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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第56話 信じる者はすくわれる


 念のため魚見にGPSアプリと防犯ブザーアプリを入れさせて、その日は改めて魚見を送った。


 魚見は物部さんに言葉をぶつける勇気がない。ひとまずは穏便に事をすませる方法を考えることにした。 

 

 それが中々難しい。

 

 物部さんは俺を魚見の彼氏と推測して、乱暴な連中をけしかけてきた。


「俺にしときなよ」。このセリフを口にした物部さんのやっべ俺かっけー! みたいな顔は今でも鮮明に思い出せる。


 俺が彼氏と嘘をついても、きっと物部さんは似たことを繰り返す。


 二股要求くらいなら可愛いものだけど、自作自演がエスカレートしたらたまったものじゃない。次は歯の一本くらいは折られる可能性が濃厚だ。


 友人にも意見を仰ぎたいところだけど、この件を相談すると必然的に魚見の事情を明かすことになる。燈香と丸田は部活所属者。暴力沙汰になり得る事案には巻き込めない。


 魚見は役者業に陰を落としたくないみたいだし、警察への相談は最終手段に据えた。物部さんにもスケジュールがあるからしばらく手出しはしてこないはずだ。


 日常を侵されては本末転倒。ひとまずは期末試験に向けてシャーペンの先端を走らせた。


 懸念事項はあれど日々の積み重ねは裏切らない。友人には転んでくちびるを切ったと嘘を付いて期末試験の初日に臨んだ。


 試験は満足する出来だった。食堂に踏み入って友人と賑わいに混じり、試験の出来を肴にして昼食を腹に収める。


 一服して燈香たちと別れた。魚見と肩を並べて、予約しておいた学習室に足を運んだ。通学カバンの蓋を開けて勉強道具を引き抜く。勉強机の天板を筆箱と問題集で飾る。


「萩原は試験集中できた?」

「それなりには。魚見は?」

「私はいつも通りにはできなかった」

「そうか」


 短く告げるにとどめる。


 多く語る必要性を感じない。俺は問題集とノートを開いて筆箱のチャックを開ける。

 

「萩原ってああいうトラブル慣れてるの?」

「慣れてるわけないだろ。どんな高校生だよ」

「だよね」

 

 魚見が小さく苦笑する。


「でも何度かあったんじゃない? 燈香絡みで」

「まあ妬まれたことはあったな」

「その時はどう対処した?」

「特に何も。何言ったって無駄なのは分かってたし、俺は俺で燈香についていくのがやっとだったからな」

 

 それが燈香の重みになっていたなんて思いもしなかったけど、勉学や資格の勉強をする間は余計なことを忘れられた。燈香との関係をそこそこ良い感じに終わらせられたのは、互いに気持ちに余裕があったことが大きかったのかもしれない。


「のろけかよ」


 魚見に瞳をすぼめられた。


「元カノののろけ話をしてどうするんだよ」

「あーあ、結局別の男たぶらかすしかないのかなぁ」

「懲りないなお前も。恋愛とはいかないまでも、役者の仕事に夢中になればいいんじゃないか?」

「どういうこと?」

「ほら、読書はストレスを緩和するっていうだろ? それと同じだ」

「そんな話聞いたことないんだけど」

「とにかくそういう説があるんだよ。思い込め、ノンシーボだ。何かに夢中になれば嫌なことを頭の中から追い出せる」

「嘘っぽいなぁ」

「じゃあ信じる者は救われるでもいいや。俺を信じてやってみろよ」

「宗教すら信じたことないのに、クラスが同じだけの男友達を信じろってのもねぇ」

「いいじゃないか。魚見は俺を信じて助けを求めたんだろ? ある意味もう信じてるみたいなもんだ」

「それ屁理屈って言わない?」

「屁理屈もまた理屈って偉い人が言ってた」

「理屈っぽいねぇ。燈香はどこを好きになったんだか」

「理屈っぽいところじゃないか?」

「はいはい」


 嘆息混じりのあいづちに次いで、端正な顔立ちに微笑が戻った。自然と俺の口元も緩む。


「あの、しゃべるなら別の場所行ってくれませんか?」

 

 見ず知らずの生徒に叱られた。この場は学習室。基本的に談笑は禁じられている。


 非は俺たちにある。雑談したことを詫びて学習室を後にする。


 ファミレスに行かないかと提案されて、俺は首を縦に振った。


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