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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第63話 一緒に寝てあげようか?


 今年の内に試験はない。終業式前にあるのは楽しいイベントだ。


 すなわち林間学校。一時的に勉学から解放されて、スキー合宿の名のもとに同級生が集って生活する。


 昼はグループ仲間とまっさらな雪の上を滑って、日が落ちたらルームメイトとてんやわんやする。


 一年の頃の俺ならずる休みする方法を考えたかもしれないけど、今は待ち遠しくて仕方ない。


 ついに班決めの日を迎えた。


 何も心配はしていない。班は仲のいい生徒が集まって形成される。


 ルームメイトは男子のみ。燈香や魚見と同じ部屋に泊まることはできないけど俺には丸田がいる。ムードメーカーのあいつがいれば、大して親しくもないクラスメイトとも仲良くやれる。


「悪い萩原、俺あいつらの班に入る約束してたんだ」


 梯子はしごを外されたような感覚に陥った。


 あり得ない。これ現実?


 丸田以外に仲のいい男子はいない。俺はどこの誰と組めばいいんだ?

 

 燈香と別れたことが広まったことで、クラスメイトから俺への印象は多少改善された。


 あくまで嫉妬や疎みによるマイナスがプラマイ0に戻っただけだ。率先して俺と同じ部屋になりたがる男子はいない。


 俺は余りものとして三人の班と合流した。ろくに会話したこともない三人とあいさつを交わしてルーム内での役職を決める。


 全ての班が定められて自習タイムに移った。机の上に問題集を広げて深く嘆息する。


「大きなため息だね」


 振り向いた先で魚見と目が合った。


「一気に萎えたからな」

「何で? 林間合宿だよ? 勉強から解放されてスキーを楽しめるんだよ? 最高じゃん」

「知らない人と組まされるんだぞ? 心労だらけだよ」

「仲良くなればいいじゃん」


 それができれば苦労はしない。誰とでもフレンドリーを演じられる魚見には分からないだろう。


 話題を逸らすべく問いを投げかける。


「魚見は燈香以外に仲のいい女子いるのか?」

「何その問いかけ、失礼だなー」

「悪い、言い方を間違えた。燈香以外に心を許せる友人いないけど、燈香が他の女子と絡んでる間はどうするつもりなんだ?」

「大して意味変わってないし。別に暇なルームメイトと会話すればよくない?」

「この陽キャめ」


 だからそれができたら苦労しないんだよ。そんな鬱憤うっぷんを視線に乗せる。

 

 届け、この想い。


「ねえねえ何で今私ディスられたん?」

「そうなのか? 許せないな。誰だ魚見をディスったのは」

「お前じゃい」


 左頬をつままれた。


 痛くない。


 痛くないけど、他の男子からの視線が痛い。


「まあコミュ力のある魚見には分からないよな」

「またそんなこと言ってる。柴崎さんや浮谷さんと仲良くなったじゃん。あの時みたいにすればいいのに」

「柴崎さんはともかく、浮谷さんと仲良くなったのか俺?」


 全く自覚がない。浮谷さんには面と向かって嫌いと言われたし、むしろ嫌われてるまである。


 でも事情を説明すると色々明かさないといけないし、そういうことにしておこう。


「夜中にお勧めのゲームってある?」

「ゲームするの? 会話でよくない?」

「よくない。仲良くなれるゲーム教えて」

「んーじゃあトランプ」

「三人でやるのか?」

「ソシャゲでいいよもう」

「真面目に考えてくれよ」


 見ず知らずの三人と同じ部屋で二泊するんだ。彼らが談笑する中で独りソシャゲしてたら心が死ぬ。


 魚見がそっと顔を近付けた。


「そんなに嫌なら、林間学校の間私が一緒に寝てあげようか?」


 耳元でささやかれた。甘い吐息に愛撫あいぶされて思わず息を呑む。


 桃色のくちびるが緩やかに弧を描いた。ふっと笑む魚見が妖艶に映って、俺は机の天板に肘杖を突く。さりげなくを装って耳たぶの火照りを手で隠した。


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