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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第49話 バレーボール


 女子バレーは小体育館で行われる。大体育館と比べると収容人数は抑えめだ。


 抑えめと言っても百人くらいならすっぽりと収まる広さはある。イベントの際には全クラスの同級生が集まることもたびたびあった。


 決して小さくないそのスペースが埋まっている。


 同学年だけじゃない。一年生や三年生も男女問わず集まっている。彼らの視線と会話内容を耳にすると、燈香たち目的なのはすぐに分かった。


「やっぱ人気だな。決勝でもないのに」

「そりゃ燈香に魚見だからな。時の人が同じチームで出るっつったら一目見ようと思うだろ」


 丸田が体育館内を視線で薙いだ。観戦の位置を提案されて背中に続く。人工密度の薄いところに位置取って視界開始を待つ。


 コート内に選手が並んだ。燈香たちが相手選手とネットをはさんで一礼する。電子音に遅れてボールが放り投げられ、エンドラインの外に立つ女子が右腕をしならせる。


 体育の授業で何度も見てきた光景。女子がやると一段と華やいで見える。


 特に今回は燈香や魚見がいる。頭の後ろで結われた髪の尾が体の動きを追って、ボールよりもこっちを見ろと主張している。


「やっぱいいよなぁ」


 隣のつぶやきには同意しない。にへらとした丸田に同調したら何か負けた気がする。


 優雅な人影がエンドラインの外に立った。顔の前でボールを浮かせ、すらっとした腕をしならせる。


 観客の視線がその流麗なフォームに釘付けにされた。いくたもの視線を魚見が独り占めする中、相手選手が悠々とネットを越えたボールを迎え撃つ。


 その処理はうまくいかなかった。腕との接触でボールが後方の壁にぶつかる。


「あの子穴だな」


 丸田のつぶやきが喧噪に混じった。


「穴って守備が弱いところだっけ?」

「ああ。全員がバレー部所属とはいかねえから仕方ないけど、これ真剣勝負だからなぁ」


 同情するような声色は試合の行く末を物語っているみたいで、俺は再びコートに視線を落とす。


 俺の脳裏にも似たような未来図が浮かんでいる。勝つために相手の弱点を打つのは常套手段だ。魚見がそれを見逃すとは思えない。


 案の定魚見が同じ選手を狙ってサーブを打った。またボールが変な軌道を描いてエンドラインの外に出る。


 繰り返し魚見によるサーブが続く。


 さすがにゲームエンドまではもっていけなかったものの5点はもぎ取った。結局その点数差が埋まることはなく、その試合は俺たちのクラスが逃げ切った。


 試合終了の一礼を終えて、燈香たちが魚見のもとに集まる。


 労いを経て魚見が仰ぐ。


 黒い瞳と目が合った。小さな顔が弾けんばかりの笑みで満たされ、ほっそりとした指がVサインを描く。


 こっち見たぞ。視界の両隅を彩る男子が色めき立って友人と顔を見合わせる。


 俺は自分を自意識過剰とは思っていない。燈香や柴崎さん以外に明確な好意を向けられたことはないし、自分がモテるととも思わない。


 それでも要因が重なりすぎている。二人きりでの仮装選び、一時間前呼び出しからのお菓子感想要求、教室での意味深な発言。いずれも俺が燈香と別れてから始まった出来事だ。意識しない方が難しい。


 耳たぶがお風呂でのぼせたように熱くなって、俺は顔を逸らす。


 燈香や柴崎さんの件でまだ心の整理がついてないのに、勘違いしたらどうしてくれるんだ。

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