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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第67話 邪魔しないで


 窓の向こう側に白色が散在して周囲が騒がしさを増す。


 後方へ流れていた景観が輪郭を取り戻した。出入り口の方で炭酸の抜けたような音が鳴り響く。


 担任に続いて同級生がぞろぞろと腰を上げる。俺もクラスメイトの背中を追って外の地面に靴裏を付ける。


 トランクから自分のリュックを回収して施設の昇降口に足を運んだ。ファスナーを開けてビニール袋を取り出し、その中から内履きを引き抜いて重力に委ねる。


 スニーカーに足を差し入れて廊下の床を踏み鳴らす。制服の流れに従って講堂に踏み入り、ずらっと並ぶチェアとすれ違って奥で腰を下ろす。


「あーあーマイクテス、マイクテス、フフンフーン」


 独特なマイクテストに遅れてあちこちで笑い声が上がった。和やかな雰囲気に続いてちょっとした注意事項が伝達され、今度は講堂内から廊下にはける。


 早足で一人廊下を突き進む。


 同室の二人とは初対面に等しい。面識のない相手に異議申し立てするのは勇気がいる。実質先着順で寝る場所や荷物置き場が決まる。


 一着を狙う他なし。しおりに割り振られた部屋の前で部屋番号を確認し、一応ノックをしてドアの取っ手に指先をかける。


 俺が一着だった。早速スニーカーを靴棚に収めて、下ろしたリュックの底でそっと床を鳴らす。


 体操着に着がえ終えた頃にドアが開いた。二人と小さく会釈を交わしてリュックのそばに腰を下ろす。


 スマートフォンは握らない。俺はリュックを漁る風を装い、声をかけられる余地を残して二人を視界に収める。


 同室の二人は仲が良い。グループが固まってちり積もった今、新しく中に入るのは簡単じゃない。


 だからこそ変化球だ。二人が趣味の片鱗をさらした時、その趣味を取っかかりに取り入る。晴れて楽しい二泊三日を過ごす腹積もりだ。


 二人が談笑を交わしながら体操着を手に取った。のそのそと身なりを変えてスマートフォンを手に取る。室内の空気に伝播する音を耳にして、二人がゲームを始めたことを悟る。


 ソシャゲと言うやつなのだろう。


 たしなみがないから分からないけど訊くことはできる。俺は興味を持った体を装ってそーっと歩み寄る。


「何して――『ごめん邪魔しないで』」

 

 拒絶の言葉を受けて足を止めた。行き場を失った微笑みがこわばる。


 取っ掛かりは失われた。俺はきびすを返して自分のリュックの元に戻る。


 二人がゲームに熱中している間は声をかけることもできない。


 しおりのページを開いて次の予定を確認し、自分のスマートフォンを取り出して液晶画面とにらめっこする。


 二人が動く気配を感じて液晶画面から視線を外す。


 時刻からして昼食をとる頃合いだ。俺は遠ざかる二つの背中に声をかけた。微笑に努めて一緒に昼食を摂る許可を求める。


「え、別にいいけど」


 それだけ告げて二人が内履きに足を差し入れた。ルームメイトが俺を待つことなくドアを開けて廊下に消える。


 そそくさとスニーカーに足を通して後を追い、遠ざかる二つの背中に続く。


 カフェテラスに踏み入るまでの間、二人は一度も後ろを振り向かなかった。


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