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倦怠期カップルは思い出す  作者: 原滝飛沫
3章

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第46話 悪女の素質


 一組の男女が教壇を踏み鳴らした。白いチョークを握って黒板に先端を叩きつける。


 既視感のある光景だけど、今回行われるのは球技大会の種目決めだ。バスケやバレー、サッカーの文字が連ねられて立候補が募られた。


 一人必ず一種目以上が定められている。


 俺はバレーに立候補した。テンポよく決まって自習時間が設けられる。


 休み時間を迎えるなり燈香たちが寄ってきた。事前に体育館の使用許可を申請していたらしい。お昼休みにバレーボールの練習をする約束をした。


 そして迎えたお昼休み。弁当箱を持って教室を出た。下へ続く段差に足の重みを乗せて、友人と踊り場に靴音を鳴り響かせる。

 

 食堂の賑わいに混じって椅子に腰を下ろした。燈香と丸田が縄張り主張のためにハンカチをテーブルの天板に並べる。


 俺は二つの背中を見送って弁当箱の蓋を開ける。


 端正な顔立ちがずいっと寄った。爽やかな甘い香りに鼻腔をくすぐられる。


「あ、ハンバーグだ! おいしそー!」

「魚見はハンバーグ好きなのか?」

「うん。というか嫌いな人いないんじゃない?」

「万人に好かれそうな料理だもんな。さすがに全員が全員好きってわけじゃないだろうけど」

「ねーねー半分ちょうだい?」

「半分って大きく出たな。見返りに何をくれるんだ?」

「やだー見返りだなんて、萩原のえっち」


 軽く右肩を叩かれた。


「そのネタもういいから」


 苦々しく口角を上げて箸を握る。


 ささいなことでからかわれるのは手の上で転がされているみたいだ。恥ずかしいような、照れくさいような、何とも言えないこそばゆさが不思議と心地良い。


 燈香と付き合っていた頃はこんなじゃれ合いをしなかった。関係性はただの女友達だけど、これはこれでいいものだ。


 魚見も蓋を開けて弁当箱の中身を覗かせる。真っ白な白米に卵焼き。瑞々しい野菜にトマトが丸みのある容器を鮮やかに彩っている。弁当のお手本のような様相だ。


「魚見って感じの弁当だな」

「それどういう意味?」

「深い意味はないよ。ただの誉め言葉」

「全然そうは聞こえないんだけど」

「信じろって。もしかしてそれも魚見が作ったのか?」

「よく分かったね。萩原エスパーに目覚めたの?」

「実は……はい」

「はいってなにー?」


 整った顔立ちが可笑しそうに破顔する。ただのイエスがツボに入ったらしい。魚見の笑い声が十秒近く続いた。


 細い指が笑い涙をさらう。


「あー笑った。萩原って意外と面白いやつだよね」

「面白いやつってなんだよ。俺はいつも大真面目なのに」

「大真面目な人間が実はエスパーですなんて言うわけないじゃん。やっぱ面白いよ萩原」

「面白いなんて今日初めて言われたよ」

「そう? 一年の頃に言われたことあるんじゃない?」

「笑い者にされた時のことを言ってるのか? あれは面白がられただけだろ」

「他のクラスメイトはそうかもしれないけどさ、面白いって言っても色んな種類があるじゃない? ほら、なんだっけ。漫画によく見る表現」

「おもしれー男?」

「そうそれ……普通女じゃない?」

「そこら辺どうでもいいだろ。おもしれーことに違いないんだから」

「まあいいや。とにかく私はおもしれー男だなぁって思ったよ? あの件が起こるまでは萩谷のこと地味な男子だなーって思ってたし」

「正直に言うなぁ」


 思わず苦笑する。


 俺も地味な自覚はあった。魚見は俺をからかいこそしなかったものの、認識としては道端の石に等しかっただろう。


 好きの反対は無関心なんて話はよく聞く話だ。当時のクラスメイトで最も距離があったのは魚見だったに違いない。


「でも、今の萩原はすごくいいと思うよ」

「え?」


 魚見が体を前に傾けた。俺の顔を覗き込むように上目遣いを向ける。


 飾りのない微笑にどきっとして、俺はとっさに視線を逸らす。


 そういうからかいはやめてほしい。普段おちゃらけた感じの魚見にそれをやられると勘違いしそうになる。

 

 この女友達、振る舞いに違わず悪女の素質があるのかもしれない。


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