寄った。腰を下ろしてスマートフォンの液晶画面をタップし、カフェテリアでメモ帳アプリに書き込んだ内容をあらためる。


 ここから先の時間は予定が詰まっていない。夕食に入浴も終わったし、施設内ならどこで何をしようがお咎めなしだ。


 ぶるっとして椅子から腰を浮かせる。


 空調のない通路は寒い。温かさを求めて自動販売機の前に足を運んだ。


 小銭を投入してキャラメルマキアートを購入した。紙コップから伝わる温かさが何とも愛おしい。


 ふーふーと白い泡をくぼませてそっと容器を傾ける。


「あ、美味しそうなの飲んでる!」


 指摘の声に続いて靴音が迫る。


 振り向いた先に白黒の美貌があった。


「何呑んでるの?」

「キャラメルマキアート」

「それ絶対美味いやつじゃん! 一口ちょーだい」

「駄目。自分で買いなさい」

「えーけち。柴崎さんには飲ませてたくせに」


 思わず飲み物を噴き出しそうになった。コップの縁から口を離してバッと顔を上げる。


「お前もか」

「私ブルータスじゃないよ?」

「誰がカエサルだ。見てたのかってことだよ」

「そりゃ見てたよ。萩原がルームメイト差し置いて柴崎さんと二人きりなんだもん。何か起こると思って凝視してた」

「凝視するな。俺のプライバシーを保護しろ」

 

 魚見は俺と柴崎さんの関係を知らない。数回交流があるだけの男女が二人きりとなれば嫌でも気になるだろう。


「見てたって言えば、燈香から何か受け取ったよね?」

「そこまで見てたのかよ。負けた、お前がブルータスだ」

「カエサルじゃなくてブルータスになりたいの?」

「そんなわけないだろ。どっちもろくな末路たどってないし」


 女友達が自動販売機の前で足を止める。


 ん~~とうなり声が続いた。人差し指の先端がボタンを押し込み、透明な蓋の向こう側で紙コップの底が軽快な音を鳴り響かせる。


「そんで、あれ何だったの?」

「誕生日プレゼントだってさ」


 魚見がバッと振り向いた。


「は? 誕生日って萩原の?」

「そ」

「何で教えてくんなかったの? 教えてくれてたら私だってプレゼント用意したのに」


 瞳をすぼめられた。


 拗ねたように映るのが不思議だ。プレゼントをもらえなかった俺が拗ねるのは分かるけど、与える側の魚見がむっとした理由に思い至る節がない。


「教える機会がなかっただけだよ。男子にこの日俺の誕生日だからプレゼントよろしく! って言われたらどう思う?」

「普通に引く」

「だろ?」

「でも私たちは友達じゃん。プレゼント贈り合うくらいはよくない? ないがしろにされたみたいで不服でーす」

 

 魚見が小さくほおを膨らませる。俺は苦々しく口角を上げるのみだ。


「そうだ。クリスマスパーティーやろう」

「何の脈絡もなく来たな」

「いいじゃん。燈香と別れたんだし予定ないんでしょ?」

「そりゃないけどさ」

 

 そこまで直球に告げられるとそれはそれで思うところがある。


 魚見が満足げに笑んだ。


「決まりね! 場所は萩原んちで」

「俺の家かよ。この流れ前もあったな」

「ハロウィンの時でしょ? 結局私の家でやったよねー。だから今回は萩原の番。それともまた何か事情があったりする?」

「いや、その日は妹が出かけるから大丈夫」

「よかったー! じゃあ私の方でみんなの予定聞いてみるよ。プレゼント交換もしたいからクリスマスプレゼント忘れるなよー?」

 

 細い人差し指の先端に左胸をつんと突かれた。


「ああ」


 続いたウインクがこそばゆくて、返した言葉がぎこちなくなった。


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