第68話 独りの食事
昼食はバイキング形式だ。同級生がお盆の両端を握って列を作り、自分の順番を待って友人と談笑を交わす。
例にもれずルームメイトの三人も列に並んだ。俺はその後ろについて、目の前で語られる内容を黙々と耳に入れた。
好きな料理を好きなだけ盛ってマイメニューを作り上げた。さながら子供のおもちゃ箱じみた皿でお盆の上を飾り付ける。
昼食の皿が完成した頃には三つの背中が消えていた。カフェテラス内を見渡して、ついさっきまで眼前にあった人影を見つける。
別にいいとは言われたものの、ここまで距離を突きつけられると歩み寄る気にはなれない。
俺は空いている席に腰を下ろした。小さくいただきますを口にして箸を握る。
左右前に人のいない、孤独な食事。こういう場で口にするのはいつぶりだろう。燈香たちと交流する前だろうか。
賑やかな食事に慣れた今では寂寥感を覚える。当時は何をしながら食べ物を口に入れていたっけ。周囲の賑わいが俺を哀れんでいるように思えてくる。
こんなことならスマートフォンを持ってくればよかった。さっさと食べ物を胃に詰めてしまおう。
「敦」
名前を呼ばれて振り向いた。燈香の笑みを目の当たりにして口角が上がる。
「燈香か。今昼食?」
「うん。ルームメイトと一緒にね」
燈香が後方に視線を向ける。魚見の他に知らない三人が並んでいる。
「見たところ敦は一人みたいだけど、ルームメイトは?」
「別の所で食べてる」
「別って、ルームメイトだよね?」
「ああ」
燈香が悩まし気に小さくうなる。
答え方を間違えたかもしれない。
どうにかして話をずらせないかと考える内に、燈香の後ろにいた女子が足を前に出した。たぶんクラスメイトだ。
「ねえ、萩原って秋村さんと別れたんだよね?」
「え、ああ。ずいぶん直球で来るんだな」
「遠回しに言っても仕方ないじゃん。ねえねえ何で別れたの? 燈香くらい良い物件なんてそうそうないっしょ?」
「ちょっと咲季!」
燈香が抑えめに声を張り上げる。
名も知らぬ女子が気にした様子もなくからっと笑った。
「いいじゃん終わったことなんでしょ? 最近あんたに興味出てきたんだよねー。あ、隣いい? 座るね」
「じゃあたしこっちー」
俺が許可を出す暇もない。左右の椅子が引かれて両手に花が実現した。
これが陽キャか。俺もこれくらいグイグイいけば、今頃ルームメイトと楽しい昼食にありつけていたんだろうか。
「どったの? 燈香と魚見も座りなよ」
俺も話しかけられた二人に視線を向ける。
何故か二人とも目を細めていた。
「敦さぁ」
「私がどうこういう権利はないと思うけど、節操無しなのもどうかと思う」
「え、何? なんで俺責められてるの?」
返答はない。燈香と魚見が正面の椅子に腰を下ろして箸を握る。
昼食を食べ終えるまで左右から質問攻めを受ける羽目になった。




