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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第71話 誕生日プレゼント


 夕食後に設けられたのは、ゲームとは名ばかりの催しだった。


 同じテーブルについている生徒間で名前や趣味を教え合う。グループ学習でよくやるやつだ。


 遊びを通じて大事なことを学ぶのは教育の常識。林間学校でも同じことをするつもりらしい。


 ある意味運が良かった。打ち解けるトークの練習はルームメイトと打ち解ける予行練習になる。


 大真面目にゲームに臨んだ。知る姿勢を心がけつつ、相手のあいさつでいいと思ったものはスマートフォンのメモ帳アプリに書き残す。


 そうこうする内にローテーションが起こった。柴崎さんも含めてテーブルの向こう側にいた生徒が別のテーブルに移動する。


 他の席で自己紹介を済ませた生徒が俺と同じテーブルを挟む。

 

 何度か繰り返す内に見知った顔が映った。


「燈香か」

「私とじゃ不満?」

「不満」


 むっとされた。


 拗ねられる前に言葉を続ける。


「今知らない人と話す練習してるんだ。燈香相手だと練習にならないだろ?」

「まだルームメイトと打ち解けられてないの?」

「そんなことはないけど」

「うそだー」

「嘘のようなほんとの話」

「だったら何で柴崎さんが来るまで独りで食べてたの?」

「見てたのかよ」


 燈香が得意げに口角を上げた。


 見てたなら開口一番に言えばいいのに。俺が嘘つくのを待つとはなんと性格の悪い。


「柴崎さんと何を話したの?」

「世間話」

「友達の作り方とか?」

「はい練習を始めましょうまず俺から」


 小さく笑われた。


 構わずあいさつを口にする。


 名前、誕生日、好きな食べ物。知っている相手にあらためて自己紹介をするのは気恥ずかしいものがある。


 質問を経て燈香に番を渡した。


 はきはきとした自己紹介に人目を惹く笑顔。視界の隅に映る生徒も、正面にいる相手から視線を外して燈香に横目を向ける。


 それらの視線は俺の質問タイムが始まる頃にさっと外された。


「そうだ。はいこれ」

 

 細い腕がポケットから長方形を引き抜く。


 それは包装された箱だった。真っ赤な包装紙に緑のリボンがクリスマスを想起させる。


「何これ」

「誕生日プレゼント。明日でしょ誕生日」

「わざわざ用意してくれたのか。ありがとう」


 自然と口角が浮き上がった。腕を伸ばして真っ赤な箱を受け取る。


 明日ではなく今手渡しされたことを疑問に思うものの、そんなことは極めて些事だ。箱の中身に思いを馳せて軽く振ってみる。


 手を通して硬めな感触を得た。


「何が入ってるんだ?」

「スノーゴーグル」

「もう一日目終わっちゃったぞ。朝くれればよかったのに」

「それじゃ意味がないんだよ。貸し出されるゴーグルをつけた後じゃないと違いが分からないでしょ?」

「もしかして良いやつなのか?」

「うん。ちょっとお高めのやつ。明日滑ったら感想教えてね」

「分かった。明日使ってみるよ」


 受け取った箱をポケットに差し込む。


「燈香の誕生日は来月だよな。何か欲しい物はあるか?」

「特にないかな」

「じゃあしてほしいことでもいいぞ」

「うーん……時間を巻き戻してほしい、かな」

「時間?」


 思わず目をしばたかせる。冗談とは思いつつも、燈香の表情はおどけたそれに見えない。


 端正な顔立ちに苦笑が浮かび上がった。


「冗談だよ。時間なんて巻き戻せるわけないじゃん」

「そう、だよな」


 小さく笑って応じる。これ以上は踏み込むなと告げられた気がして深入りするのはためらわれた。


 周りでローテーションが行われる。


 燈香と「またね」を交わして新しいペアと向き直った。ついさっき目の当たりにした燈香の自己紹介を想起しつつ、自己紹介をアップグレートさせてゲームを続けた。


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