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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第48話 じゃあ頑張っちゃおうかな


 球技大会の日がやってきた。全校生徒が体操着をまとい、一種の一体感を出して教室にたむろする。


 予定されたプログラムに従って生徒が出入りする。クラスの勝利のために行って帰って来るさまは、国のために出兵して凱旋する兵士のようだ。

 

 スポーツと言えばオリンピック。オリンピックと言えば平和の祭典だ。かつては宗教的な理由で行われた催し。物事の発展に争いは付き物と聞くけど言い得て妙だ。


「萩原はバレーだよね」


 魚見が歩み寄ってきた。前の椅子を引いて主の許可もなく腰を下ろす。


「ああ。バレーを選んだよ」

「何でバレーにしたの?」

「理由は色々あるけど、強いていうなら活躍の機会を得やすいからだな」


 俺だって選手として出場する以上は活躍したい。だがサッカーやバスケは選手がばらつく。ボールは仲のいい友人の中で回されがちだ。ろくにボールに触れることなく試合が終わりかねない。


 その点バレーボールはポジションが決められている。ポジションごとにやれることが定められている都合上ボールの行き先は相手次第だ。俺にも等しくチャンスが来る。


「チャンスの機会かぁ。そんなこと考えたこともなかったなぁ」

「魚見は他の女子に頼られそうだもんな」

「まあねー。何もしなくてもボール集まってくるよ。主役になったみたいで体育の時間楽しみなんだよねー」」

「羨ましい限りだな。俺もそんなふうに頼りにされてみたいよ」


 こういう時運動部に属している奴は得だ。女子も試合の際には駆け付けるだろうし、ばったばったと相手選手を薙ぎ倒せば一躍有名人だ。


「そんなに頼りにされたいの?」

「そりゃな。短距離走二位であれだけもてはやされたんだ。球技大会で活躍すればヒーロー間違いなしだろ」

「うわーそんなにモテたいんだ。俗物ぅー」

「何とでも言え」


 モテたいのは男の夢だ。女子からすれば色々思うところはあるだろうけど、好意を向けられて悪い気はしない。女性だってイケメンから好きと告げられれば気分は浮き上がるだろう。いわば人間の本能だ。


「他の子で満足できるの?」

「と言うと?」

「燈香と付き合ったでしょ? あれだけ綺麗で可愛い女の子なんてめったにいないと思うけどね」

「恋愛はその二つだけが全てじゃないだろ」

「スタイルとか?」

「それもあるかもしれないけど、見た目だけだったら長続きしないじゃないか。俺は一緒にいて充実できる人と一緒にいたい」


 燈香との交際で、俺は未知に挑むチャレンジ精神を手に入れた。


 柴崎さんとの付き合いでは、ともに知識を深められる快楽を知った。


 みんな違った魅力がある。綺麗可愛いスタイル良しだって、それぞれ違うベクトルがある。表面的魅力だけで弾くのはもったいないと俺は思う。


「ふーん。モテない人の発想だねぇ」

「ほっとけ。どうせ俺はまぐれモテ野郎よ」


 とっかえひっかえで自分に合う人を探す方が良効率なのは分かる。でもそれはモテる人の特権だ。小学生じゃあるまいし、体育祭の短距離二位で好意を抱く女子なんて存在が奇跡だろう。


「そっか。じゃあ頑張っちゃおうかな」

「え?」


 魚見が椅子から腰を浮かせた。ヘアゴムを取り出して両腕でくの字を描き、頭の後ろで髪を結い上げる。


「そろそろ行ってくるよ。勝ってくるから見ててね」

「あ、ああ」


 魚見が微笑みを残して廊下に消える。


 丸田に女子バレーの観戦を誘われるまで、俺は魚見が残した言葉の意味を考えた。


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