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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第69話 俺はスピーディーが好きなんだよ


 面識のない女子にあれこれ聞かれた。

 

 プライベートなことは燈香からストップがかかり、つっこみどころのある流れには魚見が言葉を挟む。多少の居心地の悪さを感じつつも賑やかな昼休みを過ごせた。


 楽しかったのはカフェテラスを出るまでの間だけ。部屋に戻った後もルームメイトとの会話はなかった。


 午後からはスキー講習。ルームメイトとゲレンデに出たいところだけど二人はソシャゲに夢中だ。声をかけても昼休み前の二の舞になるのは目に見えている。


 案の定二人はスノーウェアを身にまとうなり燈香に消えた。俺もレンタルしたスキーウェアを身にまとって一人部屋を後にする。


 ゲレンデに出て肌寒い空気を吸い込んだ。真っ白な地面に靴裏を刻み、レンタルした板を雪の地面に立ててポツンとたたずむ。


 スキー講習では、個人の滑れる度合いでコースが分けられる。


 丸田はいない一方で燈香や魚見が同じ班だ。スキーではリフトの順番待ちをする時間もある。女子グループの会話に忙しくてこっちには来ないだろうけど、いざという時の避難先があるのはありがたい。


 ほっとしたのもつかの間。集合場所には浮谷さんの姿もあった。視線が交差するなり「げっ」と言いたげな表情を向けられて、俺は苦々しく口角を上げる。


 いっそ浮谷さんと同室の方がやりようはあったかもしれない。好きの反対は無関心なんて言葉をよく耳にするけど、相手が無関心だと距離の詰めようがない。またあの部屋に戻ると思うと億劫になる。


 男子グループがゲレンデで雪合戦を始めた。わいわいしながら雪玉をぶつける同級生はみんな笑顔。俺と違ってこの林間学校を満喫している様子だ。


 隣に丸田がいてくれたらさりげなく俺を巻き込んでくれただろうに、こういう時に限ってあいつは別のコースに割り振られている。こんなことなら丸田と同じコースを選んでおけばよかった。


 人頼りにしている自分に気がついて、俺はぶんぶんと首を左右に往復させる。


 終わったことをくよくよしても仕方ない。せっかくのスキーなんだ。気分転換のためにも楽しんで滑るのが寛容だ。


 改善すべき点を考えるのは後。集合写真の撮影を経てインストラクターとあいさつを交わす。


 開講式を終えて準備体操に臨んだ。体をほぐしてからスキーブーツをスキー板にはめ込み、インストラクターを先頭に二列を作って群れたペンギンのごとく移動する。


 経験者が集まる上級コースだけに、雪の上で尻もちをつく人影は見られない。途切れない談笑をBGMにしてリフト前に足を運ぶ。


 二人一組でリフトに乗り込んだ。凍えるような風を顔面に受けて、空を飾る雲を目尻に流す。


 高い。


 結構、高い。


 スキーは小学生の頃にたしなんだものの、あの時はたかーいとしか思わなかった。


 今はひゅんとする。雪が降り積もっているとはいえ、落下したら雪に埋もれて窒息する可能性もある。もしもを想像してリフトの安全バーを握る手に力がこもる。


 運ばれる荷物の気持ちを味わって、雪の地面に「久しぶり」代わりのスキー板を叩きつけた。ストックで地面を突いてリフトから腰を浮かせる。


 迫りくるリフトを眺めながら後続を待つ。


 滑ってよしの許可が出た。ゴーグル越しに斜面を見据えて斜面にスキー板の重みを乗せる。

 

 雪景色が後方へ流れるにつれて風に顔を叩かれる。


 滑るのは数年ぶりだけど意外と体は覚えている。足の内側に重心を集めてくねくね動き、一回の走行をできるだけ長引かせようと試みる。


 視界の隅に長身が映った。胸の奥でメラッとしたものが込み上げて蛇行を中断する。


 視界の隅でスキーストックが揺れ動く。


 俺はさりげなくスキーストックを振り上げて地面を突いた。長身を視界外に追いやってスピード感のある滑走に臨む。


 再びスキーストックの先端がちらついて横目を振る。

 

 浮谷さんと目が合った。

 

「何でそんなに急いでるんだよ」

「急いでねーし。俺はスピーディーが好きなんだよ。お前こそさっきまで蛇行してたくせにどうしたんだよ? 便所か?」

「そんなものスノーウェアを着る前に済ませてきたよ」

「そうかよ」


 後ろから抜かれてまた抜き去る。


 前に出られて、また前に出る。


 雄叫びを上げて雪の地面を突きまくった。平らな地面に二本の線を引いて、俺は悠々と両腕を掲げる。


 外気は寒いのに、体はお風呂に浸かっているみたいにあっつかった。


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